49話
領主の屋敷、その応接室でアウラ達は向き合っていた。そこにはメイド長のティアネもおり、皆が難しい顔をしていた。
勿論、アルクもリリアも彼女の帰還を喜びその成長を祝ったのだが、それとこれとは別の問題である。
「………アウラ、経緯を聞かせてもらえるか?」
それでもアルクが冷静にそう聞いたのは、彼女がいたずらにこのような事はしないと信じていること………そして、アウラのとなりに座る痩せ細った少女に、いつかの娘の面影を見たからだろう。
「うん、ボクもそのつもり」
そうして、アウラはあの森であったことを全て………白竜との最期の契約を除く全てを皆に話す。
あの森でなにが起こっていたのかはファルテシアも初耳だったため、最期まで彼女の身を案じていた白竜の話を聞き、また涙が零れていた。
「そんなことが………瘴気の発生は街にも知らせが来ていたけど………」
「まさか………【呪い】がそのようなものだったとはな」
「ボクも驚いたよ。でも………ううん。だからこそ、その犠牲者を少しでも減らしたい。あの【呪い】を乗り越えて今がある事を証明するためにも」
「………それで、お前はどうしたいんだ?」
アルクは彼女の意図を半ば察しつつも敢えてそう問いかけた。彼女が全て話したのは、正面から2人を説得するためであると言うのは理解していたからだ。
「この子を、うちで保護してあげたい。それがあの白竜との約束でもあるし、ボクもこの子の事を他人事だと放っておけないと思うから」
「…………そうか」
アルクはそう言って顎に手を添えてファルテシアに視線を向ける。外見を見ただけでは、痩せている以外は一見【呪い】の事は分からないが、ファルテシア曰く前は肌に黒い痣が無数に刻まれていたという。
今は白竜のおかげで痣は殆ど消えているが、その首にはまだ微かに痣が残っているのが見え、背中やお腹にもまだ残されているらしく、その【呪い】の残滓の気配も分かる人には分かるらしい。当然、2人は黙っていられるはずもなく………
「………アウラ、1つ言いたいことがある」
「………うん」
アウラとて、「はいそうですか」とすんなり受け入れてもらえるとは思っていない。暫くの沈黙の後のアルクの言葉に、アウラも緊張しながら頷く。
「そもそも、瘴気の中に1人で飛び込むなど危険な真似はやめなさい」
「うん、難しいのは分かっ――――え?そっち?」
「何よりも重要な事だ。お前が立派になったことは嬉しいが、そもそもだな………」
そうして、何の前触れもなく唐突に2人の長いお説教が始まったのだ。道中の馬車でもみっちりお説教を受けていたアウラは
「うぇ~~…………ケインにもいっぱい怒られたのにぃ…………」
と泣き言を溢しつつ、暫くアルクとリリアのお説教を受ける。しかし、「今すぐに出ていけ」とまで言われる覚悟をしていたファルテシアにとっては困惑する流れになってしまい、それでもアウラの事を本気で想うが故の2人………途中からティアネまで参戦し3人になったお説教に、あの大きく優しかった白竜の姿を重ねて彼女は気付かぬ内にまた嗚咽を漏らし始めていた。
「…………」
その姿を見たアルク達は一度沈黙し、小さくため息を付く。そしてやや小さくなってしまったアウラに向き直った。
「お前の決めたことだ。その夢を応援すると決めた以上、それが自分の道だと言うのならば私はそれを後押しする」
「…………っ、じゃあ」
「ただし、保護はダメだ。貴族として流石に体裁が良くない」
「それは………そう、かもだけど」
「故に、だ」
アルクはそこで言葉を切ると、リリアに確認するように視線を向け、彼女も頷く。
そして、再びアウラとファルテシアの方を見たアルクが続けた。
「我が家の養子になるのであれば、お前を迎えよう」
「………えっ」
「養子………じゃ、じゃあ………」
「あぁ。私の娘となり、アルファーネの名を背負う覚悟があるのなら、うちに来なさい」
アルファーネの名を背負う。わざわざそう断言したからには、「決して客として丁寧に扱うつもりはないぞ」と言う意思の現れでもあった。
彼からすれば試すと言う意味なのだろうが、彼らの親バカを知っているものからすれば苦笑しただろう。
無論、そんな事を知らないファルテシアには効果があったのだが。
「私、は………」
ファルテシアが迷うように視線を向けたアウラは、その視線を受け止めながらも何も言わない。
アルク達が視線でそう言っていたのもあるが、彼女自身が手を伸ばすのを待っていた。そして、あの白竜の持つ全てを注がれたこの子なら出来るだろうとも。
「…………私は、生きなきゃいけません。あの人から繋いでもらったこの命を無駄にしないためにも…………だから……だから……!」
ファルテシアはぎゅっと胸の前で手を握り、そして涙を拭って顔を上げた。
「私を………私を、アルファーネの子にしてください………!今はまだ未熟ですけど、その名に恥じないように沢山お勉強もします!だから、どうか………!」
強くはっきりと告げ、大きく頭を下げるファルテシア。一瞬の静寂のあと、アルクは確かに頷いた。
「顔を上げなさい。その言葉を聞けたことを嬉しく思う。ファルテシア、お前にアルファーネの姓を与えよう。偉大なる竜に育てられた娘よ。その想いを背負うお前のこれからの成長に期待する。以上だ」




