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34話

「戻ったら実践の後はその本を参考に課題の続きをしなさい。我も知恵を出そう」

「ありがとうございます」


 アウラは古書館で借りた本を抱えながら笑みを浮かべた。本来ならば本の持ち出しも厳禁なのだが、アルベールはこの街でも有数の権力者でもあり、特例というのを作るのも難しい話ではない。無論あまり褒められた行動ではないのだが、自らの後継者であるアウラを育てるためであれば、そのくらいはするべきだと考えていた。


「お前も卒業の時は近い。その課題の後は、更に次のステップに移るべきだろうな」

「次のステップ?」

「そうだ。お前の特性を考えれば――――」


 言葉の途中だったアルベールとアウラが同時に上空に視線を向け、同時に彼がバリアを展開して迫っていた巨大な火球を防ぐ。ケインも素早くアウラを庇うように前に出るが、その火球を放った者達の姿を見て目を見開く。


「デーモン………!?」

「なんでこんなに………」


 真っ赤な皮膚と赤い角、そして翼を備えた人型のモンスター。悪魔界の住人であり、本来ならば人間の住む物質界に現れることはない。それが街中の空を無数に飛び回って人を襲っていたのだ。そして、そんなデーモンが物質界に現れる理由の殆どは何者かによる召喚であった。


「デーモンの召喚には相当な魔力が必要なはず………ううん。今はそれよりも大事なことがあるね。ケイン、目の前のは頼んでいい?」

「承知!」


 ケインは一瞬の踏み込みでデーモン達の目の前へ迫り、刹那の剣技でデーモンの群れを切り刻むとデーモンの肉体が消滅する。


「………地獄界の住民は物質界で死ぬことはない、か。手応えがないのはやはり慣れませんね」


 彼もまた騎士の中では上澄みの実力者であり、自分の間合いにいるデーモンならば苦戦することはない。

 しかし、デーモンの本領とは即ち膨大な魔力による攻撃魔術であり、そちらはあまり得意ではないケインにとってはやはり分の悪い相手だ。


「アウラ、街の様子を確認しなさい」

「分かりました………"星の言葉。我が目を逃れうる者は在らず、万象を観測する"」


 アウラの金の瞳が輝き、その目には街の遥か上空からの視界が映る。既に街中でデーモン達の軍団と魔術師たちの交戦が始まっており、しかしその数は寧ろ増えているようにも見える。

 どこかに、まだデーモンを召喚している者がいる。そう考えたアウラはその目で街の中を探し………


「………見つけた。街の上層にある橋に………あの人は、今朝の………?」

「なに?」


 アウラが見たのは、上層の橋の上で一つの水晶を掲げ、狂ったような笑い声をあげながら召喚を行っている男の姿。今朝、アルベールに追い出されたあの男だったのだ。しかし、これだけの数の召喚を行える人物であれば、アルベールと言えど流石に衝撃を覚えただろう。

 そして、彼には決して不可能だったと断言する。結界の中で見た彼の魔力は、常人よりも少し多い程度であったのだから。


「………そやつの状況は」

「多分、暴走してるんだと思います………正気には見えません。それに、彼が持っている水晶は普通には見えないです」

「ふむ………それほどの力を与える魔導具か。ならば並みの魔術師の創造物でなかろうな。しかし、ここからでは確認は出来んか」


 街の上層はこちらからは見えず、故にその男の姿も確認は出来ない。暫く考えた後、アルベールはアウラに告げる。


「アウラ、お前がやりなさい。この街のデーモンの殲滅、及びその男の無力化までがお前に与える課題だ。出来るな?」

「課題って言えば何でも良いと思ってないです?………出来ます。ボクは先生の後継者なんですから」

「あぁ、ならば任せる」


 アルベールの言葉を合図に、アウラはそっと目を閉じて魔力を高める。その様子をアルベールは無言で見つめ、次に空へと視線を向けた。これから起こることを、デーモン達は知らぬのだ。


「"星々の言葉。絶えず輝き、我らは闇を切り裂くだろう。ならばその光、その魂をここに顕現する"」


 魔力の高まりと同時に、彼女の周囲で小さな光の粒子が放たれ始める。それらはまるで小さな星の群れのようであり、そんな光を纏う少女は告げた。


星紋セット五重奏クインテット


 紡がれた詠唱と共に開いた金の瞳が光を放つ。その瞬間に広がった光景に、誰もが目を疑っただろう。それは人だけではなく、街を飛んでいたデーモンもそうだ。皆が一様に空を見上げ、それを目にしたのだ。



 街を覆うほどの、巨大な星空の裂け目を。






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