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こんな勇者&魔王様関連小説

こんな魔王様の始まりの物語

作者:

思いついてしまった魔王サイドのお話。

隣の隣の隣のえ~~と隣?の村から勇者様がでたんだってよ~~。

へぇ~~そりゃめでてぇなぁ~~。

ありがたやありがたや。


近所のおばば達がそんな噂話をしながら手を合わせている。

…………勇者が出たってことは魔王出現と同意語だからありがたるのは何か間違いじゃない?

そんな天邪鬼なことを考えながら私は今日も迷える子羊たちの悩みを聞く。


私の名前はリリ。都会ではないがど田舎でもないそんな中途半端な町の小さな教会のシスターをしている。

「リリちゃんリリちゃん。あんなぁ~~うちの嫁がなぁ~~~」

「はい」

「ほんにうちの嫁は~~~」

「それは大変ですね」

以下延々ループの相談(と言う名の嫁への愚痴)を引きつりそうになるのを堪えつつ聞く。そのおばあちゃんが終わると次のご老人。お話相手の少ないわが町では教会関係者は嫌な顔をしないで話(愚痴)を聞いてくれる人材としてご老人達から引っ張りだこなのよ。

………神父さまみたいに本当に穏やかな人柄ならともかく穏やかなシスターの振りをしているだけで本当は毒吐きの天邪鬼である私には演技力と気力が試される苦行であることには変わりない。

ようやく最後の一人を送り出した時には思わず大きなため息が出た。

「…………嫁姑問題は家庭内で留めて教会まで広げないで欲しいわね」

ぼそっと毒が口をついて出る。

おっといけないいけない。シスターがこんなこと言ってたら教会の信用問題になるし私が築きあげた信用(外面)に傷をつける訳にはいかないからね。余計なことは言わないに限る。

「言わぬが良し。言わぬが良し」

私はシスター。慈悲深く誰にでも笑顔のシスター~~と心の中で言い聞かせながらさて、神父さまのお手伝いでもと振り返ると同時に視界に広がる黒。

「っ!」

なに!?

びっくっ!としたがよくよく見ると有り得ないほど近くに立つ人間の服の色だと分かり私は肩から力を抜く。

「何か御用ですか?」

営業スマイルを浮かべながら顔を上げた私だったが相手の顔を認識した途端に再び肩に力が入ってしまった。

(な、なに、この超絶美男子(だけど無表情)は!!)

透き通るような白い肌に計算されつくしたように目鼻が配置され、一本一本丹念に手入れされたかのような紺の髪はサラサラだ。黒い服に包まれた長身の身体にすらりと伸びた手足、もう絶妙なバランスの上で成り立つ完璧な美の化身がそこにはいた。

魂が抜かれるというか魂を吹き飛ばされるような美形が至近距離、しかもその視線はただただ私にだけ注がれているという状況にかぁーーーーと顔が赤くなる。

うぁうぁうぁぁぁぁぁぁぁ!!何、何なの!!この美形。どうしてここにいるのどうして私を見ているのどうして無言無表情なのに薄気味悪さよりも恥ずかしさが先にくるのぉぉぉぉぉぉぉ!!

かかかぁ~~~~と林檎よりも真っ赤になっているだろう私をただただ見つめていた美形は少し、不思議そうに首をかしげたけどそのうちぽつりと「見つけた」と呟いた。

「はい?」

小さすぎて思わず聞き返した私に美形は一人納得したように頷くだけ。

「見つけた。長かった。………でも姿、違う」

ぶつ切で単語のみなのでさっぱり意味が分からない。

見つけたって私のこと?でも姿が違うってどういう意味?自慢じゃないけど私、姿が激変したことなんてないわよ。

美形はまじまじと私を頭の先からつま先まで視線を動かす。性的なものは感じないから気持ち悪くはないけど居心地は悪い。心持ち後ろに逃げる私をよそに美形は心底不思議そうな顔をした。

「………なんで、女?」

「喧嘩売ってんの?買うわよ?」

性別を疑われる発言に思わず素が出てしまった。おっといけないいけない。主よ、まだまだ修行のたりない私を導いてくださいませ。

「喧嘩………?売らない、負ける」

「私が負けるっていうの?手段を選ばなければ痛い目ぐらい見せられるわよ?」

あ~~~~駄目だ駄目だ。どうしてか美形の前ではどうしても素の攻撃的な私が出てくる。

いつもは自制できているのになんで?

