表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/125

91

「すげえ、プレデターみたいだ……」

〔有り得ない。無人ヘリのデジタルデータならともかく、肉眼で見ているものが消えるなど――待てよ、再帰性反射材を使っているのか? いや、それならカメラとプロジェクター、画像処理用のコンピュータが必要になるはずだが、そんなもの、どこにも見当たらない。一体全体、どうなっているんだ〕

 2ちゃんねるは狼狽えていた。アイダンがファスナーを下ろすと、彼の身体は可視状態に戻る。

〔光波を曲げているのか? そんなものブラックホール並みの重力でもなければ……あっ〕

 ――どうした?

「メタマテリアルか」

 これも2ちゃんねるの発言だ。

「当たらずとも遠からずといったところだな。いやはや、君の博学ぶりには恐れ入ったよ」

「銀とフッ化マグネシウムのウェハー構造が光の屈折率を変えることは知っているが、隠蔽可能なのは微小粒子サイズまでだろう?」

「君の認識は正しい。ダーパはメタマテリアルをアシンメトリック・マテリアルまで発展させた。だが、屈折率を自在にコントロールできない限り物は消えない」

 僕は言った。「曲げられないものなら吸い込んじゃうとかは? あはは、それはないか」

〔なんだと?〕

「君はどうしてそれを……」

 冗談のつもりだったが、2ちゃんねるとアイダンから、思わぬ反応が返ってきた。

「言っておくが」アイダンは挑むような眼になった。「これは〝彼〟の知識のほんの一部に過ぎない。それがわかったくらいでいい気にならないでもらいたい」

 当てずっぽうだし、いい気になんかなってないのに――。

〔こいつがデイヴィッドに従わないのは〝彼〟とやらの知識に心酔しきっているせいだな。そして、あいつ――〕

 僕の眼は勝手にブレンダンを見る。ホキイの肩に置かれた彼の手には親近感以上の親しみが込められているように煮えた。

〔あいつはゲイだ〕

 ゲイの方々への差別意識はないが、個人的嗜好は同好の士限定で発揮されるのが望ましい――ホキイの引きつった笑顔を見て、僕はそう思った。

 ――デイヴィッドに同調しないという意思決定がイデオロギーによるものでないとなると……。

〔こいつらが敵に回る可能性もなきにしもあらずってことだな〕

 ――うん、注意しよう。

 僕の視線に気づいたブレンダンが、少し気まずそうな顔で近づいてくる。

「念のため、君もこれを着ておいてくれ」

 自分のバックパックからアシンメトリック・マテリアルを更に発展させた素材でできたスキーウェア――長いので『見えない君』と呼ぼう――を手渡してくる。受け取ったそれはズシリと重い。

「君たちはこんなものを着て歩いてたのか……」

「俊哉も慣れるさ」

 ブレンダンのウィンクから僕が学んだのは〝世の中には決して慣れたくないものだってある〟ということだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