表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/125

34

「進化の可能性を秘めた遺伝子保有者の保護は最終手段なの。過去にも様々なアプローチを試みたわ。自然保護団体やボランティア団体にも力を貸したし、サブリミナル刺激を使って、大衆の啓蒙を促したこともある」

 最終手段と言うからには……「上手くいかなかったのかい? 君たちの力をもってしても」

「わたしたちが運動の中心になる訳にはいかない。リーダーの素養に恵まれたひとを見つけ、テーマと運動の意義を意識に埋め込むの。でも、ひとは組織の上位に立つと本来の目的意識をなくし、自己愛性人格障害に陥ったような行動をとり始める」

〔組織ってのはね〕2ちゃんねるが口を挟む。〔肥大が迷走を呼ぶんだ。文殊の知恵が期待できるのは三人まで。理念は失われ、活動は発動心を稼ぐためのものに置き換わる〕

 ――そうかもしれない。

「そして人気のあるテレビ番組は低俗過ぎる。サブリミナル映像を挟み込むのも気が引けるほどだった。枯れ木も山の賑わいを地でいく学芸会レベルのあれが、なんで高視聴率なのかが理解できない」

「そっ、そうだよね」

 その番組がなんなのかはすぐにわかった。彼女達のコンサートに行ったことがある僕は、裏切り者と呼ばれても仕方ない。

「人々は何事にも無関心で、簡単なメッセージ以外、受容できない脳になってしまっているの」

「君たちの遺伝子も保護対象にはいっているんだよね」

「いいえ」

「えっ、なんで?」

 意識の退廃が進んでしまった現代人が、ニ~三世代で進化できるとは考えにくい。頭脳明晰で容姿端麗、その上、進化の先取りをしたような知世たちの遺伝的、生殖的協力あってこそ到達できる領域ではないのか? 彼女が見せた不思議な力のうち、『ひとの考えを読む』だけでも人類が獲得できれば、これほど不実な社会ではなくなり、ビリー・ジョエルの嘆きだって鎮まるはずだ。僅かな食事で精力的に動き回ることができるなら食料問題も解決するだろう。なのに、なぜ……。

「今夜はもう休んで」

 知世から説明はなかった。

「うん……」

「どうしたの?」

 身体を起こしたものの寝室に行かない僕に、知世がもの問いたげな顔で言った。

「今夜は……、だめかな?」

 人類の未来について語り合ったそばから性的な欲求を口にする自分があまりにも情けなく思えたが、色んな意味で僕は若いのだ。

「このままでいい?」

「できれば、脱いでもらえると……」

 ふっと笑うように息を吐いた知世が、シルクのガウンを脱ぎ捨てる。白く引き締まった裸身が僕の眼を釘づけにした。

「じろじろ見ないで」

 知世の掌が僕のこめかみを挟むと、強烈な感覚が脊髄を駆け上がってくる。それが扁桃体を直撃すると大量のドーパミンが放出された。

 〝セックスの時、大声を出す男は信用できない〟主義の僕だが、この時ばかりは「ひえー!」と裏返った声を発してしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