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「やあ、君が神内俊哉君だね。初めまして、アイダンだ」
丸太小屋にはいると別のイケメンがつかつかと歩み寄って手を差し出す。人懐っこい笑顔に、僕はうっかり握手に応じてしまった。小屋にはイケメンがもうひとりと美女がひとり。そして彼らは、全員が流暢な日本語を操る。アリスを含めた四名とも機内では見なかった顔で、外の連中のように、〝古い脳の持ち主〟である僕を見下した感じはない。極めてフレンドリーに接してくれた。
「アビゲイルよ」
「ブレンダンだ、よろしく。外の四人にはもう逢ったね? ここにはこの八名がはいっている」
名前を聞いてなかった外のふたりはチャックとクリスだと教えられた。
通信機器やパソコン、他にもなにに使うかわからない機器が6メートル×3メートルの室内に所狭しと配置されている。壁はさっき見たような航空写真や地図、更には英語で、数字で、矢印で、と書きなぐられたもので埋め尽くされていた。アイダンもブレンダンも185センチはあろうかという長身で、おとな六名が一同に会するには、少々狭苦しく感じられる。僕に民間企業での勤務歴はないが、〝成果至上主義〟の営業オフィスを垣間見るような気がしていた。
彼らの視線が集まるなか、『雷雲は起こせないのか』と言われる前に僕が訊ねた。
「いま、雨が落ちてきたけど雷雲は発生しそうなのかい?」
「いや……」
アイダンが表情を曇らせる。
「通り雨でしょうね。今日は少し天気が崩れる程度で、明日以降は快晴が続く予報よ」
キーラ似――セジウィックではなくナイトレイのほう――のアビゲイルが後を引き取って言った。パソコンのモニターに映っているのは気象モデルのようだ。
「じゃあ、僕はどうすれば?」
「トレーラーハウスをひとつ空けてある。一番、奥のヤツだ。指示があるまで休んでいてくれ」
「ありがとう。行こうか」
アイダンに礼を告げ、ぎこちなく知世の背に腕を回す。
「先に行ってて、わたしは彼らと話がある」
「あっそう、じゃあ後で」
今回は僕にもやることがあった。
「予報はあくまでも予報だ。準備だけはしておくべきじゃないのか」
ブレンダンの声を背中で聞きながら僕は小屋のドアを閉めた。
愛ちゃんの様子も気になるが、この作業は知世にも見られたくない。巨大な座薬のような形のトレーラーハウスにはいった僕はドアに鍵をかけ、R・E・Iで買ったバックパックを逆さまにして中身をぶちまけた。
〔一枚きりしか入ってないようだな。慎重にやれよ〕
――任せとけって、こう見えて手先は器用なほうなんだ。
僕に絵心というものはまったくないが、工作には自信がある。知能テストに出題されるような立体と展開図の照合は間違ったことがない。僕の早とちりは、空間認識能力の高さが生んだ弊害だったのだ。




