35話
「oh………なんてこったい!こいつぁ予想以上だぜ!」
「これはまさか………【星】の魔術か………?」
アグニが興奮したように空を見上げ、シーリンもまた予想外と言った様子であった。これがただの幻術の類いではないのは、"賢者"だからこそ確信出来る。
「…………恐らくの物理術式の圧縮、結合、拡張………アルベールの得意分野だね」
「ってことは、マジで爺さんの継承者って訳だな?いいねぇ、とんでもねぇ奴が現れたもんだ」
誰もがこの光景に様々な反応を見せる中、空に広がる裂け目の星々が輝いたその刹那、デーモン達に向けて無数のレーザーが降り注いだのだ。
それは流星の如く空を引き裂き、街を飛び回る無数のデーモンのみを無慈悲に消滅させていく。それはあまりに美しくありながら、同時に一方的な舞台であった。
「ははっ、見ろよ!昔は災厄とまで言われたデーモンの軍団が羽虫みてぇだ!」
「煩い、一々騒ぐな。我らとてこの程度ならば片手間だ」
「………ガキ相手に俺らと比べてる時点で敗けじゃねぇか?」
少なくとも100体以上はいたであろうデーモンの軍団は数分と経たずその数を半分以上減らし、更にレーザーは召喚をしていた男の持つ水晶を破壊する。
だがその威力とは裏腹にその光は男の肉体に一切の傷を負わせず、暴走していた男はそのまま気を失って倒れ、デーモンの残党も瞬く間に消滅させられてしまったのだった。
時間にしては3分に満たないほど。しかし、与えた衝撃は決して時間では推し量れないだろう。
「………アルベールは何処からあの娘を拾い上げたと言うのだ?」
「騎士を連れてるし貴族なんじゃね?………んで、わざわざこんな事件まで起こしてまでガキを試して納得したのか?」
「………」
「ま、お前の回答を日が暮れるまで待ってる暇もねぇけどよ。俺は満足したから帰るわ。じゃあな」
そう言って、アグニは屋根から飛び降りる。常人なら確実に死ぬ高さだが、飛び降りた先に彼の姿はない。恐らく、既に正門近くで帰りの馬車を用意しているのだろう。
「………私も帰るね。それじゃあ、また」
キリエもそう言って転移する。一人残ったシーリンは暫く少女を見つめていたが、やがてその姿を消すのだった。
(この到達点の中現れた【星】の魔術師………か)
「先生、どうでしたか?」
「期待通りだ。よくやったな」
「えへへ」
褒められたアウラは嬉しそうに笑みを浮かべる。その様子だけを見れば師と弟子………または祖父と孫なのだが、先ほど行われたそれは到底そのような朗らかな空気のそれではないはずであった。
この二人にとってはそうではないのだろうが。
「それで、あの男は?」
「水晶を破壊したら気を失って、まだ上で倒れてます」
「ふむ………ひとまず様子を見に行くか」
「分かりました」
そうしてアウラ達は街の上層へ向かう。殆どの人は避難したか隠れているため人通りはなく、10分ほどを掛けて男の所へと辿り着いた。
アウラの言葉通り気を失ってピクリとも動かないが、その側にはアウラが破壊した水晶の破片が落ちていた。それを見つけたアウラが水晶を確認しようとしたが、その手をアルベールが掴んで止める。
「万が一お前に悪影響があっては困る。お前はそやつの安否を確認しなさい」
「分かりました」
アウラが頷き離れたのを確認し、アルベールは懐から布を取り出して水晶を拾う。それに手を重ねると、小さな光が掌から放たれて水晶を包む。
(…………強化術式は念入りに消されているが、人を暴走させる術式の痕跡は不自然な程に残っている。となれば、この男を陥れるのが目的と言うわけではなかったか)
ここまで高度な術式を組み込んだ魔導具ならば並みの魔術師ではないだろう。ならば男は使い捨ての駒に過ぎず、かといって彼を貶める意図があったとも考えにくい。
彼の脳裏に一瞬だけとある考えが過ったが、証拠がない以上は首を横に振るしかない。
「先生、この人起きないで~す」
「あ、アウラ様………」
その時、アウラが彼に声を掛ける。アルベールが振り返ると、彼女は男の頬をツンツンとつついていた。
その様子は先ほどデーモンの軍団を退治した少女とは思えず、アルベールは小さく息を溢す。
「そやつは街の警備隊に預ける。尋問はあるだろうが、すぐに釈放されるだろう」
「と言うことは、やっぱりその水晶が原因だったんですね」
「あぁ。しかし、そうなると犯人を探すのは難しいであろうな。今後の対策は必要になるやも知れん」
「そうですね」




