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03

 一体全体、なんだってこんな美女が僕の部屋に? 身に覚えのないセクシーなランジェリーの行方は? 僕を誰かと勘違いしているのだろうか? でも、彼女は確かに僕を俊哉と……。

「怒ってた?」

「うん、それはまあ……って、君は一体、誰っ」

 そこで僕はピンときた。親しい友人数名に、「今夜こそプロポーズをする」と宣言していたのを思い出したのだ。これは誰かが仕組んだたちの悪い悪戯に違いない。

「君は誰に頼まれてここに来たんだい? でも驚いたな、誰にせよ君ほどの美人が知り合いにいたなんて――」

 美女は、ピアニストのような白く細い指を僕の唇に押し当てて黙らせる。僕の苦手なネイルはしてなかった。

「誰にも頼まれてなんかない。わたしはわたしの意思でここに来たの。ごめんなさい、ショーツの件は嘘よ。あなたに聞いて欲しいことがあるの」

「へっ、へーえ、まあ座れば?」

 かなりの確立で僕の言動は間違っていると思う。プロポーズする予定の女性を怒らせて帰した――僕にも責任の一端はあるのだが――美女を追い返しもせず、ソファを勧めていたのだから。だが、これ程の美女に自分の意思で来たとまで言われ、その理由を確かめずにいられようか。

 これだから男は……。と言われてもいい。僕の知的好奇心は、満たされることを切望していた。

向かいのソファに腰を下ろすと、美女は「ここに来て」とでも言うように隣のクッションをパンパンと叩く。僕は自分の部屋なのに「失礼します」と言って美女の隣に座った。

 肩が触れ、膝が触れ合うほどの距離にドキドキしていた。

「驚かないで聞いてね。わたしは、あなたの理想のパートナーを探すため、地球外知的生命体に派遣されてここに来たの」

「……」

 僕は彼女の要望どおり驚かないでいてあげた。そして自分のバカさ加減に呆れ果てていた。

まだ遅くはない。この頭のイカレた女を追い出して、とっとと亜美を迎えにいくんだ。理性はそう告げているのだが、なぜだか席を立てない。

「ええと、君はどこから来たんだい?」

 こう訊いたところで「どこそこの病院の精神科に入院しているの」と言うはずはなかろう。彼女は「あっちよ」と玄関の方を指差す。確かにそうだ、この美女は宇宙船からベランダに降り立ったのではなく、玄関からはいって来ていた。

「亜美が僕を試そうとしたのかな? だったら大成功だ。僕は彼女を帰してしまい、君を追い帰せずにいる。さて弱ったぞ……、この先の結婚生活に於いて、僕が浮気をしない保証がなくなってしまった……」

 これは願望が口をついて出てしまったもので、後半は独り言みたいなものだった。だが、悲しいかな、僕の意思がどうであれ浮気はしない――と言うより、できないと言ったほうが正しい。なぜなら僕はいわゆる『モテない君』で、幸運にも一年間女性と付き合うことができたなら、次は寂しい二年間が訪れる、といったサイクルをこの二十八年の生涯で繰り返していたのだ。


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