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小さな花の物語  作者: 燈華


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無邪気な花

終業後、さて帰ろうと部署を出たところで後輩君が廊下で女性と立ち話をしているのが見えた。

彼女は後輩君の同期で、無邪気な笑顔が可愛いと男性社員に人気だ。

一緒に笑っている後輩君は楽しそうだ。


つきんと胸の奥が痛む。

でもそれを表に出すわけにはいかない。

ここで立ち止まるのも目立つ。


だからそのまま彼らのほうに向かって歩いていく。

帰るには彼らの横を通るしかない。


「……お疲れ様でした」


無言で通り過ぎるわけにはいかず、短く挨拶をして足早に二人の横を通り過ぎる。

腕時計で時間を確認して急いでいるふりなんかして。


できるだけ早く会社から離れたくて会社を出てもそのまま足早に駅へと向かった。







結局は無邪気なほうがモテるのだ。

そりゃあ私のように真面目で面白味のない者よりきゃあきゃあと無邪気に喜べる子のほうが可愛いとは私でも思うもの。






一緒に飲んだ時だった。

いつもより飲み過ぎてしまった私は後輩相手に真面目でつまらない女だと愚痴った。

ちょうどそんな言葉で彼氏に振られた時で、つい出てしまったのだ。

それを聞いた後輩君は「真面目は個性」だと真剣に言ってくれた。


「真面目というのも一つの個性だと思うんです。無邪気というのも個性、感情豊かというのも個性、人懐っこいというのもみんな個性です」


後輩君は誰かを上げるために誰かを下げない。

そういうところに好感を持っていたんだけどな。

嘘。はっきり言おう。惹かれていた。

だけどやっぱり彼も無邪気な女性がいいのだろう。






「先輩!」


後ろから後輩君の声が聞こえたのは駅が見えてきて歩調を緩めた時だった。

一瞬聞こえなかったふりをしようかと思ったが真面目な性格がそれを邪魔する。


心を構えて振り向く。

彼女と一緒かもと思った後輩君はだけど一人だった。


「どうしたの?」

「お急ぎのところすいません。これを渡したくて」


彼に渡されたのは某メーカーの贈答用の小さな袋。

中を覗けば細い菫色のリボンのかかった黄色のフリージアの絵の箱が入っている。


「いつもお世話になっている頑張っている先輩への気持ちです。よかったら食べてください。ではお疲れ様でした」

「……ありがとう。お疲れ様」


少しだけ私の口許は綻んでいたと思う。

後輩君は微笑(わら)って足早に駅に向かっていった。

彼も急いでいたようだ。

耳が赤かったような気がするけど寒さのせいよね。


ああ、でも。


私も駅に向かいながらちらりと渡された小袋を見る。


まだ当分、この恋を諦められそうにない。


読んでいただき、ありがとうございました。

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