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64話

 大火が周囲を全て燃やし尽くし、黒煙が立ち上る。まるでその周囲だけが別世界のようになったかのような光景の中、2人の戦士は目を見開く。


「………まさか、このような本性を隠していたとは」


 砕けていく堅牢な外殻。しかし、その中から現れたのは一回りだけ小さくなった巨竜。だが、放たれる圧は先ほどの比ではなく、先ほどまでの巨竜はまだ本気ではない………言うなれば、目が覚めたばかりで寝惚けている状態だったのだと理解する。

 明確に目の前の存在を外敵だと認識したそれは全身から膨大な魔力を放ち、天に向けて大地が割れるほどの咆哮を放つのだった。


「ふっ。ですが、相手も厚い鎧と共に余裕も剥げてしまったようですね」

「………焔騎士。お前は目覚めた後に一番にすることは何だ」

「はい?何故今………いえ、顔を洗いますが」

「この化けの皮を剥いだのをそうだとしよう。ならば、その次は」

「朝食を………」


 そこまで言って、ガイアはハッと巨竜を見る。だが、その時には巨竜の双眸はどこか遠くへと向けられていたのだった。







 一方その頃、ある日のアウラは工房で資料を作りながら難しい表情を浮かべ、大きなため息をついた。


「これじゃ術式が大規模過ぎる………」


 アウラはそう呟きながら頬杖をつく。アウラは術式を星々の力を借りて構成するように、星の魔術の術式はかなり大きなものになっている。そのため物理術式の模索にも相応の時間と労力が必要な上に、そもそもまだ彼女の中の星々では術式を形成するに足りないという事すらあり得る。


「………立証にはまだ遠いね。あまり時間があるわけじゃないのに」


 賢者の席がいつ埋まるか分からないため、今のうちに少しでも多くの研究成果を出しておかなければいけない。少し行き詰まりを感じ、アウラは休憩を兼ねて散歩に出ようとした時だ。

 丁度向かおうとしたドアが強くノックされ、アウラは一瞬だけ動きを止める。何か起こったのかと考える間もなく、らしくもなく焦った様子のアルクが工房へ入ってきた。


「アウラ、すぐに街を出る準備をしなさい!!」

「お父さん?どうしたの、急に……」

「竜がこの街へ向かっている!!一週間しか猶予はない!急ぎなさいっ!!」

「………えっ?」


(竜………もしかして、話に聞いてたあの巨竜?でも、どうしてここまで………)


 アウラが未来視を使って7日後の光景を見る。それは一体の巨大な竜によってこのニルヴァーナが跡形もなく破壊され、最後には自分が巨竜に補食される姿だった。


(まさか………)


 今回の戦いの戦場は人間の足ではかなり遠い距離にあるはずだが、竜にとってもそうであるとは限らない。

 アルベールとガイアとの戦いで傷付き、まだ恐らく目覚めて間もなかったのだろう竜は戦線を離脱し、力を補給するために近場の餌を求めたのだ。膨大な魔力を持つアウラを。


「狙いは………ボク?」

「っ………アウラ、そんな事は良い!寧ろ分かっているならすぐに逃げなさい!!王都に別荘を用意しているから、そこで………」

「………お父さん」


 アルベール達も足止めはしたのだろうが、あらゆる規模が違う人と竜の体力には比べるまでもない差がある。ガイアでさえ一週間眠らず戦い続けるなど不可能だが、竜は1ヶ月程度ならば睡眠は必要はない。


 そして、追い付けなくなった彼らは召喚した伝書鳩でこちらに報告をしたのだ。聡明なアルベールならば進行方向と巨竜の状態から目的を推察するなど容易かっただろう。


「………ボクが逃げたら、竜はここを破壊した後、そのまま王都まで追ってくるよ」

「そんなことを子供のお前が考える必要はない!!いいから早く―――」

「ダメ。お父さんは最後まで戦うつもりでしょ?みんなを見捨てられないから」


 アルクの言葉を遮ると、彼はそれに押し黙ってしまう。彼が民を見捨てて逃げ出すような人だとは思えなかったが故の言葉だったが、その沈黙は何よりの証拠だった。

 そして、彼女もまたそんな父を見捨てて逃げ出すことは出来ないのだ。


「お父さんが残るなら、ボクも残る。お父さん達がそうだったみたいに、ボクも家族を見捨てたりしたくない」

「………厳しい戦いになるぞ」

「分かってる。だからお父さん、ボクに考えがあるんだ。ボク1人じゃ絶対に無理だけど………大きな困難を前に、皆が前に進む意志を持てるなら………きっと乗り越えられると思う」

「分かった、その案を聞こう。必要ならば、私は何でも用意する」

「うん。じゃあ、まずは――――」


 アウラが話す作戦を聞き、アルクはすぐに動いた。街に残っている騎士を全て派遣し、住民達を広い大通りに集める。まだ竜の事は伝えていないが、それでも黙っているわけにはいかない。だが、それはここにいる全ての民に避けようのない絶望を突き付けるためではない。

 全員で生き延びるためだ。この街と民を守るアルファーネ家として、民の意志を全て1つにするためであった。





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