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リラ・ヴェルノアの選択  作者: 夜の現在地
名を失った均衡世界
48/53

拠り所

噂は広がるのが早い。


”毎日ご飯を食べられる場所がある”

そんな話を頼りに、人は歩いてくる。

 

 昼前になると、自然と人が集まってくるようになっていた。


 ただ、気づけば足が向く。


 そこは生活の中心になっていた。


 広く使えるようにと改修(かいしゅう)された元倉庫の中には、長い机がいくつも並んでいる。まだ(ひず)みの残っている床を踏みしめながら、人々がそれぞれの席へと散っていく。


「今日、席空いてる?」


「こっち空いてるぞ。子供たち詰めてくれ」


「エマ、ここ座りな」


 そんな声が、あちこちから飛ぶ。


 子供が走る。

 大人が呼び止める。

 皿の触れ合う音が、重なっていく。


 いつの間にか、人数はかなり増えていた。

 最初は40人ほどだった。

 だが「毎日、食事がある場所がある」と(うわさ)が広がり、他の避難地(ひなんち)から人が流れてきた。

 気づけば、この場所は70人を超える大所帯(おおじょたい)になっていた。


 最初にここへ来た頃は、机もこんなに必要なかった。

 今は、並べても並べても足りないくらいだ。新しく来た者の顔も、もう珍しくなくなっている。


 それでも、不思議と混乱はない。


 誰がどこに座るか、誰が何を手伝うか。

 言葉にしなくても、自然と形になっていく。


「リラ、お皿これでいい?」


 声に振り向くと、シグが山のように重ねた木皿を抱えていた。


「ありがとう。そっちの机に置いてくれる?」


「了解。あ、エリック戻ってきてる」


「もう?」


 入口の方を見ると、濡れた髪をそのままにしたエリックが、少し得意げな顔で(おけ)を抱えて入ってくるところだった。


「今日は小さいの多いけど、数はあるよ!」


「わあ、すごい!すっかり釣り名人ね」


 リラは笑って、桶の中を(のぞ)き込む。


 銀色の魚が狭そうに押し合っていた。


「手、冷たくない?」


「もう、慣れた!」


 エリックは胸を張る。


 その後ろから別の男が入ってきて、言う。


「こいつ、朝から川に張り付いてたんだぞ。俺らが到着した頃には、もう何匹か釣ってた」


「だって魚は朝が一番動くって教わったし!」


 誇らしげな声に、あちこちから笑いが漏れる。


「じゃあ、今日の夜は魚の煮込みだな」


 奥から、低い声がした。


 レオニスだった。


 大きな鍋の前で、腕を組んで中身を見つめている。


「火、もう少し弱くしてくれ」


「はい!」


 護衛(ごえい)の一人が慌てて火を調整する。


 レオニスが料理をする姿に、最初はみんな少し驚いていた。


 だが今では、当たり前の光景になっている。


 無駄な言葉はほとんどない。

 指示は短く、的確。


 そうして出来上がる料理が、間違いなく美味い。

 リラは早々に料理長を降ろされ、今は全体の調節と把握が主な仕事になっている。


 ある村人(いわ)く。


「リラの料理は美味(うま)いけど、健康的すぎる」


 その言葉にむっとして少し口論になったのも、今では良い思い出だった。


「リラ」


 背後から柔らかい声がかかる。


 振り返ると、エマが立っていた。


 腕の中には、あの時助けた赤ん坊がいる。


 ずいぶんと大きくなっていた。


「おはよう。夜、ちゃんと眠れた?」


「はい。この子、今日はよく寝てくれて」


 エマは小さく笑う。


 その表情は、前よりもずっと穏やかだった。


「ここ、空いてる?」


「もちろん」


 リラが椅子を引くと、近くにいた女性がすぐに布を()いてくれる。


「ここなら風が当たらないから、赤ちゃんも寒くないよ」


「ありがとうございます」


 エマは深く頭を下げた。


 彼女の仕事は、赤ん坊を守ることだ。


 全員が、それを大事な役目だと分かっている。


「リラ、ちょっと外の人と話してくる」


 シグが声をかけてくる。


「新しく来た人?」


「うん。荷物の置き場所で少し()めてるみたい」


「お願い」


「任せて」


 軽く手を振って、シグは外へ出ていく。


 その背中を見送りながら、リラは皿を並べ続ける。


「はい、これ子供たちの分ね」


「ありがとう!」


 いつの間にか、子供たちが周りに集まっていた。


 皿を受け取ると、嬉しそうに席へ戻っていく。


 数が多い。


 それでも、回っている。


 やがて全員が席に着いた。

 ざわざわとした音が、少しずつ落ち着いていく。


 レオニスが大鍋を持って出てくる。


 瞬間、場の空気が弾む。


「今日は魚だ!」


「やった!」


 子供たちの声が弾ける。


