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53話

 とある日の昼過ぎ。アルファーネ領の中でも最も大きな農村に、招かれざる者達が訪れようとしていた。

 その広い農地から採れる農作物は質も良く、街との取引も盛んなその村はニルヴァーナの食料事情の大半を担う………と言うのは流石に大袈裟だが、もしもの事があれば少なくない領民が飢えることとなる重要な土地であった。


「いいか。村に入ったらスピード勝負だ。次のチャンスは回ってこないだろうからな」


 そんな村の付近の森から村を見ていたのは20人にもなる集団。顔を布で隠した彼らは、最近ここらで少し話題となっている盗賊の集まりであった。

 神出鬼没で素早く、ニルヴァーナの街で盗みを働くこともある程で、騎士達にとっては悩みの種でもあった。


「騎士に出くわしたらどうするんで?」

「問題ない。今日は騎士の奴らの配属交代の日だ。この村には最低限の人数しか残ってない」

「なるほど………」

「それと、いつも言ってるが可能な限り殺しは避けろ。やり過ぎるとあの騎士団長が出てくるからな。いいな?」

「応」


 部下に指示を出したのはこの集団を纏める男であった。その盗賊らしからぬ計画性と統率を持つせいで、全ての対応が後手に回ってしまうのだ。


「…………始めるぞ」


 男の言葉で全員が動き出す。食料庫は村の比較的中心であり、故にこの広い農村で隠密行動は難しい。

 故に人手の少ない日を狙った計画であり、この日のために数ヶ月前から騎士達の交代周期などを綿密に調べていたのだ。


(計画が成功すれば、みんな暫くは飢えずに済む。重要な拠点なだけあって俺たちへと警戒も強まるだろうが、息を潜め警戒が薄まるのを待てばいい………!)


 村に雪崩れ込んだ盗賊達。隠密行動にも自信はあり、少数の騎士ならば対応出来る実力もあった。街に伝わるまでに目的を達成すれば良いのだ。難しいことはないはずだった。





「まさか本当に来るとはな。時間までぴったりだ」

「………は?」


 だが、そんな計画は目の前に現れた数十人規模の騎士を見て崩れ去る。彼らはまるで最初から待っていたかのように、家の影や荷車の背後に隠れていたのだ。


「な、何故――――っち!逃げるぞ!戦って勝てる奴らじゃねぇ!!」

「りょ、了解!!」


 盗賊達が一斉に踵を返す。いくら盗賊とは言え、相手は何年もの鍛練と実戦を積んだ"戦士"達であり、それなりに腕はいいとしても戦いが本分でない盗賊達が正面から戦って勝つのは難しい。

 そんな冷静な判断は正しかった。ただし、正解だとは限らない。背後から挟むように現れた騎士を見て、彼らの表情は絶望に染まったのだ。


「何故………俺たちがここへ来ると分かった?」

「ふむ。他の仲間がどこにいるかを答えれば答えてやらんこともないが」


 この騎士の隊を纏める初老の男が答える。彼もケインと同じく精鋭隊の1人であり、その実力は長い騎士人生によって培った経験から相応に高い。

 無論、ここまで待ち伏せをされれば自分達の計画がバレていた以外にあり得ず、となれば自分達の中に裏切り者がいる可能性すらあった。


「………」

「沈黙が答えか。まぁいいがね」


 とは言え、ここで仲間を売る事はなかった。結局のところ、彼らは自分らを逃すつもりはないだろうし、もしそうだとしても仲間を裏切る事は出来ないのだから。


「どうする?抵抗しても良いが、大人しく捕まるなら悪いようにはせんよ」

「………」


 騎士の人数は盗賊達の倍。実力で劣り、数でも劣る。と言うよりも、その気になれば目の前の男1人で全員の首が飛ぶことにすらなるだろう。

 それに、ここで素直に従っていれば………それが仮に微かな希望であろうと、僅かな温情を与えて貰える可能性もある。迷う事はなかった。男達は持っていた武器をそれぞれ手放し、その場に膝をつく。


「………降参だ。大人しく捕まる」

「賢明だな。では身柄を拘束させて貰うぞ」


 男が部下に指示を出し、盗賊達の手に縄が掛けられる。その途中、隊長と1人の騎士との会話が聞こえた。


「………まさか、本当にあの方の言う通りになるとは」

「全くだ。立派な魔術師になったと噂は聞いていたが、どのような手段を使ったのやら………」


(………裏切り者じゃ、ない?)


 そんな疑問が生まれつつ、彼らは連れていかれる。恐らく馬車に乗せられて街の牢に入れられるのだろう。

 しかし、彼らの考えとは裏腹に全員が街の中心へと連れていかれる。そこには馬車が用意されてはいたのだが、その豪華な作りは護送用とは思えず、スーツ姿の男性と少女の前に膝を付けさせられた瞬間、これが普通ではないことはすぐに理解出来た。


「領主様。彼らを捕らえました」

「うむ。ご苦労」


「領主、だと………!?」


 男が目を見開く。何故そのような人物がここにいるのか分からなかったが、現状が良いものではない事は明らかであった。

 貴族の娯楽として、ここで公開処刑が行われるのではないか。そんな想像まで浮かび、中には既に諦めの表情を浮かべている者もいたのだ。


「ふむ………」


 男………アルクが騎士から報告を受けた後、彼らに視線を向ける。特別含みがあったわけではないのだが、盗賊達にとってはそれすら自分達を嘲るように聞こえたのだろう。


「…………さっさと殺せよ」

「む?」

「殺せってんだ!てめぇら貴族の見世物になるくらいなら、死んだ方がマシだ!!」


 怒号をあげる。貴族によってはそのような事をすれば問答無用で首を切られるだろう。しかし、彼らにとってはそれで良かった。

 すぐに怒りに染まる貴族の顔を想像し、睨み付ける。しかし、アルクは特に表情すら変えることなく、そっと視線を隣の少女へと向けた。


「………威勢は良さそうだが、彼らでいいのか?」

「うん。いいと思うよ」


 そんなやり取りの意味が分からず、困惑する盗賊達。すると、声を掛けられたその少女が彼らの前に出る。

 拘束されているとは言え、彼らは盗賊。しかし、その青と金の瞳には全く恐れの感情はなく、少女はリーダーの男の前で止まる。


「こんにちは。ボクはアウラ・アルファーネ。実は、あなた達にやって貰いたい仕事があるんだ」

「…………は?」







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