第二婚約者に格下げされ、さらに婚約破棄されましたが、隣国の王子に溺愛されて困惑です
「ジューンが僕の婚約者であることに関しては変わりない。ただ第二婚約者になるというだけの話だ」
アルフレッド第一王子殿下に呼び出されたと思ったら、こんなことを言われました。
わたくしはジューン。
ハートフィールド公爵家の娘です。
幼い頃から凛々しい眼差しのアルフレッド殿下のことが大好きで、婚約者になれるよう大変な努力をしたものです。
その甲斐あって王命で婚約が成立した時は、躍り上がるほど嬉しかったですねえ。
……わたくしのはしゃいだ最後の日でした。
その後もお妃教育に尽力し。
終了の御墨付きをもらったあとは政務に参加し。
目の回るような忙しさの日々を送ってまいりました。
それでも愛する殿下のためと思えば頑張れたのです。
……アルフレッド殿下の仰いたいことは理解できますが、あえて聞いてみます。
「第二婚約者とは何でございましょうか? 我が国の王室典範に規定がありませんが」
「側妃前提の婚約者ということだ」
「側妃前提、ですか……」
わかっております。
わたくしが忙しくて時間を作れなかったものですから、殿下は隣国リドルツァの留学生ステファニー第三王女と仲良くなってしまわれたのですよね。
アルフレッド殿下のエメラルドグリーンの瞳を見つめます。
そして幼い頃のことを思い出します。
何て奇麗な緑なのだろうと思いました。
その視線が優しく真っ直ぐわたくしに注がれたのですよ?
恋に落ちるのも当たり前ではありませんか。
今でもそのエメラルドグリーンの瞳の色はそのままです。
でもアルフレッド殿下が後ろめたいせいですかね?
わたくしの好きだったかつての輝きではないように思えてしまうのです。
「となると正妃前提の婚約者は?」
「第一婚約者はリドルツァのステファニー姫だ」
「ステファニー姫……」
「ジューンならわかるだろう? 今リドルツァとの関係を悪くすることはできないんだ」
政務に携わるわたくしは、リドルツァとの関係を悪くすることはできないという意味を正確に把握しています。
今秋は不作が予想されていますからリドルツァから穀物を輸入することになりそうですし、国境地域の鉱山の利権交渉も大詰めですから。
しかしそれは、アルフレッド殿下とステファニー王女とわたくしの婚約事情には本来関わらないですよね?
……アルフレッド殿下の目は、確かにわたくしを見てくださっていたこともありました。
あの輝くエメラルドグリーンの瞳で。
しかし今のアルフレッド殿下はどうでしょう?
わたくしの機嫌を伺うような、小ズルい盗人のような視線です。
ああ、一〇〇年の恋も一時に冷めるとはこのことですか。
……状況を整理しましょう。
陛下が何も言わず、またアルフレッド殿下がわたくしに下手に出るのは、第一婚約者第二婚約者などという法律上の規定がないからでしょう。
ムリ押しに近いと理解していると思われます。
となるとここでわたくしが突っぱねて婚約解消などと騒げば、王家が配慮しているのにハートフィールド公爵家は不忠と言われかねないですね。
やれやれ、仕方ありません。
殿下のほうから婚約破棄させればいいですか。
「第二婚約者、了解いたしました」
「やあ、助かった。これで全てうまくいく。ジューン、ありがとう!」
アルフレッド殿下に手を握られました。
しかし殿下、あなたの瞳は濁ってしまっているのです。
◇
――――――――――クワラッサ王国第一王子アルフレッド視点。
ジューン・ハートフィールド公爵令嬢は幼馴染だ。
同い年の高位貴族令嬢ということもあって、物心つかない内から僕の婚約者候補筆頭とされていた。
子供の頃のジューンはそりゃあ可愛かったさ。
優しげで声を荒げたりすることなんかなく、垂れ目で少しどんくさくて。
僕を好きなことなんて見え透いてた。
ジューンが僕の婚約者になってくれるといいなあって思ったものだ。
ジューンは成長するに連れて美しくなり、抜群に優秀なところを見せつけた。
王立学校でも常に成績トップで、公爵令嬢らしい気品には磨きがかかって。
……どんくさいところは多分そのままなのだろうけれど、それがおっとりした慎み深さという長所に変化していた。
その頃には僕の婚約者間違いなしと言われていたから、ジューンと誼を結ぼうとする者も多かったしな。
……僕以上に目立ってないか?
