約束の羅針盤
ここまで読んでくれた皆さんへ。
この回は、ひとつの“約束”として置いておきます。
そこは簡易的に板を組んで作られた、小さな仕切りの部屋だった。
控室と呼ぶには、あまりにも簡素で。
けれど、今この場所には。
確かに特別な空気が満ちていた。
「……できたわ」
最後に肩口の布を整えて、エマが小さく言った。
その声に、周りにいた女性たちが一斉に息を吐く。
ヴィーラが一歩下がり、静かに全体を見渡す。
「……これで、大丈夫です」
短く、満足そうに頷いた。
リラは、まだ動けないまま立っていた。
自分の身の回りに、何が起きているのか。
まだうまく理解できていないような顔をしている。
タラトレント製のドレスは、あの日の出来事を抱えたままのようにひどく傷ついていた。
裂けて、焦げつき、血に染まり──もう二度と、着られないと思っていた。
それを、みんなが持ち寄った布で補った。
色も、質も、形も違う。
繋ぎ目は、隠しきれていない。
裾は若干だが重く、少し歩きにくい。
足元のヴェールも、本来なら長く垂れるはずのものだったが、
今はロングスカートほどの長さしかない。
つぎはぎだらけのドレスだった。
それでも初めてこのドレスを見た時、リラは声も出せずに立ち尽くした。
目を逸らすことができなかった。
ただ肩を震わせて泣いた。
誰も、その理由を聞かなかった。
「……どう?動ける?」
エマが、優しく尋ねる。
リラは小さく頷く。
「うん。大丈夫」
その目元はまだ少し赤かった。
周りにいた女性たちが、ぱっと表情を明るくする。
「よかったぁ……」
「似合ってる、本当に」
「絶対泣くわよ、みんな」
そんな声が重なる。
誰かが裾を軽く持ち上げ、誰かが背中の結び目をもう一度だけ確かめる。
それが終わると、エマが扉代わりの板の方へ目を向けた。
「私、会場の様子を見てきます」
「私も行くわ」
「みんな、ちゃんと座っているか確認してくる」
次々に、女性たちが部屋を出ていく。
慌ただしい足音が遠ざかり、やがて静かになった。
残ったのは、ヴィーラとリラだけだった。
*
静かになった部屋に、ドレスが揺れる音だけが残る。
ヴィーラは扉の方へ向けていた視線をゆっくりと戻した。
そして、リラの姿を見た。
何も言わない。
「ねえ、ヴィーラ……変じゃない?」
「いいえ」
即答。
「とても、綺麗です」
その言葉は飾り気がなくて。
だからこそ、まっすぐ胸に落ちた。
リラは、ほんの少しだけ目を伏せる。
「これ……みんなで作ってくれたんだよね」
「ええ」
ヴィーラは頷く。
「布はあちこちから集めました。保存用に取っておいたものもあります」
「本当は、もっと綺麗に仕上げたかった。
──申し訳ございません。私の、力不足です」
リラはすぐに返答はしなかった。
代わりに、指先でそっとスカートの継ぎ目に触れる。
色の違う布が、幾重にも重なっている。
「……ヴィーラ。
……あなたは、優しい人ね。それに、強い」
ヴィーラが顔を上げる。
「分からなくても」
リラは、静かに言葉を選びながら続ける。
「不安でも、怖くても」
「それでも……行動を起こすことができる」
一拍。
「そして、あなたは必ず──先頭に立つ」
ヴィーラは、顔を上げなかった。
二人の間に少しの沈黙が落ちる。
小さな声で、リラは続ける。
「結婚式をやろうって言ってくれたの……嬉しかった」
風が吹いて、ドレスの裾が動いた。
「どうして?」
リラは、まっすぐに尋ねる。
「なぜ……あの時、そう言ってくれたの?」
ヴィーラは、しばらく黙っていた。
何かを思い出すように、視線を落としたままでいる。
「……分かりません」
やがて、そう言った。
「やるべきだ、と……思ったのです」
ヴィーラは続ける。
「理屈ではなく」
