50話
「リリア。ファルテシアの服を探してやってくれ。アルファーネの娘になるのであれば、いつまでもそのような布切れでいさせるわけにはいかないからな」
「えぇ、分かったわ。ファルテシア、私と一緒にいらっしゃい」
「は、はい………!」
リリアに案内され、ファルテシアは部屋を出ていく。その後にティアネも続いたため、部屋にはアウラとアルクの2人だけが残された。どんな服になって戻ってくるかと楽しみにしていたが、それでももう一度彼にお礼を言わなければならないと思ってアウラは彼に向き直った。
「………ありがとう。お父さん」
「まったく………お前は本当にいつも私の予想を越えてくる。それでこそお前らしいとも言えるのかもしれんな」
「それは………誉められてるのかな?」
「勿論だ。さて………こちらからもお前に見せたいものがある。ついてきなさい」
見せたいもの?と首を傾げつつアルクの後に続くが、その途中でアウラは気になった事があるため口を開く。
「ボクが聞くのもなんだけど………体裁がって言ってたけど、平民を養子にするのは大丈夫なの?」
「無論、良くは思わん者も出てくるだろうな。しかし、私の娘ならば体裁などどうでも良いことだ。お前もそうだったようにな」
「………そうだね。変なこと聞いてごめんなさい」
「いや、お前にとっても突然妹が出来たようなものだからな。色々気になるのは仕方ない。私も暫くは慣れそうにないからな」
そう言いながらも、アルクの表情や雰囲気に不満はなく、寧ろどこか満足げな様子ですらあった。何故だろうかと考えつつも、アウラ達は見覚えのない渡り廊下に出る。だがその先にある大きな建物を見て、アウラは目を見開いた。
「え、もしかして………」
「あぁ。3か月ほど前にようやく完成したんだ。高名な魔術師や技術者の意見を聞きながらではそれなりに時間が掛かってしまったが………満足できるものになっただろう」
「ま、満足できるって言うか………あれ、本当にボク1人で………?」
大きい。明らかに1人用にしては大きいのだ。3人、もしくは4人でも持て余す可能性すらある。しかし、アルクは首を横に振った。
「お前の部屋も兼ねているからあれで問題はない。無論、世話のためのメイドもいるから心配はいらんぞ」
「部屋………部屋というよりも家………?助かるといえば助かるけど………」
工房と屋敷を行き来する必要が減るのは願ってもない事なのだが、そこまでしてもらってもいいのだろうか、という疑問はこの2人だからなぁという結論が出てしまう。
だが、逆にここまでしてもらった以上は必ず夢を叶えてアルファーネ家として相応しい結果を残さなければ、という使命感も感じるのだが。
「さて、ここで見ているだけでは何も始まらんからな。中を見せよう。きっと気に入ってくれると思うぞ」
「うん」
大きく頷いて彼の後に続く。色々と考えはしたが、自分だけの工房という響きに心が躍っているのも事実であった。彼女も魔術に心を奪われた者なのだから当然だろう。正直、柄にもなく走りだしたくなるほどだ。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、アウラを見てそっと微笑むアルク。そうして扉の前に着いた時、アルクが彼女にドアを開くように促す。少しドキドキしながらも、扉に手をかけてそっと開き………
「わぁ………!」
広がっていたのは、広い部屋に本棚や魔術研究用の設備や大きな机などが用意された部屋。更に部屋の様々な場所に星を象った装飾が施され、一目で彼女のための工房だとわかるようになっていた。
まだ玄関から見渡しただけであるが、それでも魔術師の工房としてはあまりにも贅沢なものだろうと言うのはすぐに分かった。
「………こうして用意したはいいが、設備などはお前が学んでいる分野かどうか分からないものも多くてな」
「あぁ………うん。魔術の殆どは先生から学んだから仕方ないよ。パッと見ただけでも、ここにあるので十分――――」
「故に、とりあえず全部付けてもらったぞ」
「なんで?」
アウラは即座にツッコむ。魔術師の設備はどれも高額であり、一つ用意するだけでも普通の魔術師は厳しいのだ。その中でも工房に用意するもので最重要となるのは研究に必要な資料室と個人の魔術適正に適した設備、そして魔導書を製作するための魔術台である。
錬金術を行うための設備やポーションを作るための設備、マジックアイテムを製作するための設備などは必須の分野ではなく、人によっては作らないというものも少なくはない。それらを全て作ったというのだから、それはもうとてつもない金額が動いたことになるのだ。
「お前が必要な時に困るようではいかんからな。これくらいは当然だ」
「そっか………」
当然、と言える範囲の規模が大きすぎて何も言えなくなるアウラ。無論、三大貴族と言われるだけあって莫大な資金力や影響力を持っているのは理解していたが、アルベールの下で正しい魔術師としての知識や常識を身に着けた今ではそれがあまりに異常だったことに気が付いた。
そもそも、彼女が昔買っていた本1冊ですら庶民からすれば十分高級品だったのだが。その自覚はない辺り、やはり貴族の娘と言ったところである。
「………でも、ありがとう。一応、先生から魔術教科は全部教え込まれたから、無駄になる設備はないと思う」
「おぉ!流石は我が娘だ………!全ての分野を履修した魔術師は貴重だと言うからな。金を掛けた甲斐があったというものだ」
アルクは嬉しそうに笑みを浮かべた。なお、2階には居住スペースとなっていたのだが、やはり予想した通り部屋というよりは家であった。食事以外はここで全てできるようになっているらしいが、食事に関しても必要ならばメイドにここへ持ってこさせるとの事であった。
とはいえ、アウラ自身も家族との交流は大事にしたいため出来る限りは皆で食卓を囲むつもりであったが。
「………折角こんなのを用意してもらってるんだし、皆のためになるような事も始めようかな」
紹介が終わって工房に残ったアウラは、1人そう呟くのだった。




