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 ――俊哉はなんのために呼んだの?

 ――さっきも言ったように、戦力が必要になった。プランBを実行に移すとなれば尚更でね。せっかく見つけ出したこいつらを使わない手はない。稲妻の誘導――凄いじゃないか。活動の脅威となるハープは早めに破壊しておくに越したことはない。チリでは高温を発する女も保護している。訓練次第では炎を起こすことも可能ではないかと思う。戦力として、研究材料として、せいぜい有効活用させてもらおう。

 ――彼らを思いどおりにできるとでも思っているの?

 ――当たり前だろう。見ろよ、こいつの惚けた顔。いまなら、なんだって僕の言うとおりになる。

〔おい、しっかりしろよ〕

 ――うん? なんだって?

〔眼え開けて寝惚けてんじゃない!〕

 あたっ!

 2ちゃんねるの叱咤と同時に電撃が飛んできた。

「僕は保護対象じゃなかったっけ?」

「いつまで、そんな小芝居を――」

 薄笑いを貼り付かせたままデイヴィッドは僕に顔を向ける。僕は空になった両手を上げた。

「なっ……」

 それを見て、デイヴィッドは顔を強ばらせた。

「俊哉にはね」知世が悠然と微笑んで言った。「意識操作が効かないみたいなの」

「そっ、そんな人間が――」

「いるのよ、ここに」

 イケメンが狼狽えるのを見るのは心根の貧しい僕には気分のいいものだ。だが、デイヴィッドはすぐに形勢を立て直して知世に言った。

「だからといって、状況はなにも変わらない。プランBへの移行に応じなければ俊哉とその女の子は保護対象から外される。君ひとりでどれだけ隠し切れるものかな」

「アラスカなら行くよ」

「えっ!」「なんですって?」〔なんだって?〕

 デイヴィッドと知世、それに2ちゃんねるまでが驚きの声を上げた。

「あの変な地震の原因がハープなのは間違いないんだろう?」

「ええ、でも……」

「だったら僕は行く。行ってなにができるものかはわからないけど、兵器開発のためなんかで、ひとが死ぬのはもうたくさんだ」

 亜美や竹内さんが犠牲になったらと思うとやはり哀しい。ダーパの横暴や日本政府の弱腰にも頭に来ていた。だが、一番の理由は――。

「そうすれば僕たちの保護は続けてくれるんだよね」

「あ……、ああ、勿論だ」

 デイヴィッドは面食らったような顔で答えた。

「アラスカは不案内だし、僕は英語が喋れない。彼女についてきてもらっていいかな」

 僕は勇気を出して知世の背中に手を回した。

「いいだろう」

 偽りの家族だろうがなんだろうが、僕は知世や愛ちゃんと離れることなどできなかった。

 その時、ドアがノックされ、タイタニックコンビが戻ってきた。部屋の張り詰めた空気を気にするふうでもなく、デイヴィッドに封筒を手渡し、早口の英語でなにか伝えている。知世と手が離れた僕に聞き取れたのは『アドヴァンス』だけだった。

「任務を終えたら、また話し合おう。十五時四十分発のアンカレッジ行きにチケットを変更した。搭乗者名簿にアジア人の名前はない」

 封筒の中身は航空券だったようだ。知世はそれを奪い取るようにしてバッグに入れる。

「いいわ」

 知世は愛ちゃんの顔を覗き込んで言った。「ごめんね、大きな声を出して」

 太腿にしがみついていた愛ちゃんは僕を見上げ、そして知世に抱きついていった。

「ママ、だーいすきっ!」

〔せっかく洗脳を解いてやったのに――〕

 2ちゃんねるが呆れたように言った。

 ――あ……、やっぱり?

〔おめでたい男だな。だいたい、なんでそんな嬉しそうな顔ができるんだ〕

 ――デイヴィッドに食ってかかっていった知世を見たろう? 彼女が信じられることがわかったじゃないか。

〔だが、〝彼〟とやらへの報告は思いとどまった。それがなにを意味するかわかるか?〕

 ――そりゃあ機械である火星探査機より人間同士のほうが仲間意識も強くなろうってもんさ。

〔ことは、そう単純ではない気がするが……、まあいい〕

 ヘミングウェイさんに戻った教授を連れたタイタニックコンビが部屋を出ると、デイヴィッドは車のキーを手に取って言った。

「行こう」


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