26話
翌日の朝、アウラはケインと共にアルベールの下へと向かっていた。アウラは昨日のテストの戦いを思い出しながら、反省点を振り返っては改善案を悩み続けていた。そんな中でアルベールの家へと辿り着くと、門扉を開いてケインと共に庭に入る。
「来たか」
「おはようございます、先生」
「あぁ、おはよう」
家のテラスに座っていたアルベールに挨拶をすると、彼も挨拶を返して立ち上がる。実践を多めにするという事ならば、自分には昨日のリベンジをする機会を得たと同義だ。勝てるとは思っていないが、昨日よりも実力を発揮できればと意気込んでいたアウラだが、アルベールはゆっくりと歩き始めた。
「では、行こうか」
「えっ?行くってどこへ?」
「買い出しだ」
「………はい?買い出………えぇ………!?」
アウラの声を無視してそのまま門のほうへ向かうアルベール。その後ろ姿を見ながら、アウラは困ったように頬を掻いた。
「必要な教材の購入なのかな………」
「とにかく、それが課題だというのなら着いていってみるのはどうでしょう?」
「………そう、だね。歩くのはあんまり好きじゃないんだけど………」
アウラはぼやきつつアルベールの後を追う。そうして三人は街に出て買い物をしていた。まさか荷物持ちをさせられるのでは、とも思ったが、流石にそんなこともなく。かといって、教材を買っているかと言われればそんなこともなかった。
「この肉を頼む」
「はい毎度!それにしてもアルベールさん、また新しいお弟子さんかい?今回は随分と若いねぇ」
「まぁな」
「子供相手なんすから、優しくするんすよ?まーた虐めすぎて逃げられないように。そろそろ一人くらいアルベールさんの卒業生の顔を見たいですよ」
「卒業に値する者がおればな」
アルベールの返答に苦笑を浮かべる店主。その会話を聞いて、アウラはごくりと息を飲む。ある程度厳しいのは覚悟していたが、まさか彼の弟子は今まで全員が卒業前に逃げ出しているのかと。いったいどんな仕打ちを受けるのか。
「アウラ様、本当に大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫だよ………多分」
そんな不安を抱えながら買い出しを続けるが、そもそもよく考えればこの買い出しの意図も分からず、授業前から既にアウラは疲れ始めていた。
「…………疲れたか」
「あ、えと………すみません」
「よい。最初からそうさせるつもりであった」
「え、それは………どういう?」
アウラがきょとんと首を傾げると、アルベールは言葉を続けた。
「病弱や体質を言い訳に、外を歩くことは殆ど無かったのだろう。それではいつまで経ってもお前の肉体は育たぬ。実践もそうだが、お前はお前が思っている以上に根本的な部分が足りておらんのだ」
「…………」
「これからは毎朝、授業の前に外へ出る。必要な物がなくともだ。我が不在で授業がない日も、自主的に続けるように心得よ」
昨日、一戦交えただけだと言うのに、アルベールはアウラの事をここまで理解していた。同時に自分の独学で欠けていた所が浮き彫りにされていくようで悔しくもあったが、だからこそ彼に師事する事が出来た彼女は幸運だったのだろう。
(こんなにしっかりボクの事を見てくれてるんだから、ボクだって相応の誠意を持って教わらなきゃ)
「分かりました」
「よい。そろそろ戻るぞ」
そうして、三人は家へと戻る。ケインも最初はアルベールを警戒していたのだが、先ほどのやり取りを経て彼が相手の事をちゃんと考えつつも、その出力が得意なタイプでは無いのだろうと認識していた。
「休憩をしたら実践を始める。昨日も言ったが、またあのような事が無いように努めよ」
「はい、先生」
それから数十分後、休憩を終えたアウラは実践を始める。昨日と同じくアルベールとの魔術戦だが、自身の限界と言う新たな事を意識しながらの戦闘は中々上手く行かず、結果としては昨日よりも酷い戦いとなってしまった。
(………こんなに遠かったなんて)
彼女の才能は間違いなく本物であり、偉大な魔術師の中に名を連ねるのもただの夢と言うわけではないかもしれない。
だからこそ彼女はある程度自信もあったし、やや天狗になっていた所もある。しかし、こうもあっさり自分が通用しないことを知れば、そうも考えてはいられない。
「もう終わりか?」
「いえ………まだです。次、お願いします………!」
(今は無理でも、いつか………そのために、ここに来たんだから)




