33話
アルベールの授業は加速度的に高度化していき、時には躓き悩むこともあったが、それでも一つずつ確実に課題を乗り越え、圧倒的というほどであった差は、3年というアウラからすれば長く………そして、アルベールからすればあまりにも短い期間で少しずつ近くなっていくのだった。
「また少し背が伸びましたね、アウラ様」
アルベールの家に向かう途中、ケインがそう声をかける。9歳となったアウラは一目で分かるほどに身長が伸び、伸ばしていた髪も更に長くなって今では外に出る時は二つ結びにして後ろに流していた。
とは言え、同年代の子供と比べれば小柄で華奢なのは相変わらずだが。
「うん。もう少し大きくなりたかったけど………」
「今のままでも可愛らしいですよ」
「嬉しくない………」
軽くケインを睨み付けるが、上目遣いとなるため全く怖くはない。寧ろ小動物らしさが増すため愛らしいのだが、朝からアウラを怒らせても得はないため謝罪の言葉を口にする。
少しムスっとしながらアルベールの家の屋敷の手前まで来たときだった。庭の方で大きな爆発音が聞こえ、二人が驚いて足を止めた瞬間に門から逃げるように飛び出して走り去っていく一人の男。
「………なに、今の」
「な、なんでしょうね……」
理解が追い付かなかったが、二人が門から庭を覗くと、やれやれと言った様子でいつも通り庭に立つアルベールがいた。
「来たか。朝から騒がしくてすまぬ」
「いえ、それはいいんですけど………あの人は?」
「弟子入りを志願してきた者だ。強い熱意はあったが、今は他の者に時間を割く余裕はないのでな。追い返した」
「………なるほど」
アルベールは"賢者"の中でも珍しく弟子を取ると言う話はあったが、卒業生が現れることはないと言うのも有名な話だ。
しかし、後者の話はアウラによって覆されつつある。それと同時に、彼女以外の弟子を取る事も無くなっていたのだが。
「珍しい召喚魔術の使い手であったが…………まぁいい。あの男の事は気にするな。それより、課題の進捗はどうだ」
「もう少しで辿り着きそうな気がします。でも、まだ資料が足りなくて………」
「ふむ………何が足りぬ」
「永い年月で形を変えた星座の、昔の姿を記した資料とか、です」
「ならば古書館へ行くか。立ち入りには許可が必要だが、我がいれば問題はなかろう」
「お願いします」
アルベールの授業は、今では実践よりも座学や課題の方が多くなっていた。それでもアウラは毎朝の散歩はしているし、体力作りと言う課題が無くなったわけではないのだが。
そうして古書館へ向かった三人。問題なく許可も降りて、目的の本を共に探しながら、今後のことを語らう。そんな師弟の姿も、少しずつ卒業も近付いていたのだった。
それから少し経った頃、古書館から出てくる三人の姿を、街の上層の屋根から見下ろす者達がいた。
「ほう、あれがアルベールが入れ込んでいると言う娘か」
「みてぇだな。確かにとんでもねー魔力を持ってる」
「………」
シーリン、アグニ、キリエ。"賢者"と呼ばれる者達が集会以外で集まることは非常に珍しいのだが、この三人には共通の理由があった。
アルベールが目に掛けていると言う弟子の姿を見るためだ。
「あの爺さんがあそこまで言うからどんな奴かと思ったが………あんな小娘とはねぇ」
「ふん………あれが本当にあの男を越える魔術師になるように見えるか?」
「どうかねぇ………あの幼さであれだけの魔力を持ってんなら、確かに"賢者"の素質はありそうだが。爺さんの上なんざ、俺には想像も出来ねぇよ」
アグニは屋根に腰を掛けて小さく唸った。【賢者の円卓】の中でも実力差はある。特にアルベールは現在最も長く"賢者"の席に着いているだけあり、魔術師としての格は誰よりも上だと言えるだろう。
実際に戦うともなれば、彼は老いという重りに足を引っ張られてしまうだろうが、それでも先人としてそれなりの敬意を持たれていると言うのは事実だ。
「貴様はどう思う」
「………うん」
「「うん」、ってなんだよ「うん」って。はっきり言ってくれ?」
「私は………アルベールの言う通りだと思う。まだ開花の時ではないけど、いずれは………」
「へぇ………ま、賢者の席も二つ空席が出来ちまったしな。あの娘が本当に爺さんの継承者として相応しいってんなら、次の集会で推薦してやらないこともないがね」
膝に頬杖を付いて言うアグニだが、その言葉を苛立ちを含んだシーリンが制する。
「黙れ。"賢者"の名はそう安いものではない。アルベールがなにを言おうと、あの娘はまだ何も証明出来ていないだろう」
「んじゃ試してくれば?ま、こんなとこで騒ぎを起こそうもんなら……………あ?あいつどこ行った?」
「転移した」
「嘘だろ………」