 皿に注がれる煮込みは、決して豪華(ごうか)ではない。

 量も、それほど多くはない。


 でも、湯気(ゆげ)が立っている。

 そして、温かい。


 それだけで、十分すぎるほどだった。


 全員に行き渡ったことを確認すると、リラが立ち上がる。


「みんな。今日も朝からお仕事お疲れ様」


 子供たちが集まる机から、待ちきれないというようにお皿を叩く音が聞こえる。


「生きるために、食べましょう。

 いただきます!」


「「いただきます!」」


 食べ始める音が、あちこちで重なる。


 しばらくすると、会話も戻ってくる。


「エリック、今日どこまで行ったんだ?」


「いつもより上流の方へ行ってみたんだ。網の張り方、昨日教わったから!」


「へえ、もうそんなことできるのか」


「別にすごくねーよ。網を張れば誰でも取れるし」


 でも、誇らしげな顔が隠せていない。

 隣にいた男が、エリックの頭をくしゃっと()でた。


 リラは、空いた席に腰を下ろす。


 隣から、誰かが話しかけてくる。


「リラ、足大丈夫?」


「うん、平気。ちょっと昨日は歩きすぎたかな」


「おいリラ、あんまり無理すんなよ」


「ありがとう」


 そんな何気ない言葉が、自然に飛んでくる。


 すっかりもう、日常だった。

 ここで、生きている。


 食事が終わる頃には、みんなの表情は少しだけ(やわ)らいでいる。


 空腹が満たされると、それだけで心に余裕が生まれる。


 食器を片付ける者。

 水を運ぶ者。

 火を整える者。


 誰に言われるでもなく、体が動く。


 そして、いつの間にかリラのいる机の周りに人が集まり始めていた。


 みんなこの時間が好きだった。


 今日、何を食べられるのか。


 それをみんなで、一緒に決める時間だから。


 リラは軽く手を叩いた。


「夜ご飯会議、はじめまーす!」


 あちこちから小さな笑いが漏れる。


 少し前まで、その日食べられるかすら分からなかった人たちだ。

 こうして当たり前のように“夜ご飯”の話ができること自体が、もう奇跡みたいなものだった。


 その時、厨房の奥からレオニスが顔を出した。


 腕を組んだまま、いつもの無表情で言う。


「じゃがいもが、かなりの量手に入った」


 一瞬、ざわりと空気が動く。


「畑仕事、順調みたいだな。優秀だ」


 護衛の一人が胸を張る。


「そりゃもう。最近は子供たちも手伝ってくれてますから」


 子供たちは誇らしげに胸を張る。


 レオニスは頷き、続けた。


「魚もある。

 さっきエリックが持ってきたやつだ」


 その名前が出た瞬間、あちこちから声が上がる。


「おお!」

「さすがだな!」

「今日は魚か!」


 レオニスは静かに言った。


「魚と芋で、煮込みが作れる」


 少しだけ、間を置く。


「量も出せる。全員、腹一杯食えるかもしれない……久しぶりに」


 その言葉が落ちた瞬間だった。


 空気が、一気に明るくなる。


「本当か!?」

「久しぶりに満腹になれるのか!?」

「最高じゃないか!」


 誰かが机を叩いた。


「やったな!」


 別の誰かが笑う。


「エリック、英雄(えいゆう)だぞお前!」


 (とう)のエリックは、少し離れたところで照れくさそうに頭をかいていた。


 リラも思わず笑っている。


「魚と芋の煮込みかあ……いいわね。絶対美味しい」


 そこから、会話は一気に広がった。


「塩、まだあったっけ?」

「香草は?この前採ってきたやつがまだあったよな」

「良いですね……少し入れたら香りも出ると思います」

「パン(ひた)したらもう最高なんじゃないか?」


 誰かが言う。


「煮込みってことは、ちょっと長めに火にかける感じか」


 別の誰かが答える。


「ええ……柔らかくなるまでね」


「美味そうだな……俺、もう腹が減ってきたよ」


 その言葉に、誰かがまた笑う。


 レオニスが短く(うなず)いた。


「任せろ」


 厨房のことにおいては、彼が一番頼れる存在だった。


 少しして。


 ぽつりと。


 誰かが呟いた。


「魚も良いけど……ビーフシチュー、食べたいな」


 一瞬だけ、静かになった。


 そして。


「おい、それ反則だろ」

「ちょっとやめてよ!」

「そんなの言われたら食いたくなるだろうが!」


 笑いが広がる。


 リラも、思わず声を上げた。


「ビーフシチュー!?いいね、それ!」


「肉たっぷりで、とろとろで……」


 言いながら、想像してしまう。


 みんなも同じだった。


「パンにつけてさ」

「温かいやつな」

「……泣くやつ出てくるぞ、それ」


 夢みたいな話だった。


 だからこそ、盛り上がる。


 そして。


 自然と、みんなの視線が一か所に集まっていった。


 机の(はし)


