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44話

「"星空の言葉。星雲に燃ゆるこの熱が、あなたに輝きを灯すだろう"」


 アウラの空いた左手に、青色の霧が発生し青白い火を灯す。火属性………ではなくこれも星の魔術だが、それでもその熱は竜の亡骸を燃やすには十分であった。そして、アウラはファルテシアの手を放し、ゆっくりと頷く。

 彼女は一歩ずつ白竜の骸へと近づく。彼女が前に進むためにも、必要なことだった。


「私、は………あなたに育ててもらえて………凄く幸せだった………まだ、本当は一緒にいたい、けど………私はあなたに………生きろって言われたから………生きていきます………あなたに、ちゃんと胸を張れるように………」


 ファルテシアがそう告げ、また嗚咽を漏らす。その姿を見て、アウラはそっと彼女の隣に立った。


「………お別れは、ちゃんと言えた?」


 その問いに対し彼女が無言で頷いたのを見て、そっと竜の骸に炎を移す。同時に燃え広がった蒼炎が白竜を包み込み、周囲を淡く照らす。例え似た境遇だとしても失ったものはそれぞれ違い、その不幸を比べる権利など誰にもない。だが………


(生まれた時から奪われ続けるだけなんて………絶対に間違ってる………)


 アウラは胸の前で固く手を握る。彼女に今を託した少女も、目の前にいる少女も………そして、名前すらない忘れ去られた無数の命が、全て他人事とは思えない。

 だから、彼女は最後の後始末をしなければいけないのだ。燃えていく亡骸から、未だに色濃く感じる気配を見据える。


「ファルテシア、この森を出たら騎士達が外にいるから、君は先に行って彼らに事情を話して。彼らなら、絶対に君を傷付けたりしないよ」

「アウラさん、は………?」

「………ボクはまだ、やらなきゃいけないことがあるから」

「…………分かり、ました」


 アウラの目を見たファルテシアは何かを察したようにゆっくりと頷き、燃え行く白竜の姿を見る。そして涙を拭った後で森の方へと駆け出した。その背中を見送り、アウラは振り返る。


 竜の肉体に宿った【呪い】だが、本来ならばアウラがそうだったように宿主を失えば寄生する者も運命を共にするはずである。

 しかしこの亡骸に未だに残るそれは、ただの残り香などではない。宿主の膨大な生命力を喰らい尽くしたそれは、成長しきってしまったのだ。



「………ボクの心、星々の声、託された感情が、言う」


 闇を切り裂く星々、彼女に全てを託した少女、そして彼女自身の思いは1つ。沸き上がるその感情は、もはや1人のものではない。彼女はその全てを代弁する。


『――――私たちは、決してお前を認めない』


 直後、白竜の亡骸から黒い何かが飛び出し、アウラの横を通りすぎて空中へと向かう。彼女は右目に黄金の光を灯しながら振り向くと、それは弾けて空に巨大な大穴を作り上げた。


「"星の言葉。我らの光は暗闇を引き裂き降り注ぐ"、"星紋(セット)"」


 地上に開く9つの夜の裂け目。その瞬間、暗黒の空洞から無数の影が現れる。

 全体的に角ばったそれらは無機質なフォルムの中で鎌のような形状をした腕を持ち、どこか蟲のようでもあった。


「撃て」


 襲い来る【呪い】の群れに、裂け目に映える星々が煌めき、放たれる数多の星群。空中で黒き群れと白き群れが激しく衝突し、爆ぜた。


「………」


 黄金の瞳が更に強く輝き、未来を鮮明に映して致命となる一手を確実に封じていく。全方位から囲い込もうとする【呪い】全てに照準を定め、無限にも思える物量を正確に撃ち落とし続ける。

 更に彼女は瞬時に魔力を高め、黄金の光を纏う。


「"天の(アストラル)獅子(・レオ)"」


 流星の弾幕はそのままに、アウラの右手の上に獅子を象った紋章が浮かび、直後に激しい光を放つ。直後、彼女を包み込むように巨大な獅子のオーラが現れ、激しい暴風を纏った咆哮が大気を震わせて周囲の瘴気と群れを纏めて吹き飛ばしたのだ。


 そして群れを放出する毎に浮かぶ暗黒の穴は小さくなっていくが、この時点で彼女はあの日のデーモンの軍隊の数倍を葬っている。

 もしここが街や村であれば、既に少なくはない犠牲が出ていただろう。


「"星の言葉―――」


 アウラが続けて詠唱を紡ごうとしたその時、黄金の瞳は背後から回り込んだ一匹が彼女の小さな体を刺し貫く光景。見えた未来に背後に意識を向け、タイミングを計って振り返る。


「"天の(アストラル)(・レイ)"」


 瞬時に放たれた一筋の閃光。それは背後から彼女を狙っていた【呪い】の1匹に真っすぐと突き進み、しかしそれは最初から気付いていたかのように素早く躱されたのだ。

 それを見たアウラは大きく目を見開く。


「っ………!?」


(勘付かれた…………!)


 未来を観測し、未来を変えるタイミングを計る。だがその『タイミングを計る』という動作そのものが相手にとっては彼女が見た未来を予想させるには十分な猶予であり、そこからアウラの一手を読むことも不可能ではない。


「まずっ――――」


 迫る漆黒の凶刃。アウラの貧弱な身体能力ではそれを躱すことは叶わない。一か八かの勝負をかけて星紋で作り出していた一つの裂け目を前方に作り直して迎え撃とうとするが、明らかに相手のほうが早い。

 目前まで迫ったそれを見て、彼女は反射的に目を瞑ってしまう。


「………!!!」






 だが、それに続いたのは痛みではない。突如として割り込むように振るわれた白い尾が、アウラに迫っていたそれを打ち砕いたのだった。





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