31話
「そういえば、アウラ様は以前と比べると食べる量が増えましたね」
「そう?………そうかも」
以前までは小柄な体躯のことを考えてもなお食が細かったアウラだが、今は少し食べる量が少ないと言うくらいまで食べる量が増えている。とは言え、流石にもう満腹になって小休憩をしていたが。
その間にも会場は既に盛り上がりを見せ、歌やダンスなども始まったりしていたが、今回のパーティーには両親もおらず、ヘレン以外の知り合いもいない。そしてアウラに声を掛けてくる者もいないため、完全に手持ち無沙汰となっていたのだ。
(でも、前みたいに嫌な視線を向けられないから全然いいかな………変な視線は感じる気がするけど)
以前のような気味悪がるようなものでもなければ、敵意でもない。しかし、たまに視線を感じることがある気がして、どことなく居心地が悪かった。
「………ねぇケイン。ボク、どこか変なところある?」
「はい?いえ、まさか。ドレスもよくお似合いですし、とてもお綺麗ですよ」
「ん~………?気のせい、なのかな?」
「?」
とはいえ、気にしても仕方ないかと思えばまた暫く手持ち無沙汰となり………故に、彼女は一つの考えが脳裏を過ったのだ。
(貴族同士のプレゼントは政治的な意味が生まれることがあるから、送るときは気を付けるようには言われたけど………形として残らないなら、多分大丈夫かな?………それに、この夜空も記憶しておきたいしね)
「ちょっとテラスに出るね」
「え?あ、あぁ………承知しました」
アウラはそう言って屋敷のテラスへと向かう。あの日の会場のテラスほどは流石に大きくないが、それでも十分な広さのそこから夜空を見上げる。それを見て、ケインは彼女が何をしたいのかを察した。
彼はあの日の夜空を見てはいなかったが、その話だけはガイアから聞かされていた。夢のようで、奇跡のような。決して忘れることなどありえない、美しい世界を見たのだと。
「………あれは」
そして、そんな彼女の姿に気付いた者もいる。そんな中にはあの夜を見たもの、聞いたものも含まれ、次第に会場内で噂となって広まる。
皆の注目が集まる中で、アウラは両手を胸の前で握って目を閉じた。
「………うん、映し出すよ。あなた達の光は奇跡を彩る。だから――――」
アウラは振り返って右手を伸ばす。祝福される者、自らの友の道に光が届くように。
「星の言葉。歩む者よ、暗闇に迷うことなかれ。我らの祝福に照らされるよう………この光を、あなたに捧げる」
そうして彼女は同時にくるりと回りながら胸から放たれた光を掴んで空へと放つ。
「星々が、永遠となるように」
暗闇を進む流星が激しく弾け、夜に浮かぶ星達はそんな光に目を醒まされたかのように更なる輝きを放つ。そして、弾けた光の欠片は光の雫となって降り注いだのだ。
それは街の様々な場所へと落ちてくるが、そこにあるものを傷付ける事はなく小さな光の粒子を空へと舞い上がらせた。
暗い街を幻想的に彩る光と、夜を照らす星々のイルミネーションが人々の目を奪い、誰もが感嘆の息を溢すのだ。
「あなたの生誕を祝福するこの星空………受け取ってほしいな」
沢山の光に照らされる中で、アウラは一人に向けて微笑む。仄かに光を放つ金色の瞳と、夜風になびく白い髪が光を反射してひたすらに幻想的な少女の姿を映し出した。
「…………」
そんな光景に、誰もが声を発する事もなく魅入っていた。ヘレンもまたその一人だったが、それでも彼女の問いかけに答えなければと口を開いた。
「最高のプレゼントだよ、アウラ。本当に………本当に嬉しい」
「…………ふふ。良かった」
あの日の夜は自らのために。そして彼女は、これからは誰かのために夜を捧げていくのだろう。
その光が、より多くの人に希望を与えられるように。そして、より明るい道を進めるように。それこそが、彼女が目指す【星】の意味なのだから。
「………それじゃあ、僕からもお返しをしようかな」
「えっ?…………う、ううん、これは誕生日プレゼントなのに、お返しなんて………」
「じゃあ僕のためだと思ってさ」
そう言って彼はアウラの方へと歩き出し、光のステージへと上がる。そして彼女の前で止まると、お辞儀と共に手を差し出した。
「僕と踊って貰えるかな?君が魅せた、この舞台で」
「…………えっ」
アウラはその言葉にフリーズする。確かにリリアからの教育の中には社交ダンスがあったが、以前のアウラの体力では不安があったため実際にやるような事はなく、アウラも必要になることは無いだろうと思っていたのだ。
「えっ、えっ………!?や、あの………ぼ、ボク、ダンスはあんまり習ってなくて………」
「じゃあ習ったところまででいいさ。僕がちゃんとエスコートするから」
「………」
アウラはそう言われて迷ったように視線を泳がせる。然るべき場でダンスの誘いを受けた際は、理由がない限りは受けるのが礼儀だとリリアからは教わっていた。そして、ここは当然ながら然るべき場であり、彼はこのパーティーの主役だ。
「………よ、喜んで………お受けいたします」
そう言って、アウラは震える手を差し出した。その手を取ったヘレンは小さな笑みを溢す。
「ははっ。緊張してるのが分かりやすいね。けど、大丈夫さ。こんな素晴らしい舞台があるんだからね」
そうして、二人は光が照らす星の舞台で踊り出した。拙いダンスを見せて友人の顔に泥を塗る訳にはいかないと、アウラも必死に付いていこうと頑張りはしているがやはり不馴れなのもあって決して上手くはない。
それでも、星空の祝福に照らされたその躍りを貶す者は一人としておらず、ただ美しかったと表するのだ。




