25話
アウラ達が向かった先は、街の中心から少し離れた先にあるたくさんの木々に囲まれた家であった。ここだけがまるで外の発展と切り離されたかのような雰囲気があるほどで、魔術卿という異名に反して質素な家であることも合わせてアウラは門の前で困惑する。
「………ここ、ですか?」
「そうとも」
「………」
クレインの返答に同行していたケインも含めて沈黙を保ち、ヘレンはそんな二人の反応に苦笑していた。
「あの方はあまり華やかな物を好まないんだ」
「そ、そうなんだ………じゃあ―――」
アウラが視線を戻したとき、門の向こうに見える庭の中心に、一冊の本を持った一人の男性が立っていた。長身で体格もしっかりしているが、顎から伸びる長い髭がそれなりに年齢を重ねていることを示していた。
とはいえ、彫りが深く威厳を感じさせるその男からは、全く老いという雰囲気を感じないのだが。
「ふむ………向こうから歓迎をしたいようだね。アウラ嬢、あなたがまずはお入りなさい」
「…………ふぅ。分かりました」
アウラは大きく深呼吸して、門扉に手を掛ける。大きなそれは実際にそこそこ重量もあるのだが、今はそれを加味してもより重いように思える。
そうしてゆっくりと開けた門扉を抜けて庭に一歩踏み出したとき、彼女の背後から門が閉じる音が聞こえた。
「えっ………?」
その音に驚き、咄嗟に身構えて瞳に光を宿す。それとほぼ同時に、男が持っていた本を開くと同時に青い魔力弾が放たれたのだ。
「"スターダスト・ベール"」
しかし、アウラは寸前で星空の霧を前方に作り出して防ぐ。『星詠みの瞳』によってこの未来を見ていたための対応の早さだったが、分かっていたとしても急な攻撃など本来ならば慌てるところだ。だが、攻撃を防いだアウラは寧ろ静かに息を吐いた。
(威力が低い。ボクを試すつもりかな………でも、いきなり攻撃だなんて………)
「………これでも一応公爵令嬢なんですけど!"星の言葉。我らの光は暗闇を引き裂き降り注ぐ"―――」
アウラの背後に浮かぶ星空の裂け目。黄金の瞳が光を放ち、彼女は更に詠唱を紡ぐ。
「"星紋"!」
その言葉と共に、彼女の夜に浮かぶ群星の一部が集まり、三つの等しい形を織り成した。そしてアウラが更に魔力を放出すると同時に、一つだった裂け目は四つに広がったのだ。同時にその全てから放たれる無数の流星。しかし、それを前にしても男は表情一つ動かしはしなかった。
「………」
男の持つ本のページがパラパラと捲られ、次の瞬間には強固なバリアが彼を包み込む。だが、アウラもこのような単純な攻撃が通用するとは最初から思っていない。
(防がれるのは知ってた………!けど、隙を与えず飽和攻撃を続ければ、相手の攻め入る隙は………っ)
その時、彼女が見た未来は空から落ちてきた風の矢が頭頂に直撃する自分の姿。咄嗟に上空に向けて先ほどの霧で防御を図るが、次の瞬間に頬を撫でた一筋のそよ風。
(………今のが本当の攻撃なら、ボクの頬を切ったのは風の刃………魔導書で詠唱がないとは言っても、流石に早すぎるよ)
冷や汗を流すアウラ。とは言え、仮に今のが攻撃力を持っていたとしても致命傷には至らない。まだ試験は続行だろうと、アウラが男に向き直って更に攻撃を激化させようと魔力の放出を強めたときだ。
「っっ………!?」
ズキリと頭を過った電撃のような痛み。堪らず頭を押さえて蹲ると、裂け目も全て閉じてしまう。
それは、過剰な魔術行使による彼女の肉体の限界であった。いくら膨大な魔力があっても、それを扱うための肉体が脆ければ負荷に耐えきれずパンクしてしまうのだ。
頭の中がショートを起こしたように電撃が駆け巡るような痛みに呻き、ぎゅと頭を強く抱える。そんなアウラを見て、男は小さなため息を着いた。
「………難儀な。これ程の才能を持ちながら、生まれによってそれが阻まれているとは」
「っ、ボク、はまだ………!」
「よい。お前の性質は大方理解した。少し待ちなさい」
そう言って、男が蹲るアウラの頭に手を添えて光を放つと、彼女の頭の中で電撃が暴れまわっていたかのような痛みが消えていく。
「…………ありがとう、ございます」
一泡吹かせるとまでは行かないにせよ、もう少しやれた自信があっただけに、悔し気に俯くアウラ。生まれのせいにしたくはないが、決して彼女を離さぬハンデとして一生付き纏うのは間違いないのだ。
「………如何に才知に富んでいても、己の限界を見極められぬようでは愚者にも劣る。確かに独学とは思えん腕前だが、実践を疎かにしていたな」
「………」
アウラはその言葉に何も言い返せない。魔術を学ぶ、研究する、試す。その繰り返しばかりで、本格的に実践するといった事は殆どなかったためだ。そして少しずつ体力を取り戻すうちに、自らの限界を見計らうことすら無くなっていた。そんなアウラの様子に小さく息をつくが、男はゆっくりと話し始めた。
「アルベール・メイガス。これからお前を育て、学びを与える者である。これからは不足していた実践を主にして授業を始める。二度とこのようなことがないよう努めよ。それがお前へ課す最初の課題である」
「はい、先生………アウラ・アルファーネです。よろしくお願いします」




