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027:王の好敵手

剥き出しの「ちから」か、冷徹なる「合理ロジック」か。 同じ「支配」を掲げながら、決して交わることのない二つの「真実」。


これは、退屈していた「鉄屑の王」が、初めて自らの「力」をぶつけるに値する「好敵手」を見出し、 「静寂の探求者」が、初めて自らの「合理」を揺るがしかねない「変数ノイズ」を認識した、 二人の王の、静かなる開戦前夜の記録。

ゴウダ・ソウジは、玉座(と彼が呼ぶ、瓦礫の山)に座し、領域で集めさせた鉄屑の山を眺めながら、不機嫌に唸っていた。 数ヶ月前、あのリク・クロガネとかいう小僧が送り込んできた巨大な自律兵器。あれをテツの仕込んだブースターで粉々に砕いて以来、この鋼鉄区は、また退屈な「日常」に戻っていた 。


(……ククク。あの「オモチャ」、なかなかの「力」だったぜ) ゴウダは、あの時の、自らの「枯渇の刻印」が疼くほどの高揚感を思い出していた 。ゴウダにとって、世界は二種類しかない。自らの「力」に従う「モノ」か、自らの「力」を試させてくれる「敵」か。それ以外の、コソコソと「嘘」をつく連中は、ただ不快なだけだ 。


あの自律兵器は、久々に現れた「敵」だった。そして、それを送り込んできたリク・クロガネは、ゴウダがこの鉄屑の王となって以来、初めて興味を引かれた存在だった。 (……だが、それ以来、何も仕掛けてこねえ。どうした、クロガネ。てめえの「力」は、あんなオモチャ一つで終わりか?) ゴウダは、物足りなさに、鉄の玉座の肘掛けを握り潰した。


同じ頃。リク・クロガネの研究室は、完璧な静寂に満たされていた 。 彼は、ゴウダの領域との緩衝地帯――セクターFの監視モニターを、冷ややかに見つめていた。


(……予測可能。非効率。そして、野蛮) クロガネは、数ヶ月前に失った自律兵器の戦闘ログを再分析していた 。ゴウダ・ソウジという変数は、クロガネの論理において、実に「単純」だった。「支配型科学」の副産物である「枯渇の刻印」の力に依存し、ただ暴力的なエネルギーを放出するだけ 。 (……あれは、「力」ではない。ただの「熱量」だ。制御されていないエネルギーの暴走。実に、美しくない)


彼にとって、ゴウダは「好敵手」などでは断じてない。自らが構築する「合理的」で「静寂」な世界にとって、排除すべき、最も巨大で、最も非合理的な「ノイズ発生源」。ただ、それだけだった 。


「主任」副官ジェクスが、報告に入った 。 「セクターFに設置した、広域環境センサー(タイプ7)が、昨夜より断続的にロストしています。原因を分析」 「……ゴウダの部下だな」 クロガネは、モニターを切り替えた。そこには、ゴウダ配下の武装した男たちが、岩陰に隠されて設置されていたクロガネの銀色の監視ドローンを、面白半分に棍棒で叩き壊している映像が映っていた。


「『ゴウダに隠れて、コソコソと「嘘」を仕掛けやがって』……と、そう言いたいのだろう」 クロガネは、吐き捨てるように言った。 「主任の推測通りです。彼らは、我々の『観測』を、『卑劣な欺瞞』と解釈しているようです」 「……非合理の極みだ」 クロガネは、立ち上がった。 「ジェクス。ゴウダに『教育』が必要なようだ。あのノイズは、『力』で示さねば理解しない。だが、私は、あの男が好むような、非効率な『暴力』は使わん」


クロガネの指が、コンソールを叩く。 「『さびミスト』を準備しろ。セクターFの風向きを計算し、ゴウダの領域の、第4から第7スクラップヤードに限定して散布する」 「……! 主任、それは……」 ジェクスの完璧な無表情が、わずかに揺らいだ 。 「錆の霧」は、クロガネが開発した、新型のナノマシン兵器。生物には無害。だが、鉄――それも、ゴウダの領域で粗雑に再精錬された「脆い鉄」だけを標的にし、分子レベルで結合を破壊し、急速に「錆びさせる」代物だった。それは、ゴウダの「力」の象徴である「武具」や「装甲」を、内側から殺す兵器。 「力」ではなく、「論理」による、冷徹な「経済封鎖」だった。


「あのゴウダは、己の『力』こそが『真実』だと信じている 。ならば、その『力』の源泉である『鉄』が、いかに脆く、非合理な『嘘』の上に成り立っているか、教えてやるまでだ」 「……承知いたしました。直ちに、散布シークエンスに移行します」


数日後。ゴウダの玉座に、血相を変えた部下が転がり込んできた。 「王! お、王! 一大事です!」 「騒ぐな。みっともねえ」 「し、しかし! 第4ヤードの鉄が……武器庫の装甲が……ぜ、全部……!」 「……ああ?」


