忠実の花
部屋に入ると一枚の絵がイーゼルに立てかけてあった。
紅梅の絵だ。
いくつもの花が綻び咲いている。膨らみ始めた蕾やまだ硬い蕾もある。
「こんなふうに忠実に描けるなんて凄いね」
手を伸ばせば触れられそうで、その高貴な香りが漂っているような錯覚さえしてくる。
「ありがとう」
彼がふわりと微笑む。
また私は絵に視線を戻した。
いつまででも見ていられる。
むしろ目が離せない。
時間も忘れて見ていると、不意に彼が言った。
「よかったらだけど、もらってくれない?」
絵から視線を外して彼を見る。
「え、いいの?」
彼は頷く。
「君が梅が、特に紅梅が好きって聞いたから描いたんだ」
「え?」
「君にあげたいと思ったんだ」
「私に?」
「うん。君に僕の絵を持っていてほしいな、って思って」
彼は照れたように微笑う。
目を瞬いた。
「え、それって……?」
「うん。僕の絵のファン第一号だって公言してくれている君へのささやかな感謝の気持ち」
そう、そうだよね。
期待した私が悪い。
初めて彼の絵を見た時に凄すぎてその場でファン第一号を名乗ったのだ。
彼はそれまで誰にも絵を見せたことがないと言っていたから勝手に第一号を名乗った。
だけど、それより前から私は彼のことが好きなのだ。
一度そっと目を伏せた後で、彼を真っ直ぐに見る。
「ありがとう。嬉しい」
私は今、きちんと微笑えているだろうか?
彼が微笑む。
「君が好きだよ。そんな君が僕の絵のファン第一号って言ってくれて嬉しかった」
「え……?」
「絵を贈って告白したかった。花束の代わり」
いや告白に花束は必須ではないと思う。
「一生君のために絵を描くから、僕と付き合ってください」
それはもうすでにプロポーズではないだろうか。
でもいい。
私は彼が大好きだから。
私は満面の笑みを浮かべて告げた。
「うん!」
読んでいただき、ありがとうございました。