ちょっと面白くなく感じた。
正式にジューンが僕の婚約者になった時、嬉しくなかったと言えばウソになる。
ただ純粋な喜びだけでなかったのも事実なのだ。
パズルで嵌まるべきピースが嵌まった感覚に少し近い。
婚約ってそもそもそこから関係を深めていくべきだとは、頭ではわかっていたんだ。
しかし既に完成した、やりきったような感覚があった。
ジューンは妃教育が始まり、またちょうどその頃生徒会長になったこともあって多忙になった。
……本当は生徒会長は僕が務めるべきだった。
将来の王妃だからやってみろと、役を振ってみたんだ。
ジューンはとてもいい笑顔を見せて『はい』と言った。
多分僕に信頼されている気でいたんだろう。
僕がジューンの実務能力を信頼していたことは事実だ。
ただ生徒会長を任せたのは、ジューンが忙しくなれば少し距離を取れるだろうと思ったから。
ジューンの存在感は眩しい。
ジューンが眩しいほど自分が染みのような影に思えて嫌だった。
距離を置けば彼女の良さを客観的に見られるようになるんじゃないか?
ジューンは多忙の中にあっても全く綻びを見せなかった。
それどころか妃教育を早期に終了し、政務に参加するようになった。
僕でさえまだ参加を許されていないのに!
父陛下も母上もジューンの優秀さに喜ぶまいことか。
しかし僕にはジューンが何でもできる怪物のように見えてしまっていた。
ジューンは努力して僕を手に入れた気でいるかもしれない。
しかし婚約は僕が望んだことなのか?
僕自身の努力でも希望でもなく、ただ目の前に転がり落ちてきた果実に過ぎないのではないか?
この果実に疑問もなく齧りつくことは、はたして正しいのか?
この考えはずっと僕を苛んだ。
政略婚約はそんなものだとの思いに乗りそうになった時、彼女が現れる。
隣国リドルツァ王国のステファニー第三王女が、留学生としてやって来たんだ。
二年前ジューンとの婚約直後に一度、友好使節団の一員として来訪したことがあった。
妖精みたいな可憐さ、奔放さはジューンの持っていないもので、しかもこの二年間で磨きがかかっていたんだ。
僕は一目でステファニー姫に魅せられた。
これこそ僕自身が欲するものだと。
ジューンとあまり会えなくなっていたことを幸い、ステファニー姫と親睦を深めていった。
婚約者がいる、距離が近過ぎるのではないかと意見する者もいた。
が、リドルツァとの友好がかかっているという免罪符があった。
またステファニー姫も僕を好いてくれていたから。
ますます僕はステファニー姫にのめり込む。
「アルフレッド。あなた何を言っているのです!」
父陛下及び王妃である母上に婚約者の交代を願い出た。
ジューン贔屓の母上が反対することは知れていた。
「あれほど優秀な令嬢を手放してどうするのです! ジューンに非はありませんよ? ハートフィールド公爵家に何と釈明するのです!」
「まあ待て、妃よ。リドルツァとの関係を深めるためにステファニー王女をアルフレッドの婚約者とする考え方はありだ」
「陛下まで! 大体今ジューンが抜けたら、政務が回らなくなります。ジューン中心の嗜好品専売プロジェクトが動き始めたところなのですから!」
えっ?
ジューンって独立のプロジェクトを任されているほどなのか?
僕は政務補佐さえまだだとお預けを食らっているのに。
ほの暗い嫉妬が僕の心を燃やす。
「わかっておる。ステファニー王女を第一婚約者、ジューン嬢を第二婚約者とすればよい」
「「は?」」
第一婚約者? 第二婚約者?
よく聞いてみると父陛下の策は名案だった。
どうせ僕は側妃を娶ることになるのだから、先にジューンを第二婚約者としてキープしておけば構うまいということだった。
ジューンないしハートフィールド公爵家が断るならば、拒否したのはそっちだと責任を擦りつけてやればよいと。
これなら正妃は僕の望んだステファニー姫に決定だ!
ステファニー姫も喜んでくれるだろう。
ジューンが嫌いというわけではないから、側妃前提の第二婚約者を受けてくれるならそれはそれでよし。
政略であるしな。
何だかんだでジューンは僕のことを慕っているから、断りはしないのではないかな?
ジューンに切り出してみたら、快く引き受けてくれたのだ。
やった! これで全てうまく行く、そう思ったのだが……。
「アルフレッド様! お助けくださいませ! ジューン様がわたしを虐めるのです!」
「何だと?」
晴れて僕の第一婚約者に内定したステファニーに泣きつかれた。
虐めるとはどういうことだ?