「ただ、そうしなければならない気がしました」
リラは、ふっと息を吐いた。
「そっか」
それだけ言う。
沈黙が少しだけ長く続く。
部屋の外から、誰かの笑い声がかすかに聞こえる。
ふいに。
リラが呟くように言った。
「均衡会議でも……そうだったんでしょうね」
その一言に。
ヴィーラの胸の奥が、大きく揺れた。
触れないでいた場所だった。
ずっと。
ずっと、触れないでいた場所。
リラは、ゆっくりと息を吸った。
「ヴィーラ」
名前を呼ぶ。
ヴィーラが顔を上げる。
「約束する」
「あなたがくれた、今日という日の奇跡に」
一歩、近づく。
「必ず、報いることを」
言い切ると同時に、リラはそっと腕を伸ばした。
ヴィーラを、抱きしめる。
離さないかのように、強く。
ヴィーラの身体は、ほんの少しだけ強張っていた。
次の瞬間。
肩が、静かに震え始めた。
声は出さない。
ただ、呼吸が乱れていく。
リラは、何も言わない。
そっと抱きしめたまま、その震えが落ち着くのを待った。
*
リラは、少しだけ目を細めた。
どこかで引っかかっていたものが、ふっと浮かび上がる。
「……ねえ、ヴィーラ」
「はい」
ヴィーラはもう、落ち着いていた。
今は向かい合って座っている。
「前から気になってたんだけど」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「あなたって……ヴィーラ・アルゲンフィスト、なのよね」
「……マグナレオールじゃなくて」
ヴィーラは、静かに頷いた。
「はい」
短く答える。
そのまま、ゆっくりと語り出す。
「父は、アルカン・マグナレオールです」
「ですが、母はアルゲンフィスト家の人間です。
そのため正確には、私は完全なるマグナレオールの直系ではありません」
少しだけ、視線を遠くに向ける。
「アルゲンフィスト家は、昔から王家と共に在り続けてきた血筋」
「王が倒れそうな時──前に出るための家系。
責任を受け止めるために存在してきた、盾の血筋なのです」
残酷なほどに、淡々としている。
けれどその言葉の奥にある重さは、はっきりと伝わってきた。
リラの喉が鳴る。
「だから、私は王位継承第五位であり──実際に王位を継ぐのは」
次の言葉が、一瞬遅れた気がした。
「第四位までのマグナレオール家の方々です」
リラは、何も言えなかった。
その名前の意味を、ようやく理解した気がした。
ヴィーラは、ゆっくりとリラの方へ向き直る。
「不思議です」
ぽつりと言う。
「私は……守るために生まれたはずなのに」
「気づけば、守られてばかりです」
ほんの一瞬だけ、声が揺れた。
その時だった。
外から、明るい声が響いた。
「リラ! 準備できましたよ!」
仕切り越しに、女性の声が飛び込んでくる。
「もうみんな、待ってます!」
空気が、少しだけ軽くなる。
リラとヴィーラは、顔を見合わせた。
「……行きましょう。リラ」
ヴィーラが、そっと手を差し出す。
リラは、その手を見て。
「ええ」
小さく頷いた。
その手を、静かに取る。
ヴィーラが一歩、前へ。
リラをエスコートするように、ゆっくりと歩き出した。
*
会場では、まだ誰も席についていない。
板を並べただけの通路の周りに、人が集まり始めている。
落ち着かないように動き回る者。
そわそわと立ったまま待っている者もいる。
少しだけ、居心地が悪い気がしていた。
「おい」
後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、ガレルがにやりと笑っていた。
「なんだその顔。緊張してんのか?」
「……してないよ」
「嘘つけ」
すぐ横から、別の男が口を挟んでくる。
「手、ちょっと震えてるぞ」
「本当だ。おいみんな!シグ、緊張してるってよ」
