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52話

「………うん、やっと準備できた」


 ある日の工房の中心。その床に一つの術式を描いていた。魔術師の工房は、敢えて内部は魔術的な細工がし易いように設計されることが多い。それは、工房の持ち主が後から魔術的に手を加えたり、細工を施したりすることが多いからだ。

 本来ならば研究成果を守るためのトラップなどを何重にも張り巡らせるのだが、アウラの場合はそういった攻撃的な細工は取り入れていなかった。あくまでも攻撃的な、ではあるが。


「"永夜の門。私の世界を開くなら、ここ星の光を刻む"」


 アウラが術式の上でそう唱えると、足元の術式が光を放って消えていく代わりに、唐突に周囲の壁が崩れるようにして消え去ったのだ。だが、その先に広がっていたのは外の景色ではなく、遥かなる星の世界であった。

 また前よりも少し光が増しているその世界を見て、アウラはそっと笑みを浮かべ目を閉じる。そして次に目を開いた時、工房は何事もなかったかのように元通りになっていた。


(………これで、魔術研究もしやすくなったかな)


 空間置換、というべきだろうか。こうして外見上は何も変わらない工房だが、先ほどの儀式によって実際にはあの夜と物質界を繋ぐ楔のような空間となっていた。

 あの白竜の助言によって空間魔術のコツを掴んだが故に出来た芸当であるが、自分の魔術に対する感覚は常人とは違うという面がより強く実感することになった一件でもあった。


 魔術理論に関してはアルベールの手解きもあって完璧に出来ていたが、感覚を掴めなければ形にすることは難しい。アルベールもその点だけはかなり苦悩したようだったが、何千………もしくはそれ以上の時を生きた竜と似たような感受性であったと言われれば当然であった。


「………あなたとも、もう少し話してみたかったよ」


 過ぎ去ったことを想う事を悪いことだとは思わない。けれど、かの竜はそれを望まないだろう。自分に出来ることは、あの約束を抱えて前に進むことだけなのだから。そして、これはその準備だ。

 水が張られた釜に近付き手をかざすと、そこにあの夜が投影される。その水面へ人差し指で触れ、何かをなぞるように動かすと、映し出された星々はそれに呼応するように動き、アウラは黄金の瞳に薄く光を宿した。


「"星々の言葉。その瞳に映し出すは因果の果てを。廻り続ける夜を超え、あなたの道を照らすだろう"」


 その時、琥珀の瞳に揺らめく光が灯った。流星のように尾を引くその光は今までよりも鮮明に【星】を映し出す。アウラは暫くどこか遠くを見つめていたようだったが、やがてその光が消える。

 ふぅ、と小さく息を吐いたアウラはそっと近くの椅子に座った。そして、ゆっくりとドアの方へと視線を向けた数秒後、コンコンと扉をノックする音が。そうして入ってきたのはティアネであった。


「失礼いたします」

「いらっしゃい。お母さんからお茶のお誘い?」

「え?え、えぇ………良くお分かりになりましたね」

「この時間の用だと、それくらいしかないと思って」


 お茶会、というよりは家族団欒の時間というべきだろう。アウラが目覚めたときから良くあることため、予想することは難しくはなかった………というのは建前であり、実際は先ほどの儀式によって得た新たな【星】の力であった。

 元々彼女の未来視は緩やかな成長を見せており、卒業するころには10分先までならば見通せるようになっていた。


 だが彼女の星夜が物質界に顕現した今、星々が照らし出す未来の範囲は遥かに広くなったのだ。




 7日間。それは予言と言っても過言ではない未来であり、様々な運命を左右するには十分過ぎる時間であった。


「それじゃあ行こっか」

「えぇ、リリア様たちがお待ちですよ」


 アウラとティアネは工房を出て屋敷へ向かう。強力な力であることは間違いなく、将来の自分には必ず必要であるとも考えていた。しかし、今すぐ使える方法でパッと思い浮かぶのは………


(天気予報くらい、かなぁ………)


「どうされましたか?空をじっと見ておられましたが」

「ううん、なんでも」


 詠んだ天気の未来は7日後までずっと快晴。わざわざそんなことを言う必要もないためアウラは首を横に振った。

 そうしてアウラはティアネと共にいつもの談話室の戸を開く。


「アウラ、いらっしゃい。準備は出来てるわよ」

「うん。ありがと…………あれ?」


 しかし、基本的には忙しかろうと時間を作っている父の姿がなく、そのことにアウラは首を傾げた。


「お父さんは?」

「お父さんはちょっと厄介な仕事が舞い込んで来たらしくてね。ここ最近色んな所に出てるのよ」

「…………そうなんだ」





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― 新着の感想 ―
次から次へと展開がコロコロ進んで読んでて面白いです。
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