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 こう呼ばれるのは二度目だ。彼らの間で僕は『稲妻君』とでも称されているのだろうか。しかし以前述べた通り、僕は『I'm not Much good at English(正しくはAll Foreign language=全ての外国語)』だ。その僕を英語しか話せない、日本語を知っていたとしても『ウニ』くらいのハンズワース教授に逢わせてどうしようというのか。

 だが、その心配は杞憂に終わる。デイヴィッドが僕と教授の手をとると、あーら不思議、彼の発する英語が日本語となって僕の言語中枢に流れ込んでくるではないか。

 はて、こんな状況がどこかで――。デジャヴかな?

〔港島で変なおっさんに逢った時のことだろう〕

 答を呈したのは2ちゃんねるだった。

 ――はいはい、そうでしたね。

「まあ、掛けたまえ。旅はどうじゃったな」

 デイヴィッドを仲介しないと僕と教授の会話は成立しない。座る場所に迷っていると、向き合ったソファの間にデイヴィッドが椅子をすべりこませる。知世は僕の右手に落ち着き、愛ちゃんは教授が座っていたデスクでタイタニックコンビにクッキーを勧められていた。

「怪しい二人組に追いかけられました」

「ふむ……そうか。早速、対策を講じよう」

 ヘミ……、ハンズワース教授がコーヒーを煎れてくれたレオもどきになにか告げると、彼は知世から航空チケットを受け取り、ケイトもどきと共に仲睦まじく部屋を出ていった。

「そちらが例のお嬢ちゃんじゃな」

「はあ……」

 一体、どんな治療が彼に施されたのだろう。駅前に住んでいた頃の教授は完全に現実を超越なさっておられ、小学生にからかわれても眉ひとつ動かすことはなかったのに……。これが知世やデイヴィッドの能力のなせる業だとすれば、種々の精神疾患に苦しむ人々やその家族に、朗報が届く日も遠くないように思われた。

「脳に電気刺激を与えて神経伝達物質の遊離を起こすことが出来るのかと言うのなら答えはイエスだ。だが、機能を失った部位の修復はできないし、許されてもいない」

 僕の考えが伝わったデイヴィッドは彼自身の言葉で答えてきた。

「許すってのは、例の〝彼〟から?」

「そんなところだ」

「よいかな?」

 教授はデイヴィッドが言い終えるのを待って再開した。

「火星発のこのプロジェクトは、今や全世界に拡がりを見せている。保護する側、される側が一体となって新たな世界を築き上げるんじゃ。それは聞いておろうな」

 見事な吹き替えだった。幾らか動きがギクシャクして見えるのは、路上生活者時代の苦労の――変な物でも拾い食いした――せいだろう。

「はい」

「そして君が住む街では、気象兵器による実験で多くの人々が死んでいる。日本政府も見て見ぬふりをしているようじゃ。このままでは第二の沖縄にされかねん。君はそれを阻止するためにここに来たんじゃ」

「えっ! 日本政府は知っていたんですか」

 驚愕する僕にハンズワース教授は重々しく頷いた。

「属国の扱いは、いつの時代もそんなもんじゃよ」

 どこが政権与党になろうが、誰が総理大臣になろうが沖縄から米軍基地がなくなることはない。それでも選挙のたび基地移転問題をちらつかせる政党と議員候補は後を絶たない。政治家は職業で、公約はその地位を得るための手段でしかないということなのか――。

 僕は全身が粟立つのを覚えた。


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