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41話

「アウラ様、アウラ様」

「ん………んん………?なに………?」


 旅路の明け方。既にアルファーネ領へと入り、街までは数日というほどの距離。馬車も止まって夜を明かしていた中、眠っていたアウラをケインが彼女の名を呼んで起こす。毎日健康的に8時間睡眠を心掛けている彼女からすれば厳しい早起きであり、目をこすりながら体を起こした。


「この先で魔力異常による大規模な瘴気が発生しているようです」

「瘴気………?濃度はどれくらい………?」

「アウラ様の魔力量ならば問題ないかと」

「ボクを基準にしても意味ないでしょ………」


 こんな時まで変わらない冗談に呆れつつ、大きく欠伸をする。

 瘴気とは、魔力は大気中に含まれる魔力量が一定を超えると瘴気と化し、その濃度に応じて魔力の少ない生物への毒性を発現させてしまうのだ。

 自然的に発生するような小規模の瘴気であれば昆虫などの生物が死ぬ程度であり、それは特別に珍しいというわけでもないのだが………


「ふわぁ…………ん~………」


 アウラはパジャマのままベッドから降りてカーテンから出る。そして止まっている馬車の窓へと向かい、外を見て――――目を見開く。


「………なに、これ」


 城壁のように進路を横断する赤紫色の巨大な霧。とてもではないが、常人………いや、多少魔力が多い人間程度では決して耐えられるものではないだろうそれを見て、アウラは動揺する。

 この規模となれば、王都から宮廷魔術師が派遣されて原因究明と解決を行うほどだ。


「………ケイン。何か予兆はあった?」


 アウラはそう尋ねつつ、カーテンの裏に戻っていく。その表情に先程の眠気は消えており、少し急ぎ気味に着替えなどの身支度を始める。


「いえ。見張りをしていた者も突如向こうの森の方から広がって包み込む様子が見えただけだと言っています」

「周囲に人里は?」

「あったはずですが………こちらとは反対側に避難したのか、または………」

「そう」


 短くそう答え、髪をいつものように結ってアウラはまた姿を現した。そのまま馬車の外へ向かうと、ケインもその後に続く。外にいた騎士たちは皆が瘴気を見て不安そうに話していたが、馬車から降りてきたアウラを見て頭を下げる。


「おはよう。明け方の見張り担当は?」

「私です」

「あの瘴気が起こる前、何か聞こえたり気配を感じたりとかは?」

「いえ………」

「………じゃあ、相当な広範囲から広まってるってことだね」


 アウラは壁のように進路を横断する瘴気の続く先を見たが、少なくとも肉眼では先が見える距離ではない。迂回するとなれば、もう数日は少なくとも見積もらなければならないだろう。食料等も予備はあるが、可能な限り無駄を減らすために潤沢というわけではない。

 期間が延びれば補給も視野に入れなければならないだろうが、この様子では周囲の人々の無事すらも保証は出来ないのだ。


「………アウラ様、迂回しましょう。何が起こるか分からない以上は、早いほうが良いかと」

「それだと食料や水が全員分は保証できないでしょう?」

「では、ここから離れ瘴気が消えるのを待ちますか?」

「………」


 アウラはもう一度瘴気を見上げる。一般的な瘴気は数時間から1日程度で消えることが多いが、規模が大きくなればその分だけ期間も伸びる。更に原因が残っているとすれば、それが解決するまでは消えることがないのだ。

 アウラは霧に視線を向けたまま、そっと右目に光を灯す。そして、確かな口調で切り出した。


「このままだと、この辺り………ううん。街まで被害が出るかもしれない」

「………アウラ様?」

「ボクはアルファーネの娘、そして魔術卿アルベールの弟子。その名を持つ者の責務、そして"賢者"の後継者として、この力は人を守るために使わなきゃいけないでしょう?」


 そう言ってアウラは歩き出す。ケインは一瞬だけ動きを止めていたが、すぐに彼女の意図を理解して彼女の前に立ち、彼女の肩を持つ。

 そうして彼女を止めた彼の表情は今までになく真剣そのものであり、アウラを真っすぐと見つめていた。


「なりません、アウラ様。その責務も夢も、全て未来のあなたが背負うべきものです。アウラ様の成長を見守ってきた者として、いつかあなたはこの世界に革命をもたらす、偉大な魔術師になることを私は疑っていません。ですが、今のあなたはまだ守られるべき存在なのです。どうかお考え直しを」

「………うん」


 アウラは小さく俯きながらも相槌を返す。


「分かって頂けて何よりです。では一度馬車に戻りましょう。これからのことを冷静に――――っ」


 だがその事にホッとしたのも束の間、顔を上げたアウラを見て彼は息を呑む。その瞳は、決して諦めた者のそれではなかったのだから。


「でもボクは………同い年の頃の兄さんに守ってもらってるんだ。ワイバーンのブレスなんて、当たったら無事じゃ済まないって分かり切ってるのに。なら、次はボクの番だよ」

「それは蛮勇です!アウラ様が見習うべきものではありません!!幼き命を無為に散らす愚行など、私は看過――――」

「ケイン」


 アウラが一言。あまりに冷たい声で彼の名を呼ぶ。その瞬間、彼の体に圧し掛かる重み。その重圧に膝をついたまま、彼は身動きが取れなくなる。

 この場で重力魔術を使える人物は一人しかおらず、彼は歯を食いしばりながら顔を上げ、そして冷たく彼を見下ろすアウラと視線が合った。


「ボクの前で兄さんを愚弄するのは、あなただとしても許さないよ。あの日の兄さんは、無責任だったわけじゃない。あの人のボクを想う気持ちも知らないまま、ボクのために命を懸けた兄さんの行動を愚行だと言うなら、なにも分かってない…………だから、もういいよ。あなたは何もしないで」


 そう言って、アウラは彼を置いて歩き出した。周囲の騎士達はどうすれば良いのか分からず、ケインは何とかして体を動かそうと歯を食い縛るが、立つことすら叶わないのだった。




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