ジューンが垂れ目の目尻をさらに下げ、困ったような顔をしている。
「ジューン、説明しろ」
「あのう、虐めていたわけでは決してありません。時間が許す限り、ステファニー様をお手伝いしようかと」
「べらぼうに厳しいのです! サディスティックなのです!」
「ステファニーは異国の王女だ。まだ我がクワラッサ王国に馴染んでいるとは言いがたい。妃教育も始まることだし、勘弁してやれ」
「……お妃教育が始まるまでが時間のある期間だと思ったのですが」
「どういう意味だ?」
嫌な予感がする。
「わたくしは政務に参加できなくなります」
「何故だ?」
「我が国の法律で、側妃は政務に関与してはいけないことになっているからです」
やはりそれか。
母上が指摘していたことだ。
ジューンは側妃前提の婚約者であるから、政務に参加してはならないと判断するかもしれないと。
「しかし現状第二婚約者に関する規定がない」
「わかっております。が、側妃が政務に参加するのを防ぐ理由は、例えば予算を回すことを条件に高官を味方につけ、正妃に対抗するという事態を防ぐためにあります」
「……それが?」
「第一婚約者と第二婚約者も同じ関係にあるのですよ。わたくしは引き継ぎ期間の終了以降、政務に関わるべきではありません」
「……」
否定しようのない正論だ。
さすがはジューン。
脅えるだけのステファニーとは、能力だけでなく胆力にも差がある、か。
「大体法の抜け穴を探るようなことを王家がしてはなりません。民の規範とならなければ」
「……もっともなことだな。仕方ない。ジューンの政務は僕が代わりに行おう」
僕には正式に政務に関わる権利がある。
未だ許しが出ていないだけだ。
なあに、ジューンにやれていたことだ。
引継ぎ期間中に僕が必死で頑張れば……。
ジューンがニッコリ笑う。
こんな笑顔を見せるのだな。
「御立派です。不肖わたくしも力と時間の許す限り、ビシビシ指導させていただきます」
「えっ? わ、わたしも?」
「当たり前ではないですか。ステファニー様はクワラッサの王妃となられる方ですよ?」
「ひええええええ!」
ステファニーも何を大げさな。
そういうところも愛嬌だな、とこの時は思っていた……。
◇
――――――――――リドルツァ王国第一王子エイブラム視点。
「報告が届いた。クワラッサ王国第一王子アルフレッドは、第二婚約者ジューン・ハートフィールドを正式に婚約破棄した、か……」
「計画通りじゃない。第二婚約者なんてものを編み出した時はクワラッサ王国もやるなあと思ったけど」
俺エイブラムはリドルツァ王国の第一王子ではあるが、どうも婚約者として適当な高位貴族令嬢がいなかった。
低レベルの令嬢が醜い争いをしているばかりで。
他国の令嬢もありかと、二年と少し前に隣国クワラッサへの友好使節団に加わり、そこで一人の令嬢に目を奪われた。
アルフレッド王子の婚約者となったジューン・ハートフィールド公爵令嬢だという。
何がいいって、誰もがジューン嬢に敬意を払っているじゃないか。
むしろアルフレッド王子によりも。
……俺の婚約者を国内の令嬢に決めたとする。
決定したあともゴタゴタするんじゃないか?
婚約成立直後だというのに、ほぼ全員に認められているジューン嬢の存在が驚異的に思えた。
帰国後もジューン嬢の情報を集め続けた。
クワラッサ王国一の才媛、妃教育は終了間近で政務に参加する見込み。
アルフレッド王子より早く政務に参加だと?
どれほど有能なんだろう。
あの優しげな目元の令嬢を妃としたい。
俺は腹心マイクに相談した。
『王子が女の子に拘るなんて珍しいね』
『茶化すな。何とかならんか?』
『うまくいくかはわからんけど、ステファニー様を焚きつけてクワラッサに送り込めば?』
『ステファニーを?』
『ステファニー様、随分アルフレッド殿下を気に入ってたみたいだよ』
緑の瞳が神秘的で素敵と盛んに言っていたな。
まあステファニーの性根はともかく、見てくれは悪くないから、アルフレッド王子とお似合いとも言える。
『ステファニー様も国内では『我が儘王女』って知れ渡ってるから、ろくな嫁ぎ口がないでしょ?』
『ハハッ、マイクの言う通りかもな』
『猫を被ってアルフレッド殿下に近付け、それ以外にお前の幸せになる道はないぞって言い聞かせてみなよ。うまくいけばクワラッサとリドルツァの友好にも繋がることだって』
『ステファニーが首尾よく潜り込めば、ジューン嬢が押し出される寸法か。マイクのやり口は悪辣だな』
『悪辣って褒め言葉じゃないからね?』
途中ジューン嬢を第二婚約者にするというイレギュラーはあったが、マイクの策は成功した。
政務を外れるジューン嬢がアルフレッド王子とステファニーを厳しく鍛えようとしたらしい。
しかし二人はそれを嫌がって、逆にジューン嬢を排斥した。
「つまりジューン・ハートフィールド公爵令嬢の実務能力は、アルフレッド王子とステファニーを足しても及ばないレベルか」
「ステファニー様、我が儘だけど要領も頭もいいのにな。アルフレッド王子はどうなんだろ?」
「二人のことは些事だ。ジューン嬢が優秀なことが俺にとって、そしてリドルツァ王国にとって重要なのだ」
「王子も我が儘だなあ」
「早速ハートフィールド公爵家に婚約を申し入れよう」
ん? マイクどうした?
