59話
ファルテシアの初の外出からまた暫くが経った日のこと。その日、工房のすぐ外にある花壇にアウラとファルテシアが水をやっていた。せっかくポーションや錬金術が出来る設備があるのなら、その素材を作るのも自分でやってみようと言う思いから作った花壇だったが、そういった素材になる魔術植物は通常とは違って魔力を吸収することでも成長する。そのため基本的には成長速度が早く、もうすぐ収穫が出来るほどだ。
「これって、どんなポーションの素材に出来るんですか?」
「ん~………色々かな?加工や合わせる素材次第でヒーリングポーションにも使えるし、マナポーションにもなるよ」
「そうなんですね………その、ポーションを作るのって難しいんでしょうか」
「レシピ通りに作れば難しいことはないと思うけど………慣れは必要かな。それに、直接魔術に関連する分野じゃないから、まずは基礎を固めてからがいいと思うよ」
アウラはそう説明しつつ、ファルテシアがポーション作製に興味を持っていることに気付いていた。いずれ教えるのも視野に入れつつ、アウラがポーションの作り方を教わったのはかなり後の方だ。
ファルテシアはまだアウラが独学で学んでいた所をゆっくりと学んでいる途中であるため、教えるのはかなり後になるだろうと考え………そう言ったことを思い出せば、魔術の勉強ばかりだった今までの事を思い出していく。
(キミがボクに人生を預けてから、もう5年が経ったね。予想とは違った進み方をしたけど、それでも………)
魔術に通じる道を歩むつもりではあったが、4年前まではまさかアルベールに弟子入りすることになるとは思わなかったアウラ。
だが、それは魔術師として最上級の名誉であり、同時にあまりにも大きな責任も背負ったのだが。
(………昔は魔術師としての道しか見えてなかったのにな。そのために学校に行く道を選ばなかったけど………今は少し、余裕が出来たからかな?)
一生を掛けて魔術師として大成するその道は、師のおかげで随分と近い将来になっただろう。確かに以前までも貴族としての立場を忘れたわけではなかったが、勉強をして………と考える暇は独学で得られるものではなかったはずだ。
(………まずは、師匠と同じ所まで辿り着かないとね)
賢者の席を与えられる条件は明確ではないが、論文や実績などで魔術師として名声を高めた魔術師たちの中から候補を見繕った後で、賢者たちの集会で投票が行われる。
そして今は賢者に空席が出来ているとも聞いていたが、現在は候補として上げれるほどの魔術師すら殆どいないとアルベールは言っていた。故に何かしら行動を起こして実績を作りたいところなのだが、それが出来ない理由があったのだ。
(ここ数日、ずっとボクを狙ってる人がいる………どこに連れて行く気かは知らないけど、ロクなことにならないのは間違いないし)
未来視で見た光景。それはアウラが街のどこに向かおうが、必ず『何者か』に襲撃を受ける未来だった。相手の狙いは命ではないらしいが、少なくとも未来視で見える範囲内が目的地ではないようだった。
そして相手は少なくとも、あと1週間は諦めない様子だ。未来視でその正体を確認したかったが、転移魔術を登録した魔石を持っているらしく、どうやっても最終的には逃げられてしまう未来だけが見えていた。相手の正体も掴めず、ただ騒ぎになって終わるだけならば最初から街に出ないのが賢明だと判断していたのだ。
(………思い当たる節はないけど、ボクの立場を考えれば狙われる理由は考えるまでもないかな)
魔術師としてか、貴族としてか。特に個人からの恨みを買うようなことはないはず………と考えてあの盗賊達の事を思い出したが、彼らが魔石などという貴重かつ高価なものを使ってまで自分を狙ってくるとは思えず心の中で否定する。
そして仮に今のアウラが邪魔と感じる何者かがいるとすれば………やはり、三大貴族のイヴニール家だろう。
(ヘレン曰く、ボクが留学してからアルファーネ家との交流や仕事が増えたらしいからね。あれをきっかけに両家の繋がりが強くなったのは間違いないし………でも、わざわざアルファーネ家と明確に敵対する意味もないよね)
様々な考えが浮かんでは否定意見が出てくる。短期的にみればアウラを人質に取ることで生まれるメリットもあるだろうが、長期的にみれば愚行としか言いようがない。寧ろ、それが原因でアーレス家とアルファーネ家が完全に結託すれば、あまりにも状況が悪いのだから。
(ん~………じゃあ、この王国じゃない勢力かな?それだと、本当に狙われる意味が分からないけどさ)
面倒な事態に頭を悩ませつつ、早めに諦めてもらうことを願うしかない。何の情報も無しに刺客がいると言ってしまえば、流石に未来視の言い訳も難しくなってしまうため、騎士を動かすのも可能な限り避けたい。あまり長く続くようならば、その時は騒ぎになってでも自ら返り討ちにしてしまおうかとまで考え………
「――ちゃん?………お姉ちゃん?」
「えっ?あ、ごめんね。ちょっと考え事してて………」
「そんな感じがしてました。こっちの水やりは終わりました」
「うん、手伝ってくれてありがとう。じゃあ中に戻ろう?」
「はい、分かりました」
暫くは魔術の研究や妹の世話に専念しようと考えなおし、アウラはファルテシアと共に工房へと戻ったのだった。ただし、少しばかりそっち方面の事について調べてみようかと考えながらだが。




