47話
「"目を覚まして、新たなる星となる者よ。その器、その力は星々の意志を代行し、我らは共に進みだす。あまねく奇跡を照らすために"」
それから暫くして、静寂に包まれていた花畑に一つの夜空の裂け目が現れ、そこから一人の少女が現れる。彼女が居なかった間に瘴気は雲散してしまったのか、美しい朝日が森の間を抜けて差し込んでいた。
「もうすっかり朝になっちゃった。みんな心配して――――」
「アウラ様あああああああぁぁぁぁ!!!!」
「え、なに!?」
森から聞こえた怒号………というには焦燥に駆られすぎた声だったが、森の中から猛烈な勢いで迫る大きな足音に、その正体が分かりつつもアウラは若干腰が引けていた。
そうして飛び出してきた一人の男。それは彼女もよく知る騎士であり、彼は彼女の姿を見て目を見開き、次の瞬間には彼女の目の前にすっ飛んできて彼女の肩を掴む。
「アウラ様、ご無事ですか!?」
「え、う、うん………大丈夫だよ?」
勢いに押され、しどろもどろになりながらも答える。しかし、その返答にケインは納得していないようであった。
「………大丈夫、ではありません!!もしあなたの身に何かあったら、どうするおつもりだったのですか!?あなたは既に多くのものを背負って生きている身です!多くの人に愛される存在なのです!!もっと自分を大切にしてください!!」
「うん………ごめんね、ケイン」
アウラは困ったような笑みを浮かべつつ、彼に謝罪する。だが、そんな少女の表情を見て彼はすぐに分かったのだ。彼女はまた、何かを背負ってしまったのだと。
(また、子供らしくないような表情をされている………)
彼女の変化をずっと見てきた彼だからこそ、また変わってしまったその雰囲気をすぐに感じ取ってしまった。そして、きっと彼女はこれからも誰かの願いのために歩みを止めないのだろうとも。
「あなたは………!あなたは………どこに、行ってしまわれるのですか………」
「………」
その問いを聞いたアウラは、過去に兄にも同じようなことを言われた記憶が脳裏を過る。そして、様々な願いを背負って進み続けることを決めた今ならば、その言葉の意味が分かってしまう。けれど、答えは今も昔も変わらない。
「どこにも行かないよ。いつか、ボクにも旅立ちの時が来るかもしれないけど………ボクが帰る場所は、みんながいるところだから」
「………その言葉、私は決して忘れませんよ」
「うん、忘れないで」
アウラはそっと微笑む。ケインは完全に憂いが消えたわけではないが、それに笑みを返した。
「お帰りなさい、アウラ様。あなたは立派に責務を果たしました。あなたの騎士として、その意志に敬意を表します」
「ありがとう、ケイン。ただいま」
互いに頷きあって、ようやく終わったのだと実感したアウラ。しかし、すぐに聞かねばならないことを思い出したのだった。
「あの子は?」
「………森から飛び出してきた少女なら、他の者達に任せております。彼女から、アウラ様が一人で残っていると聞き………そして、あなたにも聞かねばならないことがあります。あの少女の事も含め、ここで何があったのですか?」
「それは…………」
その問いにアウラは悩む。何からどこまで話せばいいのかと考えるが、もしあの【呪い】の事を話せば、今以上にそれが災厄を呼ぶものだとより酷い差別が行われるかもしれない。
アウラ自身、【呪い】があれほどまでに凶悪なものだとは思わなかったのだから。
(………竜種という最強種を宿主にしてようやくあそこまで、と考えれば実際の危険度は寧ろ今回が例外。でも、今回のようなことがこれからもないとは限らない…………)
「考え事をするのもいいですが、質問にお答えいただければ嬉しかったんですけどね………」
「えっ?あ、ご、ごめん………」
つい考え事に没頭してしまいアウラは謝罪する。とは言え、それも仕方のないような事ではあったのだが。
「いえ。複雑な事情があることは分かりました。無理に聞き出しはしませんが………はぁ。とにかく今は戻りましょう。帰る途中にゆっくりお説教は出来ますので」
「あ、お説教は決まってるんだ………」
「当然です」
有無を言わさず頷くケインに、アウラは「とほほ……」と声を漏らしてとぼとぼと馬車に戻った。お説教を嫌がるその様子は子供さながらであるのに、どうして肝心なところが子供らしくないのだろうとケインは悩みつつ、2人は森を抜けたのだった。




