58話
アウラとファルテシアが約束を交わした翌日、早速アウラは妹を連れて街に出ていた。今まで一度も街を出歩いていないという事は街の人々もファルテシアの姿を見るのは初めてであり、それでも2人で手を繋いで街を歩く姿を見て、微笑ましそうに見守る人ばかりであった。
そして当然、ファルテシアにとっても街をしっかりと見るのは初めてである。
「凄い人の数………」
「王国でも特に大きい街だからね。最初はびっくりするよね」
「はい………でも、嫌いな雰囲気じゃないです」
ファルテシアはキョロキョロと辺りを見渡し、落ち着きがない様子だった。それでも嫌がってると言う感じではなく、ただ新しい景色に気になることが多すぎると言った好奇心が故だからだろう。
しかし、そんな中でも一際目立つ事があった。それは当然………
「………こんなに警備が厳重なんですね」
「あぁ、ううん………これはなんというか………」
「?どうして気まずそうなんですか?」
「ん~、普段はこうじゃないんだけど………」
「………?」
そう言ってファルテシアは不思議そうに首を傾げる。アルファーネの家に来てからそれなりに経ったが、彼女はまだあの2人の過保護っぷりを知らないらしかった。
(それか、基準が分かってないのかも………どちらにせよ、この子がもう怖い目に合わないならそれでいいかな)
「………そうだ。少し行きたいところがあるんだけど、いい?」
「はい、大丈夫です」
アウラはふと昔の事を思い出してそう尋ねた後、とある場所へ歩き出す。昔とは少し景色が変わった所もあるが、活気だけは今も昔も変わっていない。
そしてアウラの目的地には、記憶と変わらない屋台があった。
「こんにちは」
「おや、アウラ様!お久しぶりでございます!見ない間に大きくなられましたなぁ……」
「ふふ、まぁね………それで、今日はこの子にご馳走しに来たんだ。昔と同じで、ケルピーを2本お願い」
「あぁ、噂の妹様ですな!とっても可愛らしいお嬢様ですねぇ………すぐ出来上がるので、少々お待ちを!」
店主の気の良さも相変わらずで笑みを浮かべながら頷くアウラ。すると、店主は肉を焼きつつそんな彼女を見て少し驚いたように話し始めた。
「外見もですが、内面と随分と変わりましたね」
「………そうかな?」
「えぇ。昔のアウラ様は無口と言うか、物静かな雰囲気でしたから。今は子供らしく笑うようになって…………」
「………そうだったんですか?」
「そうなんですよファルテシア様。と言うより、あなた様を見ていると昔のアウラ様のようで、流石は姉妹だと感じますな」
ファルテシアは意外そうにアウラを見る。アウラ自身も、最近は昔よりお転婆になりつつある自覚があるため、特に反論などはしない。
だが、彼女を年長者としての目線で長く見守ってきた者からすれば、アウラが子供らしいと言うのは同意出来なかっただろう。
端から見れば昔よりも子供らしく活発なように見えるだろうが、その小さな体躯には不釣り合いなほどの責任と期待を背負っているのだから。
「私がお姉ちゃんと似てる………」
ボソリと少し嬉しそうに呟くファルテシア。昨日の事があって、アウラは他人行儀な呼び方を変えてみないかと提案したのだ。
最初は嫌がられる………と言うこともなく、寧ろ喜んだようにそう呼んで、その後初めて彼女から「お父さん」「お母さん」と呼ばれたアルクとリリアも大層喜んでいた。
「………」
そんなファルテシアの頭をそっと撫でると、彼女は驚きつつも嬉しそうに笑みを浮かべる。そんな二人のやり取りを見て微笑ましい気持ちになった店主だが、丁度肉が焼き上がって串を通していく。
「お待たせしました。熱いのでお気を付けを!」
「うん、ありがとう」
アウラは串焼きを受け取って、1本をファルテシアに渡す。香ばしい香りが嗅覚を刺激し、ファルテシアはゆっくりと口に運ぶ。
「………!おいしいです!」
「ふふ、良かった」
嬉しそうに声を上げたファルテシアを見て、暖かい気持ちを抱くアウラ。あの日の兄も今の自分と同じような気持ちだったのだろうかと、もう何年も会っていない兄の姿を思い浮かべ少し遠くに視線を向ける。
「………どうかしましたか?」
「ううん、ちょっと昔の事を思い出しただけだよ………ふふ、久しぶりに会いたい人が出来たなって」
「そう、なんですね?」
彼がファルテシアと会ったら、どのような反応をするだろうか。事の顛末はアルクが手紙で伝えており、新たな家族を歓迎するとの返事も来ていたらしいが、やはり気になるものは気になる。
そう考えながらアウラも串焼きを口に運ぶ。久しぶりに食べた懐かしい味に、アウラも舌鼓を打ったのだった。




