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06

 さっぱりわからない。一体、僕にどんな素養があり、それが子孫に反映されないことが、この女性にどんな損失を与えるというのだろう。

「君、名前は?」

「そんなものどうだっていい」

「よくないよ、君が僕の名前を知っていて僕が知らないのは不公平だ」

「じゃあ『ともよ』と呼んで、知識の知に世界の世」

 おいおい、親が悩んでつけたくれた名前に、〝じゃあ〟はないだろう、〝じゃあ〟は……。

 しかしまあ、ひとを騙そうとして本名を名乗るバカもいない。

「知世さんか、僕の自己紹介は不要みたいだね」

 彼女が語った僕の身上は、友人なら誰でも知っている。アダルトビデオのタイトルだって、貸してやった連中なら、憶えていても不思議はない。発言を遮ったのは、この美女の口から『本当にあった勃●しそうな話』とか『隣に越してきたのは、いつでもノーパンの挑発娘』が飛び出るようなことになれば、焦った僕が、冒頭陳述の途中で起訴内容を全面的に認めてしまうと思ったからだ。

 ――待てよ?

 僕は新たな可能性に思い当たった。これは素人参加型のテレビ番組かなにかで、結婚を控えたカップルになんらかの実験を試みる類のものではないだろうか。そういう悪趣味な企画だとすれば、次の段階は、知世が僕を誘惑するシーン。そして僕が知世に言い寄りかけたところで番組進行係と亜美があらわれ、「彼には結婚までにここを直してもらわないといけませんね」ってな感じに……。

 だったら、早く終わらせてしまえ。僕は知世の肩に手を掛けて言った。「キミハキレイダネ、コエモステキダ」体温は上昇し、セリフは棒読みになっていた。

「眼に見えるもの、耳に聞くものだけが、この世界の真実だと思わないで」

 ほうら、来た! 番組進行係はどこから出てくるのだろう。僕は首を捻って玄関に眼を遣った。それを知世は、ぐいと捻じ戻す。息のかかる距離に彼女の顔があり、チェリーとプラムが混じった香りがした。 僕はゴクリと生唾を呑み込む。

「そうじゃないの――」

 否定の言葉を知世が言いかけた時、気の早いインタビュアーだかカメラクルーだかが、玄関のチャイムを鳴らしていた。

「百聞は一見にしかず、よ」

 席を立った僕は、背中に知世の声を聞いた。

「はいはい」

 そう言うことで、落ち着きを取り戻そうとしていた。演技を中断された知世の負け惜しみだと考えようとしていたのだった


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