「違う」

「何が!」

「負けるのは俺…………魔王であるお前の方、強い」

だから売らないと真顔で言う美形。

………今、一部とんでもない発言がありませんでしたか?

「魔王………って誰が?」

美形は切れ長の紅の目をぱちぱちとさせる。まるで意外なことを聞かれたと言わんばかりに。………驚いた顔がちょっと可愛かった。………って違う。美形に和んでいる場合ではない。

「?おまえ」

美形の長い指が私を指し示す。後ろを振り返るが誰もいない。もう一度顔を戻しても美形の指を私をさしていた。

「………まおう…………?」

「そうだ」

「私が?」

「そう」

「…………あんたは何?」

「………魔王の部下だ………覚えてない、のか?」

しゅんと悲しそうに目尻が下がった。くっ!飼い主に叱られた犬が耳と尻尾を垂れ下げてくぅーくぅーんと言っているみたいじゃない!

でかい図体で美形の癖して、可愛く見えるって反則!!

予想外の美形の魅力にいろんなことを忘れて撫で回したい気分になったが「魔王」という不穏すぎるキーワードにどうにか意識を問題に戻す。

「私は魔王じゃないわ。人間よ。だから帰れ」

冷静に対応しようとしたが動揺していたらしく語尾がやや荒くなっていた。

「にん………げん?」

美形の顔があからさまに「どこが」と言っている。どこからどう見ても人間でしょうが!!魔王みたいに暗黒空気バンバン放ってないし翼はないし………第一魔王は勇者さまと同じで記憶と姿を継承して生まれてくると聞いている。

そして魔王の性別は男だ。少なくとも女の姿になったという伝承はない。

そして私はれっきとした女だ。生まれてこの方男になったことはない!!ついでにいえば男に間違われない程度には女らしい。

だから魔王なんかじゃないのだ!

「…………魔王だなんて冗談じゃない。間違われるだけでも迷惑。私は教会のシスターなのよ?魔王とは敵対勢力に属するの!さっさと帰って!」

そこまでまくし立てた所で気づく。あれ?魔王の部下ってことはこいつって………魔族?

魔族って確か、魔王の眷属で………魔王が出てくるとその手足となって暗躍するって聞いたことがあるような?

あれ?あれれ?もしかして怒らしたら、私、命、危ない………?

漸くそこに思至った私がそろそろと美形を窺えば無表情で見下ろす美形。

な、何を考えているのかさっぱり読めない~~~~~~!!

命の危機到来?

もしかして私、色々詰んじゃった?

「…………魔王、じゃ、ない?」

「ひっ!」

しゃっくりのような変な声が喉から出た。

やばいやばいや~~~~ば~~~~い~~。っていうか神聖な教会でなんで魔族が平気でいられるの~~~~~~!!!

「あ、あの、落ち着いて………話せばきっとわか………」

「こんな、とこ、いるから………記憶、ない。だから………」

ぶつぶつと何か呟く美形に私は瞬時に後ろに下がった。何か、嫌な予感が背筋を走りぬける。

やばい、逃げないと………。

「魔王城、戻れば、記憶もきっと………」

私の、生活全て………。

「俺の知る、あの魔王に………」

壊されてしまう。

「戻るはず………」

逃げ出す暇もなく禍々しい光が私と美形を中心に発生する。まぶしすぎて目を開けていられない。

教会とは正反対の闇を孕んだ光は瞬く間に複雑な円陣を描き出す。

「っ………!」

きつく目をつぶる私をたくましい腕が背後から包み込む。

「帰ろう。俺達のいるべき場所に………」

縋るような子供のようなその声を最後に私の意識は闇へと落ちていった。



魔の気配を残して一人のシスターが姿を消した。その数日後、涙目の少女と無駄に神々しいエルフの神官と喋る非常識な剣がこの町を訪れることになるのだがそれはまた別のお話。


涙目の勇者と毒舌な魔王。互いに平和主義であり平穏をこよなく愛する二人。生まれ変わりを続け、戦いを宿命付けられている二つの魂は現世において互いに記憶を手放し姿を変え、今までとは違う未来を紡ぎ始めていた。

ギャグになるはずが何故だか最後ちょっぴりシリアス風味………。

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