55話
盗賊を使った不正や工作の捜査。それはたった数日で驚くほどにスムーズに事が進んだ。アウラ自身がターゲットにする家、潜入する人員、そして時間の全てを指示。そして後に引けない彼らはそれを死に物狂いで遂行するしかなかった。
しかし、追い詰められた人間ほど本来以上の力を発揮するものだ。やや危ういことがなかったと言えば嘘になるが、結果は上々。次々と出てくる証拠を前に、アルクはそちらの対処に追われることとなった。
「次はこの家。正午くらいにあなたとあなたが潜入して。持ってくるのはここ最近の傭兵との契約記録の写しでいいよ」
「………応」
街の外れにある小さな小屋の中で、アウラは盗賊達に指示を出す。まるで最初から分かっているかのような………いや、「ような」ではない事は何となく全員が察しつつあった。どのような方法なのかは分からないが、目の前にいる少女は、最初から全て知っていたのだ。
決められた筋書きをなぞるように、その言葉の通りにしていれば全てが上手くいく。何故自分たちのような者をわざわざ使うのか理解できないほどだ。
「………ボクの顔に何かついてる?」
「いや………だが、お前を見ていたらますます俺たちを使う理由が分からなくなってきた。お前にとっちゃ、こんなのただの茶番なんだろ?最初からお前が指揮を取れば、俺たちなんかいらねぇはずだ」
「さて、ね。あなたの質問には答えないけど、一つ言えるとしたら………常に完璧に応えてくれる人間はいないんだよね。あなた達も、少し危ないところはあったでしょう?」
例え事細かに指示をしようと、一挙手一投足まで完全にアウラの理想通りに動ける人物はいない。たった一歩の動きが未来に大きな影響を与えることは少ないが、決してないとは言えないのだ。
それほどに未来とは不確定なものであり、だからこそ"他者"に行動を委ねた時点でアウラの未来視は確定的なものではなくなる。その失敗のリスクすらも、アウラは潰しておきたかったのだ。
「………ほんの少しのリスクであっても許容できねぇってか」
「当たり前じゃない?それに丁度よく腕のいい盗賊がいて、偶然捕まえられるタイミングが来たんだから、それを利用するだけでリスクを減らせるなら安いと思うけど」
「俺たちがまた盗みを働くとは思わなかったか?」
「ふふ、どうせこの領地じゃもうやらないでしょう?」
分かり切っているように言い放つ。しかし、それは未来視をするまでもなく分かり切っていた事だった。彼らの護るべき存在を人質に取られたここで活動を続けるのは非常に危険だ。
今回はこの計画を完遂すればこれまでの罪を不問にすると言う契約だが、その後は違う。もしまた略奪を行うのなら、今度こそ牢に入れられるだろう。そう確信するほどに、この少女の目からは逃れられないと男達はその能力を見せつけられているのだから。
「………ちっ。可愛くねぇガキだ」
「ん」
そう吐き捨てた男にすぐさま渡された一枚の紙。嫌な予感がしつつそれを受けとると、そこには雑に書かれた目的地までの地図。
「ここはあなたに任せるね。とっても警備が厳重で、ここの主は拷問が好きだって有名な人だけど、大丈夫だよね?」
「………」
笑みを浮かべつつ、どこか圧のあるアウラ。やっぱり可愛くないと思いつつ、自分がやらねば部下に回されるだけなので無言で頷く。
「いつからだ」
「あと1時間くらいしたら。侵入経路とかはあなたが一番やりやすいようにしていいよ」
「ふぅん………こいつらどうなるんだ?」
「………どうだろうね?」
そもそも彼らとは利用しあう関係に過ぎず、余計な情報を喋るものでもないため、アウラは回答を拒否する。
男も自分の立場を理解はしているため、それに対して特に文句を言うことはなかった。
「………」
しかし、悠長にはしていられない。今も食料を待っている仲間達がいるのだから。このペースなら、明日には仕事も終わるだろうとの事だ。
認めたくはないが、結果的にはこの話に乗った事は彼らにとって悪い話ではなかった。貴族の子供の言いなりと言うのは気に食わないが、陥れられていないだけマシだとすら考えるほどだ。
「………今日はこれくらいかな。夜にまた食事を持ってこさせるから、空腹で仕事が出来ないなんて言わせないよ」
「分かってる」
「ん、じゃあね」
アウラは足早に小屋から出る。そして、ここまでは上手く行っている事に小さく安堵の息を吐いた。
先日は彼らを使い捨ての駒のような言い方をしたアウラだったが、実際にはそこまで過激な思想まではしていない。
確かに彼らは盗賊ではあるが、それでも悪逆非道と言われるほどの行いはしてきていないのだ。温情を掛ける余地は十分にあったとも言える。
そして計画通りに行けば互いにメリットがある上に、あの盗賊達に恩赦を与えつつ今後の盗賊としての活動を牽制する事が出来る。
無論、陰謀を企てた者達に対しては容赦する余地はないが、こちらに関しては妥当だろう。
「ん~………ちょっとお散歩してから帰ろっと」
留学していた頃の日課となっていた散歩。毎日と言うわけではないがまだその意識が残っているため、折角ならとアウラは暫く街を歩いてから屋敷に戻るのだった。