周りから、小さな笑いが漏れる。
何も言わずに、視線だけを少し逸らす。
「おいシグ」
また別の声が飛ぶ。
「誓いの言葉、もう決めてんのかよ?」
その問いに、少しだけ間が空いた。
「……ああ」
短く答える。
それを聞いて、周りが一斉にざわつく。
「まじかよ、ちゃんと考えてきてんのか」
「そこ外したら格好悪いぞ?」
「シグのことだからよ」
誰かが笑いながら言う。
「“君はもう僕だけのものだ”とか言うんじゃねーか?」
どっと笑いが起きる。
何も言い返さない。
細やかな抵抗として、眉を少しだけ寄せた。
「そんなこと、言わないよ」
「ほんとかぁ?」
「亭主関白ってやつか?」
また笑いが広がる。
その時だった。
少し離れたところに立っていたエリックが、ぽつりと言った。
「シグ……」
周りの調子とは違う、静かな声だった。
「なんだ?」
エリックは、まっすぐにこちらを見て言った。
「リラは、シグだけのものじゃないよ」
一瞬。
周りの空気が、止まった。
誰も笑わない。
誰も口を開かない。
ガレルが一歩だけ、近づいてきた。
「なあ」
「なんだ」
短い応答。
それでも、声は少しだけ低くなってしまった。
「幸せに……してやれよ」
誰もその言葉を茶化さなかった。
別の男が続く。
「あのさ……シグ。
俺たちは全員、二人には感謝してる」
「リラにも。シグ──お前にもだ」
誰かが小さく息を吐く。
エリックが最後に言った。
「シグも、幸せにしてもらうんだぞ」
一瞬、みんなが顔を見合わせる。
そして。
ふっと、誰かが吹き出した。
「なんだそれ」
「逆だろ普通」
「新郎が言われる側かよ」
空気が一気に緩む。
みんなで、一緒になって笑った。
誰かが僕の背中を思いきり叩いた。
「ほら、主役だぞ!もっと胸張れよ!」
別の男が腕を回す。
「今日は逃げられねえからな!」
気づけば、数人がかりで持ち上げられていた。
「おい、やめろって!」
「やめねえよ!」
そのまま、肩車される。
「おおーっ!」
周りから笑い声が上がる。
「落とすなよ!絶対落とすなよ!」
「縁起でもねえこと言うな!」
そこへ、女性陣の怒声が飛んでくる。
「ちょっと!!」
「こんな時に怪我させたらどうするの!!」
男たちが一斉に固まる。
「……すみません」
慌てて下ろされる。
また笑いが起きた。
その時だった。
板の向こう側から、足音が近づいてくる。
そして、仕切りの隙間から顔を出したのはエマだった。
「みんな!」
明るい声が響く。
「お待たせ! リラの準備、できたわよ!」
一瞬で、空気が変わった。
「お、来るぞ」
「席つけ席つけ!」
さっきまで立っていた男たちが、慌てて散っていく。
椅子代わりの木箱に腰を下ろしていく。
通路を空けるように、左右へ分かれて。
ざわめきが、少しずつ収まっていく。
僕と、もう一人だけがその場に残った。
ずっと静かに様子を見ていた、レオニス。
彼は妙に似合っていない帽子を被っていた。
「誓いの言葉は、決まっているんですね」
「……ああ」
少しだけ頷いた。
「レオニス」
「何ですか?」
「帽子、似合ってないぞ」
レオニスは何も言わず、少しだけ口角を上げた。
*
仕切りの前まで来ると、みんなの気配がはっきりと伝わってきた。
笑い声。
誰かが咳払いをする音。
椅子が擦れる、小さな音。
みんなが、そこで待っている。
「……大丈夫ですか」
ヴィーラの横顔が見える。
「うん」
少しだけ、息を吸う。
「ちょっと、緊張してるけど」
ヴィーラはほんのわずかに頷いた。
「私もです」
その言葉に、私は少しだけ笑った。
仕切りの向こうから、誰かの声がした。
「もういいか?」
別の声が返す。
「待って、まだ合図してない」
小さなざわめきが、板越しに伝わってくる。
音楽はない。
