敬慕の花
青空に伸びる枝の先に咲く黄色の花が目に眩しい。
まるで私が敬慕してやまない彼を見ているようだ。
いつでも彼は眩しくて、遥か遠くの高みにいるようで、真っ直ぐに見ることができないでいた。
「どうしました?」
穏やかな声に隣に視線を向け、すぐにまた花に視線を戻した。
「い、いえ、何の花かと……」
「ああ、なるほど。その樹は山茱萸と言います」
わざわざ手帳に字まで書いてくれる。
「江戸時代中期に朝鮮半島から伝えられました」
「そうなんですね。何かずっと日本にあるもののような気がしていました」
「ああ、わかります。何か日本的なんですよね」
「はい」
「ですが、知っていますか? 日本的と思われているものの多くは外国からもたらされていたりするんですよ」
「へぇ、そうなんですね」
「それでも古い時代に日本に入ってきたものは、長い時間を経て日本に根付いたもの。それは日本のものと言ってもいいかもしれませんね」
「そうかも、しれませんね」
彼の知識は深く、私は足下にも及ばない。
追いかけても追いかけても追いつけない、永遠の憧れの人。
「貴女はいつも私から視線を逸らしていますね」
「あ……」
気づかれていた。
「理由を伺っても、よろしいでしょうか?」
寂しそうに下げられた眉。
あ……。
それでも、真っ直ぐに見て告げることはできずに目を伏せた。
「あまりにも自分が無知で恥じて、ます」
「何も恥じることはありませんよ。私は好きで勉強しているだけですし年の功と言いますか。貴女は聞き上手でついお喋りになってしまいます」
それは過分な評価だ。
彼の言葉は私を惹きつけて耳を傾けてしまうだけだ。
「だからこそ、眩しくて」
「眩しい?」
「あの花のように遥か遠くにいるようで、振り仰げば遠くて、眩しくて、隣を歩くのも申し訳ない気がします」
「それは、寂しいことですね」
「え?」
思わず伏せていた視線を上げる。
「隣にいるのに遠く感じてしまいます」
それは、そうかもしれない。
彼は私の心の揺れを察したようだった。
「同じ目線に立てたら嬉しく思いますよ」
「はい……。努力、します」
「一緒に歩んでいきましょう」
「はい」
頷けば彼は微笑んだ。
それがどことなく嬉しそうなものに見えた。
読んでいただき、ありがとうございました。




