2話
生まれつき【呪い】を受けて生まれた子。それが今の彼………もとい、彼女であった。特に理由があったわけではない。ごく稀にそういった子供が生まれることがあって、ただそれが偶然アウラ・アルファーネだったというだけである。
金髪の両親とは似ても似つかない白い髪。食べ物は碌に喉を通らず、右目は成長とともに視力を失い、ある日完全に潰れてしまったのだ。
しかし、そんな彼女は【彼】と同じく星空が大好きであった。そしてなんの偶然か、そんな彼女は希少な星の魔術適正を持ち、だが彼女の弱った体ではその魔術を行使することも出来ず、両親すらもそのことを知らなかった。だからこそ、死期を悟った彼女は半分の魂を捧げて最期にとある魔術を行使したのだ。
(幼いのに、この子はどんな気持ちだったんだろう)
星と契約を交わす魔術。その対価はもう半分の魂。代わりに、一つだけ………たった一つだけの願いを星に託すことが出来た。
ならば、【呪い】を解くことを望めば………とは考えただろうが、魔術を行使した時点で彼女は自らの魂を失う。結局のところ、彼女が彼女として生き残る道はなかったのだ。
(せめて………僕がこの子の願いを。いや、僕自身の願いでもあるかな)
本当ならば、その夢は自ら叶えたかっただろう。それが叶わないからこそ、彼女はこうして別の誰かに託したのだが。故に――――これからは、【彼女】がアウラ・アルファーネなのだ。
しかし、一番の問題がある。夜が明けて日の光が差し込むベッドに横になったまま、心の中でため息をつく。
(………でも、女の子っていうのはなぁ。すごく申し訳ない気持ちになるよ………)
「アウラ………体調は、どうだ?」
「え?あ、はい。僕は――――っ」
やってしまった。慌てて口を閉じたがもう遅い。彼女の様子を見に来ていた両親は目を見開き――――
「話せる………!やっと………お前の声を………!」
「あぁ、どんな奇跡が………!本当に、本当に………」
「えっ………」
予想とは違った反応に困惑してしまった。涙すら流して歓喜する両親の姿に、ふと昨晩のことを思い出す。
(そういえば………声が、出なかったっけ)
5歳になるこの歳になっても、少女は喋ることすら叶わなかったのだ。彼女は自らの礎となった少女の境遇に改めて胸を痛める。しかし、今はこうして声が出るのは、彼女の中に宿った星の光が関係しているのだろう。
「えっと………あの」
「あぁ、すまない………!お前の声を聞ける日が来るなんて、思ってもいなかった………!ただ、生きてくれればいいと願っても、呪いはお前を蝕んで………もう、駄目かと思ったら………!」
「お父さん………」
その姿を見て、またずきりと胸が痛む。こんなにも愛されていた本当の娘は既に死に、一切関係のない青年が代わりとなったと知れば、二人の絶望は計り知れないだろう。
故に、彼女に出来ることはただ一つ。無事に成長し、人並みの幸せを享受して二人を安心させること。それがこの両親への償いであり、彼女に出来る恩返しの一つだろうと。
(この子も、家族のことは心の底から好きだったみたいだし、ね)
「僕………あ、私は――――」
「無理に取り繕わなくていいわ。昔から、本を読むことしかできなかったんだもの………その中で今のあなたが出来たのなら、それでいいのよ」
「………はい」
「それより、本当に大丈夫なのね?」
「はい、大丈夫です。【呪い】も………消えた、かもしれないです」
あの星の光を宿してから、体の重みは急激に軽くなっていた。あれが何だったのか、自分の中にあるあれが何なのかまでは分からない。けれど、確かにあれは彼女を救う何かであった。
しかし、それは呪いの傷跡が癒えたわけではない。痩せ細り弱った体は未だ満足に動かず、右目も永遠にこのままなのだろう。それでも、【呪い】が消えたというのは確かな希望であった。
「そうか………!そう、か………!」
再び涙腺を崩壊させる父………彼の名をアルク・アルファーネ。そして母の名はリリア・アルファーネと言った。生まれたころから【呪い】を持ち、長くは生きられない、この子は諦めてしまったほうがいいと魔術師に進言されてなお、最期まで彼女を愛そうと誓ったのであった。
だが、二人はそのことに葛藤と後悔を抱いていた。日に日に弱り、苦しんでいく娘の姿を見れば当然だろう。だからこそ、この奇跡を誰よりも喜んだのだ。
「アウラ………回復したら沢山、色んな事をしましょう。今まで出来なかったことを、何でも」
リリアのそんな涙ぐんだ声に、アウラはゆっくりと頷くのだった。