退勤の時
デイバッグを肩に担ぎながら、彼は騒々しい街を歩いた。その日は、いつになく仕事が早く片付き、デパートの開店時間内に間に合うので、そこに向かっていたのだった。
値引きのシールの付いた弁当なら、幕の内でも、かつ丼でも、チャーハンと焼きそばのセットなどなんでもよかったので、少しでも安く得ておきたかったのだ。
ため息が漏らしつつ、ネクタイを緩め、ワイシャツの第一ボタンを外した。足が意識を持って向かっているかのような、重い足どりだった。
デパートまで後数十メートルといったところで、彼の歩調が変わった。ビルの一階のテナントに入っている花屋があった。これまでも通っていたのだから、新規開店を目にしたとか、珍しいキャンペーンをしているとかでもないので、彼がそうする理由はなかった。けれども、彼は吸い込まれるように店内に足を踏み入れた。
店員の挨拶は、その場にふさわしく穏やかな口調でされた。おかげで彼は場違いなところに来てしまったのではないかという後悔を思わずに済んだ。
ふと彼の観賞にストップがかかった。小さなポットに咲く花が目に付いたのだった。妙に心が奪われ、離れがたく、どうしてもそれを手にしておきたい気持ちになった。彼はそれを購入することにした。




