62話
ある日、賑やかな街の通りをアウラとファルテシアは歩いていた。1週間ほど期間が空いてしまったため少し久しぶりにもアウラは感じたが、歩くこと自体が好きではなかった昔に比べれば大きな変化を感じるところでもある。
「お姉ちゃん、今日はどこに行くんですか?」
「まずはいつもお世話になってる商人さんの所に、このポーションを卸すつもり。話は通してるから、もう待ってるはずだしね」
アウラとファルテシアの背後に、アウラの重力魔術によって浮遊する木箱が幾つかあった。中身は全て研究の過程で出来たポーションであるが、流石にあの日アウラを悶絶させたような売り物にならないほどの物は用意していない。
「こ、この中全部ポーションなんですか………?」
「うん。前にポーションは作り方を学ぶ人は多くないって言ったでしょう?だから需要に対して供給が少なくて、高騰や品切れに困る人が多いの。ボクはあんまり怪我することもないし、腐らせちゃうくらいならね」
「なるほど………」
一瞬、こう言う話しはファルテシアにはまだ早かったかとも考えたが、納得している辺り問題なく理解は出来ているらしい。
彼女の魔術以外の教育はリリアが自ら行っているらしいが、いったいどのような英才教育をしているのだろうかと気になるところでもあった。
「でも、殆どが副産物で作っちゃったものだからね。あんまり高くはないとは思うけど」
「………何を作ってたんですか?」
「秘密。当てれたら教えてあげよっか」
「え、えぇ……!?えと…………ほ、星になるポーション……?」
「………それ毒じゃない?」
星になる、とだけ聞けばプラスの意味にも取れなくはないが、星になるポーションと言うフレーズは明らかに危険を感じさせるものである。
しかし、そんなワードが出てきてしまうのも仕方ないのだろう。ファルテシアはあの日見た星とアウラの姿が、未だに鮮明に思い出せるほど脳裏に焼き付いてしまったのだから。
「あっ、う………たしか、に………?」
「ふふ、完成したらちゃんと教えるよ。今はまだ全然形にならなそうだから」
「分かりました…………」
僅かに顔を赤くして俯くファルテシア。その様子を見て笑みを浮かべつつも、アウラは先ほどから気になっていたことがある。まだファルテシアはあの2人にとっては目を離せない年頃であり、そのため外出には騎士が街に派遣されるはずである。無論今もそうなのだが、今日は人数が少ないように見えたのだ。
「………今日は騎士の数が少ないね」
「え?あ、確かに………?皆さん他にお仕事があるんでしょうか」
「だと思うけど、少し心配だね」
騎士は貴族にとって武力行使のための手段であり、それが必要になるという事は相応の事件が起こったという事である。となれば父も何かしら関わっている可能性が高く、心配になるのも仕方ないと言える。
ファルテシアもその話を聞いて少し不安げな表情を浮かべつつ、2人は商人のもとへ辿り着いた。
「アウラ様、いらっしゃいましたな。しかしまさか、そちらの箱の中全て?」
「うん。大丈夫かな?」
「えぇ、勿論です。ポーションはいくらあっても困りませんからね」
笑みを浮かべる商人の前に木箱を下ろしていく。商人は早速箱を開け、中のポーションを幾つか見て次の箱に移り、数分程で全ての箱を確認し終えたあとで口を開いた。
「ふむ。随分と品質にバラつきがありますね」
流石に商人のとしての人生が長いからか、一目見ただけでポーションの品質を見極める男。そして、アウラはその言葉に頷く。
「殆どは研究のために作ってた時の副産物だからね………査定に時間が掛かりそうだったら、今度払って貰うのでも大丈夫だよ」
「そうですね………この数と品質の違いを考えると、少々時間が掛かってしまうかもしれません。暫くお時間は貰いますが、必ずお支払いはさせていただきます」
「うん。じゃあよろしくね………それと少し聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「む?何でございましょう?」
「何だか騎士が少ないように見えて。何かあったのかなって」
アウラがそう尋ねると商人は少し驚いたような表情を浮かべるが、すぐに納得したような表情を浮かべた。
「確かにあの領主様なら娘に伝えようとはしないでしょうな………ニルヴァーナ騎士団は、ガイア様が大勢を率いて1週間前に現在ゼルエ領へ遠征に向かったのですよ」
「遠征?どうして?」
「竜が現れたからですね」
その言葉を聞いて、アウラの脳裏に一瞬だけあの白竜の姿が浮かぶ。ファルテシアもピクリと反応を示したが、商人は言葉を続ける。
「なんでも、山をも超えるほどの巨体を誇る竜だそうですよ。ゼルエ領に面するハグリス領を横断している途中らしいですが、そこはもう手遅れな程の被害が出ているらしいですし、移動時間を考えれば間に合わないので巨竜の進行先であるゼルエ領にて迎え撃つそうです」
「そっか………それは大変だね。ガイアが止めてくれればいいけど」
既に多くの犠牲が出ているという話に少し思うところもあるが、彼女がどうにかできる訳でもない。少しでも今後の犠牲者が減ることを願うと、肯定するように商人も頷く。
「そうですな。もしあの方が負けるのであれば我ら人類には勝ち目がないでしょうからね。それに、今回はアルベール様も向かっているらしいですよ」
「先生も?………なるほど。教えてくれてありがとう」
「いえいえ、今後ともよろしくお願いいたします」
人類最強ともいわれる2人が揃った戦いである。師の全力の戦いと聞けば少し気になる気持ちがないわけではないが、同時に心配する気持ちは薄まっていた。
しかし、ファルテシアの方はどうだろうか。アウラは商人に礼を言って離れた後、街を歩きながらファルテシアに声を掛ける。
「ファル、大丈夫?」
「えっ?………あ、大丈夫ですよ。私も他の竜をあの白竜さんと一緒に見たりはしてないですから。白竜さんにも他の竜は基本人間が嫌いだから、絶対に近付くなって何度も言われましたし」
「そっか………」
竜は基本的に人間が嫌いという知らなかった情報が飛び出したのだが、ファルテシアは特に気にした様子はない。それを見て少し安心しつつ、2人は少し街を散歩した後で屋敷に帰ったのだった。