楽器なんて、ないから。
代わりに、息を潜める気配があった。
繋いだ手が、そっと離された。
ゆっくりと、仕切りの前に立つ。
そして外に向かって、静かに声をかけた。
「……準備は整いました」
ほんの一瞬の、静寂。
そして。
「「リラ!!入って来て!!」」
声が、重なった。
たくさんの声だった。
一人じゃない。
みんなの、声。
次の瞬間。
板が左右に引かれた。
光が、差し込む。
人の姿が、一斉に目に入る。
そこは決して、整った式場じゃなかった。
並べられた椅子。
椅子が足りず、木箱に座っている者もいる。
ところどころが欠けた足元の板。
それでも。
その場所にいる全員からの祝福が降り注いでいた。
まず、一歩を踏み出す。
纏ったドレスが、静かに従っている。
視線が集まっているのが分かる。
少しだけ、照れくさくて。
思わず、手を軽く振った。
あちこちから、笑いが漏れる。
「綺麗だぞー!」
「リラ、似合ってる!」
「足元気をつけて!」
声が、飛んでくる。
その中を、ゆっくりと歩く。
そして。
ふと。
視界の先に、シグの姿が入った。
まっすぐ、立っている。
少しだけ緊張した顔で。
その場所を動かずに、待っている。
その瞬間。
胸の奥が、きゅっと締まった。
シグは──これから先も、ずっと。
こうやって、急かさずに。
──ただ、待っていてくれる。
そう思っただけで。
涙が、溢れた。
「おいおい、もう泣いてるぞ!」
「まだ早いって!」
茶化す声が飛ぶ。
笑いが起きる。
だけど、よく見れば。
笑っている人の目にも、涙があった。
私は、涙を拭いながら歩く。
もう少しで、届く。
シグとの距離が、ゆっくりと縮まっていった。
やがて。
シグの前に立った。
少しだけ息が乱れている。
何か言おうとして、言葉が出ない。
その時。
前から、足音が一つ近づいてきた。
レオニスだった。
余計な言葉はない。
ただ、私たちを見て。
「誓いを」
短く、言った。
シグが、ゆっくりと頷く。
彼が、目をまっすぐに捉えてきた。
「……呼吸が途切れる、その瞬間まで」
一度、息を置く。
「僕は側にいる」
その言葉は、そっと響いた。
レオニスが、静かに頷く。
次に、私の目を見る。
静かだ。
言葉はない。
ただ、待っている。
一瞬の静寂。
ゆっくりと身体をシグの方へ向けた。
喉が、かすかに震えている。
それでも、目は逸らさない。
「あなたが……」
思わず目を閉じそうになる。
慌てて目元に力を入れた。
「あなたが」
「私の、人生になる」
誰かが、そっと息を吐いた。
最初は、ぱらぱらと。
やがて、空気を震わせるような拍手が広がっていった。
声も上がっているはずなのに。
何を言っているのか、もう分からない。
音だけが、私たち二人を優しく包んでいた。
その時。
シグが、少しだけ困ったように視線を動かした。
「……一つ、伝えておきたいことがある」
そう言って、手の中の小さなものを見せる。
指輪だった。
古いが、大切に磨かれてきたのが分かる。
「これは……エマが貸してくれた」
エマを探す。
彼女は、会場の端にいた。
少しだけ照れたように笑って、手を振っている。
その手には、もう指輪はなかった。
その意味を。
ここにいる全員が、分かっていた。
言葉にする者はいない。
けれど。
それがどれほどの祝福なのか、誰もが解っていた。
ほんの少しの間、エマと見つめ合う。
そうしていると、手を取られた。
シグの指が、少しだけ震えている。
ゆっくりと。
大切に扱うように。
その指輪を、私の指にはめた。
ぴたりと収まる。
それを見て、視界がまた潤む。
もう、言葉はいらなかった。
ほんの少しだけ、シグに近づく。
誰かが、小さく息を呑む音が聞こえた。
そして。
拍手が、もう一度大きく鳴り響いた。
