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61話

 ある日、アウラは工房で資料を作りながら釜に入れているポーションの様子をチラチラと伺う。しかし、普段の彼女とは打って変わり、少しばかり難しい顔をしているようだった。


「………これもダメみたい」


 釜の中の液体が青になっていくのを見て、アウラは小さくため息をつく。出来上がったのはマナポーションであるが、あくまでも作りたいポーションではないため失敗と評したのである。また、通常のレシピで出来た産物ではないため、色々と品質なども酷いものになっている可能性が高いのだ。

 とりあえずポーションとして完成している以上は毒という事はないだろうが、効果を確認するためにアウラはゆっくりと内容物を小皿に入れ、口に運ぶ。


「んぶッ――――げほっ、げほっ!?」


 瞬間、口の中で一気に広がったあまりの不味さに噴き出しそうになるのを必死に抑えて飲み込み、しかしそれが猶更彼女を苦しめる羽目となる。まるで毒物を飲んだかのように苦しむアウラだったが、暫くして復活した彼女は少しだけ溢してしまったポーションを雑巾で拭きとっていく。

 だがその間も最悪な後味がしつこく残り続けているせいか、若干顔色が悪いようにも思えた。


「うぐぐ………普通のも別においしくはないけど、ここまで不味くなるなんて思ってなかった………」


 未来視を普段使いすることはないのだが、今回ばかりは使えばよかったと後悔する。そして残りは処分することが決定しつつ、彼女は大きくため息をついた。全く新しいポーションの開発を目指せば当然失敗は付き物だが、そもそも専門的に学んだ分野でもない調合でそのようなことをするのが誤りとも言える。

 もう少し経験や知識を得てから仕切りなおそうと決めつつ、やはり口の中から消えてくれない後味に我慢が出来ず水を取ってこようと思ったその時、工房の扉がノックされる。


「………ぁ~」


 タイミングが悪いなぁと微妙な表情と声を溢しつつ、アウラはドアを開く。すると、そこには少し前に頼みごとをしていた1人の人物が立っていた。


「アウラ様、この前の件で………どうされました?顔色が悪いように見えますが………」

「作ったマナポーションが凄く不味かった。飲んでみる?」

「不味いと自分で仰ったものを他人に飲ませようとしないでください」


 そう親しげに言葉を交わすのは、アウラの元護衛であるケインだった。少し前に個人的な『お願い』を口が堅い彼に頼んでいたのだが、その報告に来たのだろう。そうしてアウラは小さく笑みを浮かべつつ、本題に入る。


「冗談。それより、あの事の報告?」

「そうですね。アウラ様の仰っていた通り、屋敷周辺で怪しい人影がうろついているのを確認しました。後を追ったのですが、途中で急に消えてしまい………」


 その報告を聞いたアウラは、一瞬だけ未来視を発動する。そうして向こう1週間の内に外出した際の未来を観測したが、そこで彼女が襲撃を受けるようなことはなく、恐らく犯人はあの魔石を使って逃げたのだろうとアウラは判断する。


「………うん。もう大丈夫じゃないかな?多分、その人はもうこの街から逃げちゃったんだと思う」

「そうですか………一応聞きますが、アウラ様はご自身が狙われる心当たりなどはありますか?」

「うーん………ボク個人としては心当たりはないけど、これでも貴族令嬢だからね。狙われる理由だけだったら、幾らでも出てくると思わない?」


 あれから色々考えたが、考えれば考えるだけ悪い思考が浮かんでしまうため原因を探ることは諦めている。手っ取り早いのは犯人を捕まえることだが、少なくともアウラが観測した未来に犯人を捕らえることが出来る未来は存在しなかった。


「それは………」

「多分暫くは大丈夫だと思う。相手はかなり慎重だったみたいだから………向こうから来てくれれば、手っ取り早かったんだけど」


 魔術師が幾重にも罠を仕掛けてある陣地での戦いは、魔術師が圧倒的に有利である。この工房を基礎に、敷地内を全て陣地にしているアウラは殺しを避けるために攻撃性を持つ罠は使わないようにしているが、それでも盤面を整え地の利を得た魔術師に対抗するためには最低でも格上以上の魔術師でなければ不可能だと言われているのだ。

 まだまだ伸びしろがある彼女であるが、それでもアルベールの後継者として圧倒的に有利な陣地内で敗北するような事は許されない。寧ろ、逃げる暇すら与えない程でなければ賢者の席はまだまだ遠い未来だとすらいえるだろう。


「………アウラ様は案外、気が短いところがありますよね」

「面倒なことは嫌いだから。だったら、早めに終わらせるに越したことはないでしょう?」


 そもそもな話、魔術師として賢者の席に迎えられるためにまずは実績を作らなければならないのだ。空席がいつまで残っているか分からない以上、今からでも魔術師として名を上げるに越したことはないのだから。

 魔術研究も当然必要だが、何かしら行動を起こさなければいけない以上は引き籠ってばかりではいられないのだ。だが、今はそれ以上に優先するべきこともあった。


「それじゃあ、報告は以上?ボク、ちょっと急いでるんだ」

「あ、はい。報告はそうですが………何か用事でもあるのですか?」

「まだ口の中に後味が残ってるんだよね。さっきからずっと気持ち悪いの」

「あぁ………」





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