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48話

「アウラ様、街が見えてきました」

「ん………こうしてみると懐かしいな」

「そうですね………」


 あれから数日を掛け、ようやくニルヴァーナが見えてくる。それに安堵の息を溢すアウラとケインだったが、その反応とは真逆の表情を浮かべる少女が一人。


「………」

「大丈夫だよ。ボクが一緒にいるから」

「………はい」


 ファルテシアは不安げに頷く。過去を考えれば仕方ないだろうが、そもそも迫害を受けて竜に育てられた以上、人間そのものへ不信感を抱いていてもおかしくはない。

 彼女もそれがないわけではないのだろうが、少なくともアウラに対しては素直であった。


「アウラ様、本当にあのお二人を説得するのですか?」

「うん。きっと何とかしてみせるよ」

「………私はお力添え出来ませんからね」

「分かってる。でも、お父さんも話せばわかってくれるはずだから」


(………アウラ様ならそうでしょうね)


 ケインは頭の中でそう付け加える。アウラからの視点では何にでも寛容で甘々な人物だが、それはあくまでも親としての一面でしかない。善政を行って領民から高い支持を得ているとはいえ、それでも三大貴族の一角………もっと言えば、敵対している二つの両家に対して中立の立場を保てるのだ。

 決して甘いだけの人物では成り立たず、貴族として見た彼の姿は必要ならば冷徹な判断も迷わず下す覚悟のある人でもあった。


「健闘をお祈りしております」

「ふふ、ありがとう」


 アウラはこの時点で、彼が恐らくそう上手くはいかないのだろうと考えていることを察していた。実際、アウラも自らの父が自分の見ていた姿が全てではないという事は既に理解していたからだ。

 しかし、あの2人ならば絶対に無碍に出来ないであろう理由があった。それぞれ様々な考えを抱きつつ馬車は街の門へと辿り着くと、慌ただしく手続きや報告をする門番たちの姿。


(そんなに焦らなくていいのに………)


 内心苦笑しながら、馬車は最優先で街へと通される。そして馬車が街へと入った瞬間、街道に沢山の騎士が並び、まるでパレードのように儀礼用の剣を掲げていく。街の住民もお祭りのようにその街道を囲み、大きな声で彼女を迎えていた。

 あまりにも大袈裟な出迎えにアウラは嬉しいを通り越して恥ずかしさすら覚えてきたが、ケインは微かに頬を赤くするアウラを見て微笑を浮かべた。


「ふふ、ここまでするとは私も予想しておりませんでしたね」

「お父さん………」


 呆れたように元凶であろう人の名前を呼ぶ。というより、騎士団がここまで大々的に動くとなれば領主の許可がない限りは絶対に出来ないため間違いないのだが。すると、列の先には更に話題を呼ぶ人物が立っており、馬車はその人物の前で止まった。

 

「アウラ様!あなたのご帰還を我ら騎士団一同、心待ちにしておりました!ご無事で何よりです!」


 分厚い甲冑に身を包んだ騎士が、皆を代表してそう声を上げるのは、この国で知らぬ者はいない伝説の騎士であった。アウラが「あちゃ~……」と言わんばかりに額に手を当てて天井を仰ぎ、ケインは驚いたような表情を浮かべていた。


「ガイア団長までいるとは………アウラ様、長いようで短かったですが、私の役目はここまでです。あなたのお傍に入れたこと、私は一生の誇りに思います」

「………そっか。こちらこそ、ずっとありがとう。色々心配や迷惑もかけたけど、あなたが居てくれて良かった」

「勿体ないお言葉です。それでは………アウラ様。またお会いしましょう」

「うん、絶対に」


 ケインはそういって馬車から降りていく。そしてガイアの横に並び、2人はすぐに道を開ける。その途中で窓から目が合ったケインと互いに頷きあって、馬車は領主の屋敷へと向かうのだった。




 そうして、領主の屋敷へと着いたアウラとファルテシア。彼女を見たら驚かせてしまうだろうな、と思いつつも、あの2人には正直に全て話す方がいいだろうと思っているため共に行くことにしていた。


「それじゃあ、行こうか」

「あの………」

「ん、どうしたの?」

「………本当に、大丈夫なんでしょうか」


 アウラを見つめる視線には、確かな不安が宿っていた。それも無理はない………というより、ただの村娘だった少女がいきなり三大貴族の公爵家当主に会うというのだから、不安に思わない方がおかしい。

 しかし、少女は人間が一人で生きていくことは出来ないこともあの白竜から学んだ。頼れる人物などアウラ以外にはおらず、だからこそここで拒絶されてしまったら、彼女はもはやどうすることもできないのだ。


「こう言うのは簡単かもしれないけど………ボクを信じて。絶対に、君の手を離さないと誓うよ」


 アウラは彼女の手を握って、確かに頷く。それは約束のためでもあるし、自分のためでもあった。自分の手が届かなかった、あの『少女』のような者をもう見たくはなかったから。

 そして、いつか幼い彼女を外へと連れ出した兄のように、目の前の少女に沢山の世界を見せてあげたい。その願いは、確かに自分のものであった。


「………分かり、ました。あなたを信じます」

「ありがとう。それじゃあ、行こう」


 アウラは彼女の手を固く握り、そうして2人は馬車を出たのだった。






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