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40話

 アウラがアストライアを発って数日。【賢者の円卓】が管理する『秘星の神殿』にある大書斎に、あの3人の姿があった。

 集会以外でこの神殿が使われることは滅多にないのだが、ここには歴代の賢者たちの研究資料なども多く眠っている。どうしても必要な知識や資料があれば、ここを利用することが出来るのも"賢者"の特権であった。


「まだ見つかんねぇのかー?」

「煩い。飽きたならば帰れ」

「ここまで付き合ってやってんのにそりゃねぇぜ………」

「ならば黙って探せ」

「へーへー」


 高所の本棚用の梯子に腰を掛けながら、アグニは疲れたと言わんばかりに脱力する。

 3人が探すのは、過去に【星】の力を宿した一人の人物の記録。【賢者の円卓】の創設者が、【星】の魔術師だったのだ。しかしその魔術師に関する情報は少なく、あまり有益な情報は得られていなかったのだが。


「あの子に興味があるの?」

「私は戯れに賢者を名乗る者共とは違う。人生を賭けて"到達点"の突破を目指している。利用価値があるなら利用するまでだ」

「………アルベールと喧嘩しないでね」

「あの入れ込みようだからなぁ。仮に手を出そうもんなら、人生賭ける前に命を賭けることになるかもな」


 キリエとアグニが『変な真似はしないほうがいいぞ』と言う思いを込めてシーリンに視線を向けるが、彼女は逆に二人を睨み返す。


「私があの娘に危害を加えると?」

「………必要があればやる。あなたはそういう人」


 キリエは臆する様子もなく告げる。無論ここが不戦の誓いがある『秘星の神殿』だからというのもあるが、彼女はこの程度では必要のない争いはしないと分かっているからだ。

 しかし、そんなキリエの言葉にシーリンはさも当然と言うように答える。


「当然だ。"到達点"の突破は【賢者の円卓】に課せられた何よりも優先するべき使命。貴様らのような甘いやり方で達成できるような易しい課題ではない」

「………人の可能性を広げるための魔術が人を犠牲にするってのは矛盾してるんじゃねーの」

「清濁を知らぬ未熟者には分からんだろうな」

「へぇー………」



(進歩には犠牲が伴うもの………そんなつまんねぇ考えをしてる時点で、俺とお前は分かり合えねぇさ)


 アグニは心の中で嘲笑する。ただ魔術が秘める可能性に惹かれ、好きを突き詰めていた末にいつの間にか"賢者"と呼ばれるようになっていたアグニからすれば、彼女の考えこそが魔術の可能性を狭めているとしか思えなかった。

 それでは何故彼がシーリンにここまで付き合っているかと言われれば………


「………なんだ?何か言いたいことがあるようだな」

「ん?あぁ、いや何でもねぇよ。ただ………」


 梯子の上で体の向きを変え、シーリンを見下ろす。その態度が気に食わず口を開こうとしたとき、頬杖を付く彼の目が一切笑っていないことに気が付いた。


「知っての通り、俺は単純でな。面倒くさいことは嫌いだし、俺の興味の邪魔になるやつは全部いらねぇと思ってんだ。そんな俺がなんでここまでお前に付き合ってるか、賢いお前なら分かんだろ?」

「ほう………私を脅しているつもりか?」

「爺さんの事はそれなりに信用してんだ。あの人があれだけ言うんだったら、何をしでかしてくれるか気になるだろ?………それに、お前は全く期待されてないみたいだしな」

「貴様………」


 明確に空気が変わる。アグニの瞳が光を放ち、シーリンは体に光の紋章が浮かび上がる。不戦の誓いがあるここを転移で離れれば、その先は荒れ果てた大地と化すだろう。そして2人が同時に魔術を発動させようと――――


「"そこまで"」

「っと」

「………ちっ」


 それまで成り行きを見守っていたキリエのたった一言で2人は硬直する。そして、キリエは表情を変えないままに話し出した。


「喧嘩するために来たわけじゃない。ただでさえ今は2つも空席が出来てるのに、個人の感情で不毛な争いを起こさないで」

「はは、そりゃそうだな。わりぃ」

「ふん」


 アグニは質の悪い冗談を謝罪するような様子で。シーリンは興が削がれたと言うように鼻を鳴らして本棚に視線を戻す。そんな2人を見てため息を溢したキリエは、手元の本に視線を移しながら思案する。


(あの子が望む望まないに関わらず、目立てばその分だけ色々な考えを持った人があの子に近付く………その中で、あなたの光はどれほど輝くのかな)







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