 紙を何枚も並べて、何かを書き込んでいる人物。


 ヴィーラだった。


 食料の量。

 保存期間。

 消費の速度。


 全部、彼女が把握し、調整している。

 これだけの大所帯が毎日ご飯を食べられているのは、彼女の力によるものが大きかった。


 全員が、固唾(かたず)を飲んで見守る。


 ヴィーラはしばらく何も言わず、計算を続けていた。


 やがて。


 ゆっくりと、首を振る。


 小さく。でも、はっきりと。


 その仕草(しぐさ)を見ただけで、何人かが肩を落とした。


 リラが代表するように声をかける。


「ヴィーラ。

 ……難しい?」


 ヴィーラは顔を上げる。


「今ある乾燥肉は、あと一ヶ月は持たせる必要があります」


 静かな声だった。


「次の肉が、いつ手に入るか分かりません」


「それに……」


 紙の上を指でなぞる。


栽培(さいばい)用の種が減ってきています。今は野菜を優先した方が、安全です」


「そっか」


 それだけ言って、すぐに微笑(ほほえ)む。


「分かった。いつもありがとう、ヴィーラ」


 それ以上は聞かない。


 食い下がらない。


 リラは振り返って、みんなに言った。


「今日は、魚と芋の煮込みね!」


 大人たちは、ただ頷くだけだった。

 文句を言う者はいない。


 みんな、分かっているから。


 ここがギリギリで回っている場所だということを。


 でも。


「えーーー!」


 子供たちだけが、声を上げる。


「ビーフシチューがよかった!」

「肉食べたいー!」

「絶対そっちがいい!」


 周りの大人が笑いながらなだめる。


「わがまま言わないの」

「魚だってうまいぞ」

「毎日ご飯が食べられるだけ、ありがたいことなのよ」


 少しだけ、寂しくて。

 少しだけ、温かい時間だった。


 それでも子供たちは(ほお)を膨らませたままだ。


 リラはその様子を見て、少しだけ胸が締め付けられる。


 それでも、言葉は出さない。


 ここで何かを簡単に約束してはいけない。


 そんな空気が、もう大人たちには染みついていた。


 少しだけ、静かになる。


「……ビーフシチュー、食べたかったなぁ」


 誰かが、諦めきれないと言うように小さく(つぶや)いた。


 その時だった。


 扉が勢いよく開いた。


「リラ!!」


 大声が響く。


鹿(しか)が獲れたぞ!!」


 ガレルだった。


 その後ろから、三人がかりで何かを運び込んでくる。


 大きな体。


 立派(りっぱ)な角。


 村で一番体の大きいガレルよりも巨大な鹿。


 一瞬、全員が固まる。


 次の瞬間。


「うおおおお!!」


 歓声が爆発した。


「すごい!!」


「本物だ!!」


「お肉だ!!」


 子供も大人も、一斉に立ち上がる。


 リラも、思わず声を上げた。


「すごい!!いつぶり!?」


 ガレルが胸を張る。


「夜中から山張っててな。ようやく仕留(しと)めた」


「四人がかりでやっと運べたんだ」


 息を切らしながら笑う。


 その時。


「皆さん、お待ちください!」


 ヴィーラの声が響いた。


 ざわめきが、ぴたりと止まる。


「これだけの量の肉です」


「保存を優先しなければ、後で困ることになります」


 真剣な顔だった。


 リラが、すぐに近づく。


「ヴィーラ」


「はい」


「教えて」