その音は、長く、長く続いた。
しばらくずっと、鳴り止まなかった。
*
誰かが大きな声で言った。
「席、空けろ! 飯だ、飯!」
その一言で、また笑いが広がった。
長机の上に、料理が並び始めている。
豪華とは言えない。
どれも見慣れた食材ばかりだった。
あの時、余った鹿の肉。
保存していた野菜。
干した根菜や、少しだけ残っていた豆。
どれも、少しずつ持ち寄ったものだった。
それでも。
今日は、どれも少しだけ多かった。
リラは、その光景を見渡した。
胸の奥が、静かに温かくなる。
「主役はこっちだろ!」
誰かがシグの背中を押す。
「ほら、座れ座れ!」
「リラも!」
半ば強引に、二人は席へ連れて行かれる。
誰かが肉を切り分けてくれて。
みんなで笑いながら、ご飯を食べる。
気づけば、少し時間が経っていた。
その時。
エマが大事そうに何かを抱えて前に出てきた。
「みんな!集まって」
全員が手を止めて、二人とエマの周りに集まってくる。
エマは、そっとそれを机の中央に置いた。
白かった。
丸くて、小さくて。
少しだけ歪んでいる。
ケーキだった。
正確には、ケーキのようなもの。
小麦粉は、ほんの少ししかない。
卵だって、貴重だ。
でも。
ちゃんと、ケーキだった。
誰かが、小さく言った。
「……一週間、頑張ったんだよ」
その声に、リラが顔を上げる。
別の誰かが、続ける。
「畑、みんなで回してさ」
「材料、探しに行って」
「子どもたちも混ぜてくれた」
あちこちから、声が重なる。
「火も、ずっと見てた」
「レオニスが温度のこと教えてくれてよ」
「ヴィーラが、量を計算して」
ヴィーラは、少しだけ目を逸らした。
当たり前のことをしただけ、という顔をして。
エリックがリラの横に来て言った。
「リラ。あとシグ。
……結婚おめでとう」
「おいエリック。シグはついでか?」
少しだけ笑いが起きる。
エマがエリックの頭を撫でながら言う。
「それから……リラ」
「誕生日、おめでとう」
リラは、言葉が出なかった。
ただ、その白を見ていた。
どこかで、思い出す。
あの、圧倒的な白。
ルシアの、あの光景。
胸の奥が、強く揺れた。
「ほら」
エマが、ナイフを差し出す。
「一口だけよ?」
リラは、ゆっくりと受け取る。
微笑みたくても、上手く笑顔が作れなかった。
小さく切り分けて。
口に運ぶ。
ちょっとだけ、甘かった。
焦げた匂いが混じっている。
粉っぽさもある。
完璧じゃない。──でも。
喉の奥から、声が漏れ出た。
止められない。押し殺そうとしても、涙と共に止めどなく出てくる。
肩が、大きく揺れる。
周りが、静かになる。
誰も、何も言わない。
この小さなケーキを作るために、どれだけの時間が必要だったのか。
リラは、声を上げて泣いた。
みんなは、誇らしそうな顔をして、ただ見守っていた。
しばらくして。
エマが、そっと背中を撫でる。
「ほら、みんなにも」
リラは、何度も頷いた。
ケーキが小さく切り分けられていく。
一人ひとりが、少しずつ摘む。
子どもたちが、嬉しそうに笑う。
大人たちも、静かに頷きながら口にする。
それは、紛れもなく祝宴だった。
ここにいる全員が、同じ時間を分け合っていた。
同じ甘さを、口にして。
同じ瞬間を、生きていた。
リラは、涙を拭きながら周りを見る。
笑っている。
みんなが。
その光景を、胸の奥に刻み込む。
忘れないように。
この日。
リラは、世界から祝福された。
そして、同じその日。
マグナレオールと、他三国同盟の衝突が起きた。
羅針盤という言葉には、いくつもの意味を込めました。
誰かとの約束。
背負う役割。
そして、この先へ進むための指針。
ここから物語は、更に大きく動き始めます。
どうか信じて、ついてきてください。




