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37話

「先生、おはようございます」

「おはよう」


 授業がまた再開し、アウラは大きく伸びをする。そして、あの事件が起こる直前の言葉をしっかり覚えていた彼女はアルベールに尋ねた。


「前の課題は達成しましたけど………」

「そうだな。恐らく、期限を考えてもこれが最後の課題となるだろう」

「…………最後、ですか」


 アウラは複雑そうに呟く。終わりが来ることは分かっていたが、それでもいざ直面すれば色々と考えてしまうものだ。

 そんなアウラに、アルベールは告げる。


「まずは街の外に向かうぞ」

「………はい?え、まさかモンスター退治とかじゃない………ですよね?」

「出てくればお前に任せてもいいが、目的は違う。とにかく来なさい」


 そう言って門から外へ向かうアルベール。それに「またいつものだ」とやや諦めつつもアウラはケインを連れてアルベールを追うのだった。




 そうして暫く経った頃。アウラ達の姿は街の外の平原にあった。アウラは馬車に乗って移動、と言うことはあったがそれも基本はある程度整備された街道に沿っての移動であり、自分の足で大自然を見ると言うのは初めての体験であった。


「…………風が気持ちいいですね」

「あぁ。その自然を身近に感じる感覚は覚えておきなさい。これから大事になるぞ」

「…………と言うと?」

「お前にはこれから水の魔術を会得してもらう」


 アルベールは歩きながらそう告げるが、それを聞きたアウラは思わず足を止め、アルベールも立ち止まって振り返った。しかし至って真面目に告げたアルベールの顔を見ながら、アウラは声を発する。


「え?水…………ボクが?」

「無論だ」

「………なんでですか?」


 ここに来て星の魔術ではなく、水の魔術を学ぶと言われれば当然の疑問だろう。しかし、アルベールは彼女の目を見てはっきりと応える。


「水の魔術は空間魔術の基礎にもなるためである」

「空間………?」


 アウラが首を傾げると、アルベールは頷きつつ再び歩き出す。そのあとに続きながら、アウラは彼の話に耳を傾ける。


「より詳しく言えば、世界を繋ぐ術………即ち転移魔術だ。世界を反射し映し出す水面は、同時に2つの世界を繋ぐ門に見立てることが出来る。これは我ら"賢者"が身に付ける転移魔術の初歩的な段階でもあるのだ」

「世界を反射………鏡じゃダメなんですか?」

「可能ではあるが、鏡は魔術が絡むと呪具としての性質を持つ場合がある。故にリスクを避けた結果だ。どちらにせよ、やることはそう変わらん」


 その説明にアウラは納得する。知らぬ内に自身、または知人に呪いを掛けてしまったら冗談にはならないのだから。

 そして、今回の目標は転移魔術なのかと思い口を開いた。


「…………つまり、転移魔術を身に付けるためってことですか?」

「それも目標の1つだが、残された時間ではそこまでは教えられん。習得を目指すなら、この課題で身に付けた基礎を元に自ら学びなさい。今回の課題は…………」


 そうして歩いていると、進む平原の先に大きな湖が見えてきた。あれを使って魔術の練習をするのだなと思うと同時に、アルベールは言葉を続けた。


「お前の内にある世界………それとこの物質界を繋ぐ事が課題である」

「………ボクの中の」

「そうだ。本物の星の世界を宿すお前ならば、その世界と精神的な繋がりだけではなく、もっと直接的な深い繋がりを作ることが、お前の成長にとって最後のピースだと考えている」

「…………なる、ほど」


 そして、3人は湖のへと辿り着く。広く澄んでいて、穏やかなそこは晴れ渡る空の景色を美しく映し出していた。


「それでは授業を始める。良いな?」

「はい、いつでも」


 そうしてその日からアウラの水の魔術の練習が始まったのだ。しかし、【星】の魔術のような自らの才能が活かせる魔術ではなく、理論や感覚を1から学ぶのはそう簡単に上手く行くものではない。


「理論さえ理解すれば良いと言うわけではない。まずは式に当てはめる数字を理解するように、感覚を理解しなさい」

「水の感覚………つ、冷たいです」

「それも1つの要素だが、そう言う話ではなくてだな………ふむ。どう説明したものか………」


 毎日練習を続け、アルベールに教わりながら………ようやく水の弾丸を放つ基礎魔法を習得したのは約1ヶ月後のことであった。


「や、やっと…………!」

「ふむ………予想よりも時間が掛かってしまったな。やはり魔術を会得し始めた時に【星】の魔術のみに特化した結果、感覚機能もそちらに特化し過ぎているようだ」

「ごめんなさい…………」

「いや、我ももう少し先を見通しておくべきであったな」


 アルベールは悔いるように言うが、元よりアウラと言う人物が特殊な生い立ちと成長をしており、更に既に継承者が絶えてしまっていたはずの【星】の魔術適性を持った少女をここまで育て上げたのは十分偉業とも言える。


「………次のステップだ」


 アルベールはそう言うと、本を開きながら湖の方へと向かう。その歩は湖の目前まで来ても止まらず、そのまま水面に足を踏み出したのだ。

 しかし、アルベールの足は湖に沈むことはなく、波紋を作りながら湖を進んでいく。暫く進んだ先で、アルベールは立ち止まり振り返った。


「ここまで来てみなさい」

「………ほ、本当に?」

「無論だ。水面と水中の境界を明確に掴み、同時に今日まで学んだ水の魔術で自らを沈まぬように水面を操作する。複雑だが、これが出来るようになれば後はそう難しくはない」

「…………分かりました」




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