 鹿を見ながら言う。


「これ、どのくらい保存できたら……あとは好きにしてもいい?」


 ヴィーラは一瞬黙り、すぐに紙を取り出す。


 計算が始まる。


 指が、止まらない。


 周囲が固唾をのんで見守る。


 やがて、顔を上げた。


「……少なくとも、17キロ分は必要です」


 リラは、黙ってガレルを見る。


 ガレルは、にやりと笑った。


「こいつはな」


 鹿の体を軽く叩く。


「70キロはある大物だ」


「食える部分だけでも、30キロは確実だぜ」


 一瞬、静寂。


 次の瞬間。


 歓声が、さっきよりも大きく弾けた。


「やったあああ!!」


「肉だ!!肉だ!!」


「ビーフシチューできる!!」


 誰かがシグに飛びつく。

 シグが笑いながら受け止める。


 レオニスですら、口元を(ゆる)めていた。


 誰かと手を叩き合っている者もいる。


 ヴィーラが、困ったように笑っていた。


 歓声の中、リラがそっと隣に立つ。


「ヴィーラ」


「はい」


「こんな時だからこそ」


 小さく、(ささや)く。


「たまには、贅沢(ぜいたく)もしないとね」


 ヴィーラは、少しだけ目を細めた。


 そして、小さく頷いた。


 *


 気づけば外は暗くなり、倉庫の中には煮込みの匂いが()ち始めていた。


 外から、小さく声がした。


 最初は誰も気に()めなかった。


 中ではまだ、鹿の肉の話で盛り上がっている。


「絶対、煮込んだ方がいいって!」

「いや焼こう!焼いた方が旨いだろ!」

「全部やろうぜ全部!」


 笑い声が重なる。


 子供たちが跳ね回っている。

 誰かが鍋を叩いて、(しか)られている。


 その音に混じって、もう一度。


「……すまない」


 扉の外から、落ち着いた男の声がした。


 シグが顔を上げた。


 厨房の入口近くに立っていた彼は、少しだけ耳を澄ます。


 また声がする。


「ここに、リラ・ヴェルノアという女性がいると聞いた」


 シグはゆっくり立ち上がった。


「ちょっと外、見てくる」


 誰に言うでもなくそう言って、扉の方へ向かう。


 背後では、まだ笑い声が続いている。


 誰も気づいていない。


 扉を開けると、外の空気は少し冷たかった。


 夕方の光が(かたむ)いて、地面に長い影を落としている。


 そこに、男が一人立っていた。


 旅装(りょそう)のまま。

 荷を下ろしたばかりのように、足元が少しだけ荒れている。


 背後には馬が一頭。

 簡素(かんそ)な荷物がくくりつけられていた。


 男は武器を持っていなかった。


 手は、体の横に下ろされたまま。

 構えもない。


 ただ、真っ直ぐこちらを見ていた。


 疲れている顔だった。


 けれど、目だけは(みょう)に静かだった。


「……リラ・ヴェルノアは、いるだろうか」


 低い声だった。


 シグは一瞬だけ、男の全身を見た。


 怪我(けが)はない。

 敵意も感じられない。

 ただ、長く歩いてきた人間の空気を(まと)っている。


「……誰だ?」


「……彼女の同僚(どうりょう)だ」


 男は、少しだけ間を置いてから言った。


「名前は、エリオ」


 シグは少しだけ目を細める。


 その名前に、何か引っかかるような感覚があった。


 けれど、それを言葉にする前に思った。


 ——この人は、敵じゃない。


 理由は分からない。