「ジューン嬢は政務に携わっていたほどの令嬢だよ? クワラッサ王国の弱点を知ってるとも言える。じゃあクワラッサが手放さないこともあり得るんじゃない?」
「……一理ある。おい、マイク。知恵を捻り出せ」
「ええ? いや、これこそ王家の仕事でしょ。クワラッサとリドルツァの友好を前面に押し出すしかないって」
「なるほど?」
「人質としてステファニー様を預けてる格好になるんだから、対価がないとフェアじゃないってことをそれとなく外交筋に吹き込んで」
「ふむ?」
「ハートフィールド公爵とその与党に不信を抱かせるから、ジューン嬢の扱いには困ってるんだろう? リドルツァ王家が引き取れば全て解決だと、クワラッサ王家に伝えて」
「本当に悪辣だな」
「だから褒めてないってば。リドルツァ国内の令嬢対策にも効くよ。ジューン嬢を歓迎しない者は国家間の友好に水を差すものだ、って意識を植えつけとけばいい」
こういうズルいことを考えてる時のマイクは実に頼りになる。
マイクとジューン嬢がいれば、俺の代は安泰だ。
◇
――――――――――ジューン視点。
「ああ、ジューンが俺のものだとは。愛し尽くしてしまおう」
「あ、ありがとう存じます」
わたくしは現在、リドルツァ王国に来ています。
次期王とされるエイブラム殿下の婚約者となりました。
殿下及びその側近マイク様とのお茶会の最中です。
……アルフレッド殿下に婚約破棄されるところまでは計算の内だったのですよ。
口に出しこそしませんでしたが、ステファニー様はわたくしを敵扱いでしたし。
アルフレッド殿下も完全にステファニー様の肩を持ってましたし。
アルフレッド殿下に対するわたくしの恋心ですか?
かつてはありましたね。
もうあまり思い出せないですけれど。
ちょっと厳しく教育すれば、横暴だとわたくしを切り捨てるだろうと思ったのですよ。
わたくしが政務に携われないのなら、第二婚約者として拘る理由はなかったでしょうから。
案の定すぐ婚約破棄されました。
……厳しい指導だったことは否定しませんが、それくらいわかってないと政務はこなせないのですがねえ。
王妃様にはすごく残念がられたのです。
隣国の王女なんて使いものになりません。
あなたがアルフレッドの妃だったら、次代のクワラッサを安心して任せられたのにって。
王妃様、申し訳ありません、
わたくしはアルフレッド殿下への情熱を失ってしまったのです。
婚約破棄されたあとのことはノープランでした。
だってわたくしはアルフレッド殿下に婚約破棄された大傷物ですしね。
王家を憚ってどこからも縁談なんか来ないでしょうし、だったら家と領のために働きましょうかと、ぼんやり考えていただけでした。
そうしましたら隣国リドルツァ王国から、第一王子エイブラム殿下はどうかと婚約の打診が舞い込んだのです。
えっ? エイブラム殿下の婚約者争いは大混戦という話ではなかったですかね?
他所者のわたくしなんかお呼びでないのでは?
