020:鉄屑の盟友
剥き出しの「力」と、美しき「嘘」。 この崩壊した世界で、最後に信じられる「真実」とは、何か。
これは、力こそが全てを支配する鉄屑の街で、 一人の老メカニックが、なぜあの暴力的な男を「王」と認め、自らはその「盟友」として傍らに立ち続けるのか。その歪で純粋な哲学を語る、魂の記録。
「――納得できるか! あんなものがッ!」
オイルと鉄錆の匂いが充満する工房の扉を蹴破るように、若い男――キョウが飛び込んできた。彼の顔は、怒りと恐怖、そしてやり場のない無力感で歪んでいた。
工房の主、老メカニックのテツ は、火花を散らす溶接機の手を止め、ゆっくりと遮光ゴーグルを額に押し上げた。
「……騒々しいな、小僧。ゴウダ様の『裁き』が、そんなに不服か」
「当たり前だ! 兄貴は、ただ……ほんの少し、上納する鉄屑の量を誤魔化しただけじゃねえか! それを、あの王は……ッ! 兄貴の片腕を、見せしめに……!」
キョウは、工房の隅に積まれたジャンクパーツを蹴り飛ばした。 「あんなの、ただの暴力だ! 力で押さえつけるだけの、理不尽な支配だ! なのに、テツさんは……あんたは、どうしてあんな男に従っていられるんだ! あんたは、あの男の『盟友』 なんだろ!?」
テツは、再び溶接機を手に取ると、淡々と作業を再開した。 ジュウウウ、と金属が灼ける音だけが響く。
「……キョウ。お前さんは、『嘘』と『真実』の違いが分かるか」 「は……?」 「この世界は、『嘘』で満ち満ちておるわい」
テツは、ゴーグルの奥で目を細めた。
「『あなた方を救う』だの、『より良い秩序のため』だの、どこかの誰かさんは、美しい言葉を並べ立てる。……天使派の連中も、クロガネの小僧 も、そうさな。だがな、その美しい言葉の裏側で、結局、自分たちの『理』を押し付けているだけだ。どっちがマシかね」
「そ、それは……! でも、ゴウダは!」
「そうだ。あの御方は、暴力的だ」 テツは、キョウの言葉を遮った。
「飢えれば奪う。逆らえば砕く。だがな、キョウ。あの御方は、たったの一つだけ、決してやらねえことがある」 「……」 「あの御方は、『嘘』をつかねえ」
テツは、溶接の熱で赤熱した鉄塊を、冷却水に叩き込んだ。 ジュワアアッ、と激しい水蒸気が上がる。
「あの御方は、お前さんの兄貴が『誤魔化した(嘘をついた)』から、その腕を砕いた。それだけだ。そこに『秩序のため』などという、小奇麗な『嘘』は一片も混じっておらん。 『俺は、お前がムカついたから、殴る』。 『俺は、それが欲しいから、奪う』。 これ以上ないほど、分かりやすい『真実』だろうが」
テツは、キョウの前に立つと、油に汚れた指で、彼の胸をトン、と突いた。
「わしはな、キョウ。『王』に仕えとるつもりはねえ。 わしは、このクソみてえな『嘘』だらけの世界で、たった一人、自らの『欲望』と『力』にだけは『正直』であり続ける、あの男の生き様 に惚れ込んでおるだけよ。
美しい『嘘』に騙されて背中から刺されるより、 剥き出しの『真実』に、正面から殴り殺される方が、よっぽど信用できるわい」
キョウは、テツの言葉の意味を、まだ完全には理解できなかった。 だが、目の前の老人の瞳に宿る、揺るぎない、狂気にも似た「矜持」の光に、彼はただ圧倒されるしかなかった。
「……行け。ゴウダ様が気に入らねえなら、この街を出るか、あるいは、あの御方を力でねじ伏せるしかねえ。……それ以外の『道』は、この鉄屑の街には存在しねえよ」
キョウが去った後、テツは工房の奥の扉を開けた。 そこには、ゴウダ・ソウジの巨体を支える、禍々(まがまが)しいパワーアーマーが鎮座していた。
「……さて、と。盟友の『牙』を、研いでおかんとな」 老メカニックは、満足げに、鉄の匂いを深く吸い込んだ。
ありがとうございます。物語の旅にお付き合いいただき、光栄です。
「嘘」を憎み、「力」こそが「真実」だと信じる 。老メカニック、テツの哲学は、ゴウダ・ソウジの支配するこの鉄屑の街の「理」そのものでした。 もし、美しい『嘘』と、暴力的な『真実』のどちらかしか選べないとしたら。あなたは、どちらを信じますか?
さて、「力」が支配する領域の記録はここまで。 次は、もう一人の悪魔派の支配者、リク・クロガネ の領域へ。 彼の「合理」がもたらす『静寂プロジェクト』 が、今、一人の母親を「救済」しようとしています。
私は、これからもこの世界の様々な物語を紡いでまいります。 もし、貴方がこの記録の続きを望んでくださるのなら、ブックマークや評価という形で、そのお心を示していただければ幸いです。
また、この世界の片隅で、貴方という読者に出会えることを。




