克己の花
克己心が強いとはよく言われる。
私にはさっぱりと意味がわからないけど。
自分を律するのは私にとっては当然のことだった。
そうでなければ何事も成すことはできない。
だけど彼は私を心配する。
「無理してない? 大丈夫?」
別に無理をしているつもりはない。
そう答えても彼の顔は心配に曇ったまま。
そんなに無理をしているように見えるのだろうか?
案外大丈夫というのも伝わらないものだ。
だけど、無用な心配をいつまでもされるのも困る。
さてどうしようか。
黙り込んだ私をどう思ったのだろうか。
彼は近くの鉢植えを指差す。
「知ってる? このぎょりゅうばいには棘がある。君も本当はこんなふうに棘を隠し持ってるんじゃない?」
それが何だというのだろう?
「誰だって棘の一つや二つ持っているでしょう」
そう言えば驚いた顔になる。
何をそんなに驚く必要があるのだろう?
当然のことだろうに。
首を傾げる。
「そうか。君にとってそれは当たり前のことなのか」
「え、違うの?」
みんな棘を隠しながら生きていると思っていたのだけど。
「隠し持っている人は多いだろうけど持っていない人だっているよ」
信じられない。
そんなことで世間を渡っていけるのだろうか?
「大丈夫。それでも世の中渡っていける。世界は意外と優しいものだよ」
どうやら私の考えはすべて顔に出ていたようだ。
「そうなの」
そうなんだ、と心の中で呟く。
世界はそこまで厳しくないんだ。
私は自身の棘を周囲に向けないように自分を律していたのに。
そうなんだ。
だからといって今までの自分は無駄にはならないし、今まで通りで何も困らない。
「でも、そっか。それじゃあますます目が離せないな」
「え?」
「君は自分に厳しすぎるんだ。だからこれからは僕が傍で甘やかすことにする。そうすればちょうどよくなるはずだ」
どういう理屈だろう?
よくわからない。
疑問を視線に乗せて彼を見てみる。
だけど彼は疑問に答えてくれることなく強い意志を乗せて私を見返して宣言した。
「とにかくそう決めたから。覚悟しておいて」
勢いに呑まれて思わず頷いた。
それに彼は満足そうに微笑った。
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