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36話

 事件の翌日、アルベールに急な公務が入って今日の授業は休みとなってしまったため、アウラは屋敷のリビングで本を読みながら、ケインと雑談を交わしていた。


「もうニルヴァーナを離れて3年ですか。アウラ様も、こちらへの愛着が出来てしまったのでは?」

「………うん、愛着はあるよ。この街には尊敬してる先生もいるし、数少ない友達もいるしね」

「………ヘレン様ですか。学園に入学をしないと聞いたときは驚きましたが」

「ね。まぁ、もう学園で改めて学ぶようなことはないって言ってたし、もっと先の下地作りを優先するのは当然なのかも」


 アウラはそう話すが、実は彼の決断の裏には少なからず彼女に影響を受けた所が大きい。

 好きなことにひたむきで、実直に取り組んでは成果を出し、そしてあの夜に祝福とエールを贈ってくれた彼女に応えるためであった。


「今は婚約者を探してるって聞いたよ。公爵家の正当な跡取りなんて、婚約者はとっくに決まってそうなものなのにね」

「それを言うとルーク様もそうでは?」

「………えへ」


 ケインの言葉に、アウラは苦笑を浮かべる。その笑みを見たケインは「まさか」と目を見開いた。


「まさか、この3年で――――」

「決まってたんだけど、この前破棄しちゃったんだって」

「…………はい?」


 衝撃的な情報が2つも同時に飛び出し、ケインは思わずフリーズする。すると、アウラはやや気まずそうに話を続けた。


「お互いの家族の話をしてたときに、相手の人がね。ボクの事をポロっと【呪い子】って呼んじゃって、それを聞いた兄さんが激昂して………って事みたいで」

「それは………」

「ボクのために怒ってくれたのは嬉しいけど………ボクが家族の幸せを邪魔しちゃうのは悲しいかな」


 この話をしていたアウラが気まずそうだった理由に納得するが、どうしようもないことだったようにも思える。いや、寧ろ………


「ですが、寧ろそのような心無い言葉をつい(・・)言ってしまうような、醜い心の持ち主からルーク様をお守りした、という風にも捉えられませんか?」

「それは…………」

「いえ、きっとそうです。それに、アウラ様の件がなくともルーク様は高尚で立派なお方ですからね。仮に結ばれたとしても、何処かできっと上手く行かなくなっていたと思いますよ」


 ケインの言葉に、アウラは少しだけ考えるような無言のあと、顔を上げて小さく笑みを浮かべる。


「………うん。ありがとう、ケイン」

「いえいえ、お礼をされるようなことは何も」


 実際、アウラへの言葉はただの励ましと言うだけではなく、いずれニルヴァーナを背負うルークと結ばれる相手がそのような人物であってほしくはないと言う彼なりの私情もあった。


「しかし、まさかそのような事になっていたとは………そう言えば、アウラ様にそう言った話は?」

「あると思う?このボクに」

「…………」


(あると思ったから聞いたのですが………恐らく、領主様の方で全て処理されているのでしょうね)


 そう言った話がない、とは一切思っていなかった。確かに彼女は魔術に全ての情熱を注いでいると言っても過言ではない人物だが、その地位は三大貴族の公爵令嬢、更には【星】の魔術師であり、星の奇跡を賜った娘だ。

 故に1つもないと言うのは寧ろ不自然であり、アルク達で止めているのだろうと言うのは容易に想像出来たのだ。


「さて、どうでしょう。アウラ様自身はそう言ったことに………いえ、これは愚問でしたね」

「それどういう意味で言ってるの?」

「可能なら、魔術と結婚すらしそうな雰囲気がありますから」

「…………否定できない」

「せめて冗談でも否定してください」


 ケインもアウラの護衛として、そして一人の人間としてもアウラが魔術師として大成し、夢を叶えることを望んでいる。

 だが、同時に普遍的な普通の幸せも得てほしいと思うのはただのお節介なのかもしれない。それでもそう願うのは、やはり長く彼女と接してきたからこそだろう。


「今のボクには………それ以外の生き方が想像も出来ないから。やらなきゃいけないことも、やりたいことも全部魔術に繋がってるんだ」

「まったく…………分かっていましたが、本当にアウラ様は魔術バカですね」

「あ~。仮にも今のボクは君の上司なのに、そんなこと言っちゃうんだ~」

「事実ですから」


 下らない言葉のやり取りをして、互いに笑う。今はそれでいいのかもしれないと、無邪気な笑顔を見せる少女を見て思うのだった。





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