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「失礼ですが、あなたはどちら様でしょう」

 この顔は見たことがない。会話を交わしてもいない。少なくとも、この十年間の記憶には残っていない人物だと確信した。

「本物のようだな」

 男性は満足げに頷いた。

「はい」

 僕の腕を離した知世は、真っ直ぐ立って男性に向き直った。

「長期記憶及びワーキングメモリへのアクセスは直接的なものと関連記憶から探り出すものが同時に行われていた。エキスパートシステムの動作も速く正確だ。人間が一番陥りやすい利害が絡んだ状況に於ける選択にもモラルが打ち勝った。進化の兆しは間違いなくあると言っていい。しかもニューロンまで再生するとなると……」

「完全なる並列思考の能力もあるようです」

 知世が男性に言った。

「ほう、それは……」

 先ほどまでの馴れ馴れしさはどこへやら。男性は、科学者が実験動物でも見るような眼を僕に向けてきた。

「なんとしても次世代に伝えたいものだな」

「はい」

 知世は、まるで自分が褒められたかのように嬉しそうな顔になった。

「他に発現しそうなものはないのかね」

 僕は遺伝子の見本市か……。

「わかりません。でも、薬物投与や電気刺激によるメソッドはすべきではないと思います。稀有な遺伝子の持ち主です、このままでも充分サプライヤーとしての機能を果たしてくれることでしょう」

「ふむ、そうあることを願おう」

 当の遺伝子保有者である僕そっちのけで物騒な会話が展開されていた。

 僕は種馬にされるのか? ハーレムの絢爛と電気ショックの拷問が、かわるがわる脳裏に浮かぶ。

「このひとは?」

 僕は、どう見ても火星探査機には見えない男性の素性を知世に訊ねた。

「騙したみたいでごめんなさい。わたしたちが発見した人物は、すべからく彼に見定めてもらうことになっているの。疑り深い推論エンジンがあなたたちの未来をまもるのよ」

 推論エンジンが新型の軽自動車に搭載される類のものではないことはわかった。あなたたちの未来のため、と言われては怒る訳にもいかない。

 ふたりの女の子は、最早キャーキャー騒いではおらず、僕の爪先から頭までを舐め上げるようにして観察している。動物園で写生の被写体となったシマウマの気分だった。

「変化があれば知らせるように」

 そう言って三人は去っていった


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