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007:鉄屑の矜持

偽りの平穏か、真実の暴力か。

鉄屑の王国で、王は己の魂に問いかける。


これは、欺瞞を何よりも憎む一人の王が、見えざる敵に蝕まれる自らの王国と民のため、

その身を削り、命を燃やし、己の「力」こそが唯一の真実であると証明した、矜持の咆哮の記録。

その拳が砕いたのは、敵か、それとも民の迷いか。

ゴウダ・ソウジの王国で、鉄が“嘘”をつき始めた。

昨日まで最強だったはずの装甲が、まるで砂糖菓子のように脆く崩れる。屈強な兵士たちが、目に見えぬ敵に内側から喰われ、原因不明の病で次々と倒れていく。ゴウダが最も嫌悪する、姿を見せぬ卑劣な『欺瞞』が、彼の王国を静かに蝕んでいた。


その見えざる恐怖は、人々の心の結束さえも錆びつかせていた。

「…もう終わりだ。ゴウダ様の力も、この“病”には勝てねえ!」

「馬鹿野郎!王を信じねえのか!」

かつてゴウダの力を崇拝していたはずの者たちの間で、疑心暗鬼と内輪揉めが広がる。力という唯一の法が、その絶対性を失いかけていた。


工房で、老メカニックのテツが激しく咳き込みながら、ゴウダのパワーアーマーの胸部装甲を叩いた 。

「…ゲホッ、ゲホ…!どうだ、ゴウダ。お前の力が通じねえ敵を前にして、震えが止まらんか?」

「うるせえ、老いぼれ。てめえの手が震えてるだけだろうが」

ゴウダは悪態をつくが、テツの肺もまた、見えざる敵に蝕まれていることを知っていた。この国で、ゴウダが唯一、対等な口を利くことを許している男だった 。



「…昔のお前さんは、ただの喧嘩っ早いガキだったが、嘘だけはつかなかった。だから、俺みてえなのがついてきたんだ。忘れるなよ…ゴホッ…お前の『真実』は、この腕にかかってんだ」

テツはそう言うと、最後の力を振り絞るように、アーマーのジェネレーターに古びたブースターユニットを接続した。「…こいつは一度きりの博打だ。心して使いやがれ」


その数日後、王国の中心部に、一台の小型ドローンが飛来し、リク・クロガネの紋章を映し出す 。

『鉄屑の王、ゴウダ・ソウジに告ぐ』

冷たい合成音声が響いた 。

『貴殿の領域を蝕む病は、我々が開発したナノマシンだ。降伏し、我々の秩序を受け入れれば、治療法と安定を供給しよう』


ゴウダは玉座から立ち上がると、そのホログラムを睨みつけた。

「伝言ごっこは終わりだ、クロガネ!」ゴウダの怒声が王国中に響き渡った。「次はその小賢しいオモチャじゃなく、てめえ自身が来い!その『嘘』で固めた面の皮を、俺が直接剥いでやる!」

ゴウダが投げつけた鉄塊が、ドローンを粉々に砕け散らせた 。


そして、クロガネからの「返答」として、"それ"は現れた。

旧時代の悪夢の如き、巨大な自律型戦闘機械。王国中の住民が、建物の影から、瓦礫の山の上から、固唾を飲んでその光景を見守っていた。あの巨大な絶望を前に、誰もが、王国の終わりを覚悟していた 。

だが、ゴウダは一人、不敵に笑っていた。

「ようやく、話し合いができるじゃねえか…!」

彼はテツが命を賭して繋いだパワーアーマーを身に纏い、王国中の民が見守る中、たった一人で戦闘機械に突撃した 。


凄まじいレーザー掃射がゴウダの肉を焼き、装甲を砕く。住民たちから悲鳴が上がる 。

だがゴウダは、その痛みすらも楽しむかのように、雄叫びを上げた。

『…あなたの持つ“矜持”という概念は、人類の致命的なバグです。排除します』

プラズマキャノンが青白い光を収束させ始めた。誰もが目を覆った、その時 。

ゴウダは咆哮した。テツが繋いだブースターユニットが起動し、彼の腕に刻まれた「枯渇の刻印」が、黒い稲妻のように全身へと広がり、不気味な光を放つ 。自らの肉体が上げる悲鳴も構わず、旧時代のジェネレーターを、安全装置を無視してオーバーロードさせる 。




「喰らいやがれ!これが俺の…魂の咆哮ソウル・ロアだ!」


至近距離で発生した凄まじい電磁パルスが、戦闘機械の精密な電子回路を完全に破壊した。プラズマの光は霧散し、巨体は全ての動きを止め、ただの鉄の塊と化す 。

ゴウダは残った腕で鉄塊を振り上げ、絶叫と共に、沈黙した敵の頭部を粉々に砕いた 。


静寂。

王国を支配していたのは、完全な沈黙だった 。

やがて、クロガネへの降伏を口にしていた男が、その場にへなへなと崩れ落ち、震える声で呟いた。

「…うそだろ…。勝った…。ゴウダ様が、勝ったんだ…」

その言葉が、引き金だった。

「「「うおおおおおおおおっ!!」」」

一人の雄叫びが、熱狂の爆発へと変わる。疑心暗鬼に蝕まれていた人々の心に、絶対的な力という「真実」が、再び、そして以前よりも遥かに強く、信仰の炎となって燃え上がった 。


その熱狂の中心で、ゴウダは破壊された残骸を踏みつけ、民を見下ろした。

「見たか!小賢しい理屈うそなど、この拳の前ではただの鉄屑だ!俺の力が真実だと信じるならついてこい!飢えたくなければ奪え!だがな、仲間と自分にだけは、決して嘘をつくんじゃねえ!それだけが、この国の唯一の法だ!」


地鳴りのような歓声の中、ゴウダは人々の輪の中に、工房の壁に寄りかかって静かにこちらを見ているテツの姿を見つけた。老メカニックは、満足そうに、しかしどこか寂しげに、小さく一度だけ頷いた。ゴウダは、誰にも気づかれぬよう、不敵な笑みでそれに答えた 。

歓声の中、ゴウダは一人、己の掌を握りしめた。パワーアーマーの下で、「枯渇の刻印」が疼くような熱を持っている。勝利の代償。彼はその心地よい痛みを噛みしめた 。


そして、クロガネがいるであろう東の空を睨みつけ、腹の底から湧き上がる笑いを解き放った。

「クク…クハハハハハ! 面白い! てめえの『力』、気に入ったぜ、リク・クロガネ! 次はてめえのその『嘘』っ面の皮を、直接剥がしてやる!」

それは、退屈な支配者であった男が、己の全てを賭けるに値する「好敵手」を見出し、真の「王」として覚醒した、矜持の咆哮であった 。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!


ゴウダ・ソウジの哲学は単純明快、「力こそ真実」。彼はクロガネの小賢しいやり方を「嘘」と断じ、自らの肉体を賭してその欺瞞を打ち砕きました。


この不器用で、あまりにも正直な王の生き様に、あなたの魂は少しでも共鳴しましたか?


さあ、次が最後の独奏曲です。魂を喰らう、美しい歌姫の演奏会へようこそ。


わたくしは、これからもこの世界の様々な物語を紡いでまいります。

もし、貴方がこの記録の続きを望んでくださるのなら、ブックマークや評価という形で、そのお心を示していただければ幸いです。


また、この世界の片隅で、貴方という読者に出会えることを。

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