39話
最後の課題こそ完璧ではなかったが、それでも後は彼女1人だろうも完成に至れるだろう。
そう確信するには十分過ぎるほど、彼女はアルベールの下で成長したと言える。
「アウラ。お前はこの3年で見違える程に成長をした。だが、これは終わりではない。お前の道はこれより始まるのだ。努々、立ち止まることが無いようにしなさい」
「はい、先生」
そうしてアウラは10歳………そして卒業の日を迎えたのだ。
「………本当に立派になった。お前と出会い、師弟と言う関係になれたことは我が誇りであり、これからのお前が成し得る全てに、我は期待している」
「ボクも、先生と言う師がいたことをこれから一生誇りに思います。そして、先生の期待に応えられるよう………ずっと、ずっと進み続けます」
「うむ………それと、これを。卒業の証………そして、お前の10歳を祝いだ」
そう言ってアルベールが本を開き、一着の白いローブが彼の手元に現れる。星のような装飾があしらわれたそれは、間違いなく彼女のために作られたものであることは一目瞭然であった。
「まだ着るには大きいかもしれんがな。お前が成長し、我と同じ席に着くころにはきっと良く似合っているであろう」
「………ありがとうございます、先生」
アウラは受け取ったそれ大事そうに抱え、その様子を見たアルベールは小さく頷く。
「あぁ。それでは門まで見送ろう」
「…………はい」
2人にとってそれぞれの立場で初めての卒業式は、厳かでありつつも少し寂しげな雰囲気を感じるようであり、ケインは今だけは2人にした方が良かっただろうか、と思いつつ馬車を待たせている正門に3人で向かったのだった。
「来たね」
「おはよう、ヘレン。見送りに来てくれたの?」
正門にはヘレンとクレインが彼女を待っていた。一番に声を掛けてきたヘレンに笑みを返すと、彼は頷く。
「勿論だよ。でも………やっぱり寂しいものだね」
「ボクも。けど、また会えるでしょ?」
「………そうだね。きっと」
「ふふ。じゃあヘレンがアーレス家を継いだ時は、うちを何卒よろしくね?」
「それは………ふっ、君の兄さん次第かな。だからルークさんにもよろしく伝えておいてよ」
「うん、分かった」
和やかながら、あまり可愛くはない会話を交わす2人。無論冗談ではあるのだが、もしこの先の未来でアルファーネ家とアーレス家の関係が悪化すれば、この2人の衝突もあり得ない話ではない。とは言え、ルークもヘレンも基本的には穏健な人物であり、そのような心配は基本的にはないだろうが。
「さて………長いようで短い時間だったが、あなたの成長をこの目で見れたことを嬉しく思う。またいつでも歓迎しよう」
「はい。本当にありがとうございました」
丁寧に頭を下げ、別れを告げたアウラは馬車に乗る。そしてケインもその後に続き、今までは屋敷の護衛が主な任務だった騎士たちが配置につきながら馬車は出発するのだった。
「………寂しくなりますね、父上」
「あぁ。とは言え、この4年で築き上げた信頼や絆は何にも代えがたい物となるだろう。腐らせることがないようにしたまえ」
「はい。………………そういう意味じゃないんだけどなぁ………」
ヘレンは聞こえぬように呟く。とは言え、イヴニール家との対立は日に日に強まっており、あまり良い状況とは言えない。
場合によっては………と言うのも考えなくてはならなかった。
(………きっと大丈夫さ。君の祝福がある限りはね)
4年の留学。アウラとして転生してから数えれば故郷よりも長い時間であり、それでも少女の記憶があるからか、自分の『帰る場所』というのはいつだって変わらなかった。馬車の窓に頬杖を付き、遠くなっていく街を見ながら彼女は色々な事を考える。街での思い出は勿論、これからの事も。
(………うん。家に帰ったら、魔術師としても貴族としても人に見られるようになる。アルファーネ家として相応しい娘であるように、頑張らないと)
アルベールの下では一人の魔術師として教わり続けてきたが、自分が三大貴族であるアルファーネ家の娘であるという事を忘れたことはない。自分の行動が家族の評価や信頼にも関わるのだから、相応の振る舞いは心掛けていたが、これからはより強くそういう目で見られるだろう。
何しろあの町では『アルベールの弟子』としての名前が広まり、彼女がアルファーネの姓を持つ者であると知る者もさほど多くなかったのだから。
「アウラ様、また見たことがないような表情をされていますね」
「ん?………そう?」
「えぇ。全く子供らしくない表情でした」
「なにそれ」
冗談っぽく笑みを返しつつ、内心では納得していた。けれど、今の彼女はアウラを初めて外の世界に連れて行ってくれた兄と同じ年齢なのだ。
子供でありつつも、少しずつ大人を見据えてくる年齢。師の夢を託された魔術師、三大貴族の令嬢など様々な立場がある自分の振る舞いをもう一度考えなければいけないと、彼女は考えていたのだった。