ゴウダが現場に赴くと、そこは地獄だった。 昨日まで黒光りしていたはずの鉄の山が、赤茶けた「錆」の粉と化し、ボロボロと崩れ落ちていた。屈強な部下たちが、自慢の鉄パイプを叩きつけると、それがまるで砂糖菓子のように砕け散った。 「……なんだ……これは……」 部下たちが、未知の「呪い」に怯え、後ずさる。


だが、ゴウダだけは、その赤錆の粉を指で一掬いすると、その匂いを嗅ぎ、そして、不敵に笑った。 「……ククク……」 「お、王……?」 「この匂い……あのオモチャ(自律兵器)と同じだ。あの小僧クロガネの『匂い』だ」 ゴウダは、錆の粉を握りしめた。 「……なるほどな。正面から『力』で来ねえと思ったら、こんな、コソコソとした『嘘』で、俺の『鉄』を殺しに来たか……!」 ゴウダの全身から、凄まじい「力」のオーラが立ち昇る。 「卑劣な真似をしやがる……!」


ゴウダは、部下たちに咆哮した。「テツを呼べ! 対策は、あの老いぼれが考える! てめえらは、今すぐ、セクターFの境界線に行け! あの小僧クロガネが、この『傑作』の成果を、どこかから眺めてやがるはずだ!」


ゴウダは、あの自律兵器を破壊したパワーアーマーを再び身に纏うと、単身、セクターFの緩衝地帯へと向かった 。彼の「直感」が、クロガネの「目」が、どこにあるかを正確に捉えていた。緩衝地帯を見下ろす、一番高い、旧時代の電波塔。あそこだ。


「……主任。ゴウダ・ソウジが、セクターF-9、ポイント・アルファに単独で出現。目標は、おそらく、主監視ドローンが設置されている電波塔です」 ジェクスの報告に、クロガネは「予測通りだ」とだけ答えた。 (……非合理な。感情的な。なんと無駄な熱量だ) 彼は、モニター越しに、パワーアーマーで荒野を疾走するゴウダの姿を、冷ややかに見つめていた。


電波塔の頂上。銀色に輝く、クロガネの高性能監視ドローンが、静かにゴウダの姿を捉えている。 ゴウダは、そのドローンの真下で立ち止まると、見上げるように、その「目」を睨みつけた。


「――見てるかァ、リク・クロガネェ!!」 ゴウダの咆哮が、空気を震わせる。 彼は、傍らにあった、乗用車ほどの大きさのコンクリートブロックを、パワーアーマーの腕で、軽々と掴み上げた。


(……無意味だ。ドローンを一つ破壊しても、この『観測』の『論理』は止められん) クロガネが、そう結論付けた、次の瞬間。 ゴウダは、そのコンクリートブロックを、野球のボールのように、電波塔の頂上――ドローンへと、凄まじい勢いで投げつけた。


「―――!!」 モニターが、轟音と共に、砂嵐に変わった。 研究室に、静寂が戻る。 ジェクスが、新たな報告を上げようと、口を開いた。 「……主任。監視ドローン、ロスト。ですが、サブドローンが――」 「――黙れ」 クロガネは、ジェクスを制した。


彼は、砂嵐のままのメインモニターを、ただ、見つめていた。 (……今の投擲エネルギー。……予測値を、12.8%も、上回っている……) ゴウダの行動は、「予測通り」だった。だが、その行動に込められた「熱量」は、クロガネの計算を、わずかに、しかし確かに、超えていた。 (……観測不能な変数。非合理な、『力』の奔流) ゴウダの、あの最後の哄笑が、ドローンのマイク越しに、クロガネの耳の奥にこびりついていた。『――これが俺の「真実ちから」だ! 次はてめえのその「ロジック」の面の皮を、直接、剥がしてやるぞォ!!』


クロガネは、初めて、その灰色の瞳の奥に、仄暗い、未知の「ノイズ」に対する、冷徹な「興味」の光を宿した。 「……ゴウダ・ソウジ。排除すべき、最優先ターゲット。……そして、私の『静寂』を乱す、最大の『好敵手』、か」


二人の「王」は、互いの「真実」を交えることなく、しかし、確かに、互いを「敵」として、認識した。 悪魔派圏の空に、二つの「秩序」が火花を散らす、その、始まりの音だった。

ありがとうございます。物語の旅にお付き合いいただき、光栄です。


これにて、「悪魔派・支配の日常 月間」は、閉幕となります。 「力」のゴウダと、「合理」のクロガネ。二人の王は、互いを「排除すべきノイズ」であり、同時に「超えるべき好敵手」として、ついに認識しました。 彼らの「真実」と「論理」は、今後、どのようにこの世界を塗り替えていくのでしょうか。


さて、悪魔派の日常を巡る小旅行はここまで。次は 天使派の日常を覗いてみましょう。


わたくしは、これからもこの世界の様々な物語を紡いでまいります。 もし、貴方がこの記録の続きを望んでくださるなら、ブックマークや評価という形で、そのお心を示していただければ幸いです。


また、この世界の片隅で、貴方という読者に出会えることを。

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