ところが国内の令嬢のどなたに決めても禍根が残りそうなので、リドルツァ&クワラッサ両国の友好を錦の御旗にわたくしを迎えたいとのことでした。
ならばクワラッサ王家から迎えればいいのではとチラッと思いましたが、ハートフィールド公爵家も王家の親族ですからね。
婚約破棄後すぐ連絡があったので、ステファニー様の暴走に対する補償という意味があるのかもと、すぐ了承させていただきました。
そうしますと直ちにリドルツァ王国に慣れてもらいたいから、直ちに来いとの仰せでした。
それでリドルツァ王都の学校に転入いたしまして。
全校集会でエイブラム殿下が一席ぶつのです。
「彼女が俺の愛する婚約者ジューン・ハートフィールド公爵令嬢だ。ジューンを軽視することはオレと王家とクワラッサ王国を敵に回すものと心に銘記せよ」
うわあ、何とキレのある力強いお言葉なのでしょう。
エイブラム殿下はカリスマ性がありますねえ。
こういう殿方の婚約者になれたことは望外の幸せです。
おかげで学校にもすぐ馴染むことができました。
エイブラム殿下に話しかけます。
「……わたくし達の婚約は完全に政略かと思っていたのです。ステファニー様とのバーターなのかと」
「うむ、そう見せかけていたのだ。このマイク・ノリスの悪辣な策略でな」
「ええ? 王子がクワラッサ王国に行った時にジューン嬢を見初めて、どうしても妃にしたいって言うから」
話を聞きました。
ステファニー様をクワラッサ王国に送り込むところから策略なんですか?
何とまあ、呆れてしまいます。
「……ってことだよ。まさかこんなにうまく行くとは思わなかったんだけどさ。思ったよりもステファニー様が効果的に動いたわ。ジューン嬢には悪かったかもしれないけど、ごめんね。ボクも給料には逆らえなくて」
「マイクが悪辣な分は俺が愛するから許してくれ」
「あっ、またボクのこと悪辣って言った!」
うふふ、仲のいいお二人ですこと。
それにしても愛、ですか……。
「ど、どうしたジューン。気に障ったか?」
「本当にごめんね。王子が我が儘で」
「いえいえ、お気になさらず。淑女らしくなくて申し訳ありません」
涙がポロリと落ちてしまったのです。
母国で一生懸命だったのに愛されず、異国でこんなにも親切にしてもらえる。
感じ入ってしまって。
「……わたくしは幼い頃から、元婚約者アルフレッド殿下のことが大好きだったのです」
「「……」」
「ええ、アルフレッド殿下の役に立つためと必死で学んで。婚約者になれた時は嬉しかったですねえ。でもいつしか気付いたのです。愛しているのはわたくしだけで、アルフレッド殿下に愛されているわけではなかったと」
「「……」」
こんなこと言ってもエイブラム殿下やマイク様には関係ないですよね。
でも言っておかなければいけない気がして。
「バカでしたね。でもステファニー様をクワラッサに送り込んだのが策略だと聞いて、納得できるのですよ」
ステファニー様もまたアルフレッド殿下に恋をして。
殿下はわたくしに応えず、ステファニー様に応えた。
それだけのことだったのですね。
「うおおおおおお!」
「きゃっ?」
エイブラム殿下に抱きしめられました。
ああ、でも愛情を十分に感じるのです。
わたくしの求めていたものはこれでした。
「ジューンすまん! つらい目に遭わせてしまったな」
「いえ、エイブラム殿下のせいでは……」
「俺は愛情だけは不自由させないからな!」
「王子はウソは吐かないから、期待していていいよ」
「期待していてくれ!」
名コンビですこと。
わたくしも……。
「殿下とマイク様は信頼し合っているのですね」
「む、生まれた時からの付き合いだからな」
「エイブラム殿下とボクは同日の生まれなんだよ。ボクの母が殿下の乳母で」
「そうだったのですか。わたくしもお二人の間に入れてくださいませ」
「大歓迎だよ!」
「おい、マイクは退け。ジューンは俺のものだ!」
「ええ? この場面でそのセリフは間違ってない?」
うふふ、自分から求めた愛は手に入らなかったですけれど、わたくしは愛されることのほうが好きだと知りました。
エイブラム殿下、ありがとうございます。
そしてわたくしをエイブラム殿下に引き合わせる策略を立ててくださったマイク様にも感謝いたします。
わたくし、お二人とともに精一杯力を尽くしますからね。
――――――――――クワラッサ王妃視点。
ああ、ジューン。
返す返すもあなたが去ったのは惜しいです。
あなたのプロジェクトはアルフレッドが引き継いでいます。
アルフレッドも必死でやっているのでしょうが、どうもムダが多いように思えます。
あなたが最後まで主導していたら、数倍の利益が上がったのではないでしょうか?
そしてステファニーというリドルツァの王女。
あなたとは比較にならないですけれども、素質は決して悪くないのです。
ただ甘やかされてきたのでしょうね。
根性がなくて使いものになりません。
ステファニーとあなたの差。
あなたを捨てたアルフレッドとあなたを受け入れたエイブラム殿下の差。
これがこのままクワラッサとリドルツァの国力の差に繋がるように思えてなりません。
あなたが将来祖国を滅ぼすことがありませんように。
わらわは祈ることしかできないのです……。
最後までお読みいただきありがとうございました。