 ただの直感だった。


「……ちょっと待っててくれ」


 それだけ言って、シグは中へ戻った。


 扉を閉めると、また一気に熱と匂いと、声が押し寄せてくる。


「シグ!見て見て!角、こんなでかい!」


 子供が鹿の角にぶら下がっている。


「危ないって!落ちるぞ!」


 誰かが笑っている。


 鍋の中では肉が煮え始めて、いい匂いが立ち込めている。


 シグは少しだけ立ち止まって、その光景を見た。


 それから、リラを探す。


 少し離れた机の端。


 皆から少しだけ離れたところに、彼女は座っていた。


「リラ」


 名前を呼ぶ。

 

 その瞬間だった。


 リラの背中が、ぴたりと止まった。


 不自然なくらいに。


 シグは一歩近づいて、後ろから顔を(のぞ)き込む。


 リラは、口いっぱいにビーフシチューを頬張(ほおば)っていた。


 ほっぺたが(ふく)らんでいる。


 目が、完全に見開かれていた。


 噛むのを止めたまま、固まっている。


 しばらく、二人とも黙る。


 シグは、小さく息を吐いた。


「……毎日、頑張ってたもんな」


 ぽつりと、そう言った。


 リラの耳が、みるみる赤くなる。


 (あわ)てて飲み込む。


「ち、違うの!これ、味見で!」


「うん」


「ほんとに!」


「うん」


 シグは、少しだけ笑った。


 そして、表情を戻す。


「外に、知り合いが来てる」


 リラの動きが止まる。


「……え?」


「エリオって、名乗ってた」


 その一言で。


 さっきまでの空気が、完全に消える。


 リラの目の奥が、すっと冷える。


 すぐに立ち上がる。


「どこ?」


「外」


 それだけ聞いて、リラは小走りで扉へ向かった。


 その様子に、少し離れた場所にいたヴィーラが顔を上げる。


 レオニスも、動きを止める。


 空気が、変わったのが分かった。


 リラが扉を開けて外に出る。


 夕方の光が、目に入る。


 そこに、男が立っていた。


 少しやつれた顔。

 長く歩いてきたような服。

 けれど、その立ち方だけは変わっていない。


 リラは、足を止めた。


 男が、こちらを見た。


 目が合う。


 しばらく、何も言葉が出なかった。


 風が、少しだけ吹く。


 男が口を開いた。


「……本当に、生きていたか」


 それだけだった。


 リラは、何も答えない。


 ただ、立っている。


 男は少しだけ目を閉じた。


 ほんの一瞬、力が抜ける。


 それから、すぐに顔を上げた。


「すまない」


 低く言う。


「ここを見つけるのに……かなりの時間を要してしまった」


 その声は、少しだけ(かす)れていた。


 リラは、まだ何も言えない。


 嫌な予感が、背中をなぞる。

 胸の奥が、じわりと冷える。


 男は続ける。


「もう、始まってしまう」


 その言葉を聞いた瞬間。


 リラの背筋(せすじ)が、凍った。


 まだ、何も聞いていないのに。


 でも、分かった。


 何かが、決定的に動いた。


 エリオは、静かに言う。


「およそ一週間後だ」


 一拍。


「マグナレオールと、他三国同盟の全面衝突が起こる」


 リラの目が、大きく見開かれた。

次回。


結婚式です。



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