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3話

 呪いが消えたとしても、すぐに自由というわけではない。彼女の体に残された呪いの爪痕は、未だにそれを許さないのだから。彼女の5年という短い人生は、星を見るか本を読むかが大半であった。

 一応、呪いが消えたことで多少の体力は取り戻せたらしい。だが元より呪いを宿し、更に少食かつ運動不足が5年も続いていれば、そもそもの身体が虚弱であるのだ。


「外に出たいなぁ………」

「なりませんよ。お嬢様の呪いが本当に解けたのかも分かりません。旦那様が魔術師様をお招きしていらっしゃいますから、まずはその診察を受けてからです」


 そう話すのは、アルファーネ家に長年仕えるメイド長のティアネだった。呪いを持った子を5年も育てていたという点からも分かる通り、アルファーネ家はかなり大きな家である。

 貴族階級の中では最も上である公爵、更にはこのラーグリア王国の3大都市に数えられるニルヴァーナを治める家なのだから、その影響力と財力は他の貴族と比べても一線を画す。件の魔術師がアウラを諦めるように進言したのも、そういった家の体裁を考えてのことだったのだろうとアウラは予想していた。


「お嬢様、お腹は減っていらっしゃいませんか?」

「………………あっ。うん………ちょっとだけ?」

「えぇ、ではすぐに昼食をお持ちいたしますね」


 未だに自分が少女になったという自覚がなく、お嬢様という呼びかけが自分のことだと気付くのに数秒を要してしまった。だが、それでもただ返事をしてくれるというだけで彼女にとっては嬉しいのだろう。


「お持ちしました」

「うん、ありがとう」


 長年仕え、尊敬もしていた主の娘があのような悲惨な人生を送っていることは、ティアネにとっても耐え難いことだった。

 更に不運なことに、彼女はアウラの右目が潰れてしまったその瞬間を見てしまったのだから。その痛々しい姿が目に焼き付き、もがくアウラに駆け寄って「どうかこの子を助けてください」と神に祈ったのは昨日のことのように思い出せた。


「こうして生きてくれたのなら………私の祈りも、無駄ではなかったのかもしれません」


 ティアネはしみじみと呟く。以前はパン1つすら完食が難しいほどであったのに、今はパンだけではなくスープやサラダ、ベーコンまでもをパクパクと食べていく。

 その姿に、感動するなというほうが無理な話であった。


「………お味は、どうでしょうか?」

「美味しいよ。すっごく」

「そうですか…………本当に、良かったです」





 昼食を食べて少し。恐らく小昼ほどの時間に、部屋の戸がノックされる。それを聞いたティアネがベッドの側の椅子から立ち上がり、扉を開く。


「ティアネ、アウラの様子は?」

「とても元気そうですよ。先ほどお出しした食事も、全部完食されたんですから」

「そうか………入ってくれ」


 アルクがそう言うと、彼と共に部屋に入ってきたのは黒いローブを身に纏った長身の男性だった。

 

「失礼します………早速、彼女の診察をしても?」

「あぁ、頼む」


 すると、男性はアウラが横になっているベッドに歩み寄る。しかしその途中、その歩が止まった。


「あれだけ濃かった呪いの気配が消えている………だと?」

「っ………じゃあ、やはりアウラは……!」

「………確かなことは診察してからです。アウラ嬢、お手を拝借してもよろしいですか?」

「うん」


 言われた通りにアウラは手を差し出す。その手を男性がそっと掴み目を閉じる。だが、その瞳はすぐに開かれることとなった。


「なっ…………なんだこの魔力は!?」


 驚愕の表情を浮かべて後退る。その様子に、アルクが不安げに声をあげた。


「おい、何があった!?」

「何があった?それはこちらの台詞です!いったい彼女の身に何があったと言うのですか!?こんな………こんな魔力は見たことがない!!」

「えっ、と………」

「まるで………そう!まるで空だ!!果てしなく先の見えない、無限に思えるほどの魔力!いったいそんな力をどこに隠していた!?前はそんなものなかったはずだ!!!」


 取り乱す男に、アウラはなんと言えば良いか分からずアルク達も理解出来ていないようだった。

 アウラは「間違いなくこれなんだろうなー」とあの星の光を思い出しつつ、どうにか平静を保ってもらおうと声をかける。


「あ、あの落ち着いて………」

「落ち着くことなど出来るものか!………アルク様。彼女は私が預かります」

「は?………な、何を言っている!?」

「冗談はお辞めになってください!」


 アルクとティアネが男をベッドから引き離し、彼女を守るように間に入る。


「冗談?むしろあなた方こそ冗談を仰っているのでは!?この子の才能は魔術師の常識を越えている!!正しく導かねばいけないのです!私ならそれが出来る!!」

「そんなものはいらん!私とこの子を引き離すと言うのなら、お前はもう帰れ!!」

「………そうですか。では」


 その時、アウラはその男の瞳が鋭く細まったのを見逃さなかった。諦めたわけじゃない、何かしてくる。そう直感したのだ。


「手荒ですが、こうするしかないですねッ!!」


 魔術師が右手を構える。目で見ても分かるほどに魔力を収縮させたそれを見て、アルク達は咄嗟にアウラを庇うように動き、男が詠唱を―――――


「"アストラル:レイ"」


 紡ぐよりも早く、一筋の光線が腹部に直撃し、男は吹き飛んで部屋の壁へと叩き付けられる。


「ごはっ…………!?」


 男は苦悶の表情を浮かべつつも、何とか立ち上がるだけの気力は残っていた。いや、それは敢えて残されたと言うべきかもしれない。

 顔を上げた男は、ベッドから男を見つめる少女と目があった。比べるのもバカらしいほどの年齢差。しかし、そんな男が怯んでしまうほどの力が、彼女にはあった。


「僕の家族に………手を出さないで」

「っ…………」


(バカな………!?今の一撃が短縮詠唱だと………!?)


 もはや彼の目には、男を冷たく見つめる少女が同じ人間には見えなかった。


(このままでは、殺されてしまう……!)


 いつの間にか彼女の周囲に浮かんでいた、小さな光の群れを見て直感する。それは見方を変えれば星々のようで美しくも見えるが、男にはそうではなかったらしい。

 慌てて部屋から飛び出す男。その姿を見て、アウラは浮かぶ光を消した。すると、アルクとティアネが困惑しながらも彼女を見る。


「あ、アウラ?今のは………」

「ごめんなさい。でも僕――――げほっ!げほっ!!」

「アウラ!!」

「お嬢様!!ご無理をなさるから………!!すぐ水をお持ちします!!」





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