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29話

 アウラがパーティーへの出席を決めた日の昼過ぎ。アルベールはどの国家の領地でもない、【賢者の円卓】が管理する『秘星の神殿』の円卓の間に到着した。


「よう爺さん。随分と遅かったな」

「アルベールは忙しいでしょうからね。お前とは違って」

「違いないね。おかげで俺はめんどくせー因縁とは無縁なんだがな。お前とは違って」


 銀髪の男と、赤髪の少女が皮肉を言い合う。一瞬険悪な空気が流れるが、それを仲裁したのは金髪の青年だった。


「二人とも見苦しい真似はやめないか!久しく開かれた集会なのだぞ!」


 そんな青年の言葉を受け、二人は顔を背けて中断する。しかし、そんな様子を見て一人の女性が深い溜め息をつく。


「はぁ。下らん茶番だ。貴様らのような者共が同じ賢者の名を冠することが実に嘆かわしい」

「………」


 外野から溜め息と共にそう毒を吐く黒髪の女性と、無言を貫く青髪の女性。そんな三者三様の五人を見て、アルベールは小さく溜め息をつく。


 最初にアルベールに声を掛けた男はアグニ・フリーデア。

 その男に突っかかった少女の名はメア・ハウリン。

 そして二人を仲裁したのはクロウ・ラズライト。

 そんな彼らに容赦のない毒舌を放った女性はシーリン・カルミナ。

 それまでのやり取りに無干渉を貫く女性をキリエ・アウローラと言った。




「………カイウスとイリスは今回も欠席か」


 アルベールは2つの空席を見ながら席に着く。すると、アグニは椅子にだらしなく体重を掛けながら「やれやれ」といったように両手を上げた。


「あいつらはもうこねーだろ。絶賛戦争中なんだし」

「ふん、数年後にここへ顔を出すのはどちらになるだろうな?」

「不謹慎な事を言うな………と言いたいが、実際にそうなる可能性も否めない。しかし、あの二人には出来れば殺し合わず終わってほしいものだな」


 クロウは憂うような表情で呟く。カイウスとイリスは【賢者の円卓】の中で唯一と言ってもいいほど個人的な親交があった二人でもある。

 それを知っているからこそだったが、国家間の問題は原則ここには持ち込まないのがルールであるため、どうすることも出来ないのである。


「ま、空席が出来ちゃったら次の賢者候補を探すのも面倒だしね。今の魔術師どもは腑抜け過ぎてるのよ」

「………魔術は"到達点"に至ったから、ある程度は仕方がない」


 メアの言葉に、今まで黙っていたキリエが言葉を返す。彼女の言う"到達点"とは、長い魔術の歴史で発展が進み、これ以上の進化は見込めない所まで至ってしまった、と言う意味である。

 言うなれば、今の魔術は行き詰まりに至っており、昔と比べれば魔術研究を熱心に行う者は減少傾向にあった。


「だから、やる気と能力がある奴を探してるんでしょう?」

「………簡単な話じゃないのも、分かってるはず」


 そして、その"到達点"を超えて魔術の新たな可能性を切り拓くことが、現在の【賢者の円卓】における至上命題とも言える。

 

「それはそうだけど………あぁ、そういえばアルベール。また弟子を取ったそうね。そいつはどうなの」

「またかぁ?爺さん、そろそろ諦めろって。あんたを前にしたら、皆折れちまって逆効果だっつーの」

「まだそのようなことをしているのか?有象無象に無駄な時間を割くなど………貴様、まさか既に"到達点"の突破を諦め余生を過ごしているつもりではなかろうな」


 口々にそう言われるアルベール。この中では最も長く生き、同時に"到達点"の突破に近付いたと言われた男が、名も無き魔術師達を相手に自らの時間を割いて教えようとするなど、愚かしく思えて仕方ないのだろう。


「………口を挟むことではないかもしれないけど、あなたは一度も卒業生を出していない。考えていることも理解はするけど、別の方法を模索することも――――」

「あの子は」


 アルベールがキリエの言葉を遮って話し始める。普段の彼ならばそのような事をすることはないため、ここにいた全員が無言で彼に視線を向けた。


「あの子は違う。今までの者とは違うのだ。彼女は必ず、我を越える魔術師になる」


 短くも、芯のある言葉。それは彼が正気のままに言っている事を示し………同時に、その意味を理解するまでに数秒を要した。


「…………ははは。おいおい爺さん、まさか上手くなった冗談の御披露目か?あんたを越える魔術師だって?流石に夢見すぎだぜ」

「聞いておいてなんだけど、流石に信じられる話ではないわね」

「アルベール殿、流石にそれは………期待の新人なのは理解出来るが、あなたのその期待は、その者には重過ぎるのではないだろうか?」


 クロウが苦笑しながら言う。しかし、アルベールは首を横に振って答えた。


「そうかもしれん。だが、我はこの目で見て育ててきた。言うなれば、無限に広がり続ける(そら)のような子だ。その成長はいつか我の手すらも届かぬ先へと向かうだろう。故に、今はあの子を育て導く事が、我が使命である」





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