24話
穏やかな揺れを感じながら、アウラは目を覚ます。聞き心地のよい一定間隔の蹄の音を聞き、アウラは小さく伸びをした。
「ふぁ………」
「お目覚めになられましたか、アウラ様」
「ん、おはよ………」
「おはようございます」
寝室を隔てるカーテンの外から、彼女の護衛を任命された騎士が声を掛ける。クレインからの提案でアーレス領への留学を決めたアウラは、彼が治める三大都市の一つ、アストライアへと向かっている途中であった。なお、ニルヴァーナからアストライアまでは2週間ほど掛かるため、決して短い旅ではなかったが。
「アストライアまであとどれくらい………?」
「既に街は見えていますので、もうそろそろ到着するかと」
身支度をしつつ、カーテンの外にいる騎士に問いかける。体の弱いアウラに長旅が負担にならないよう、アルクによって急遽用意されたこの馬車には、ベッドだけではなくソファー、机、収納棚や本棚などが全て揃っていた。
そして、彼女の護衛に選ばれたこの男は騎士団の精鋭メンバーであるケインという騎士であった。また、彼の部下として連れてこられた外で馬車を守る騎士も10人程と中々に多い。
「そっか………」
「実感が湧かないのも無理はありません。アウラ様ほどの年齢で留学など、普通ではあり得ませんから」
「かもね………けど、ボクの悪い癖を矯正してもらうには、早いほうが良いと思う」
「………悪い癖、ですか?」
「うん」
身支度を終えて、カーテンの外へ出るアウラ。そして、ケインの向かいの席に座って話を続けた。
「独学なせいで、知識に偏りがあってね。商人の仕入れに頼ってたら、ボクの足りない部分を補う教本が手に入るとは限らないし」
「なるほど………確かに、独学で剣を学んだ者は、動きの癖が表面化しやすいともいいますからね。それと似たようなものでしょうか」
「多分そうだと思う。まぁ、そうじゃなくてもあの魔術卿に師事出来るなんて、絶好の機会なんだけどね」
「間違いありません」
【賢者】の弟子など、魔術師なら誰しも喉から手が出るほどに欲しい立場なのだから。無論、それはアウラも例外ではない。背中を押してくれた人のために、そして自分のためにも夢に迫るチャンスを逃すわけにはいかなかった。
小さく息を吸って目を閉じる。そうして、アウラの意識は暗闇の中に移っていた。広がる群星が彼女を照らし、世界はまた以前よりもずっと広がっているように見えた。けれど、どれだけ大きくなろうともこの星々は常に彼女の手の届く場所にあり、これからも彼女の道を照らし続けるのだ。
そして、彼女もこれから新たな誕生を見届けるのだろう。星々の間で渦巻くそれを見て、アウラは小さく頷いたのだった。
それからお昼を過ぎたころ、2週間の旅を終えてアストライアへと入っていた。賓客扱いであるため最優先で門を通されると、丁度クレインが彼女たちを迎えに来たところだった。彼の隣にはヘレンおり、挨拶のために降りてきたアウラに笑みを浮かべて手を振っていた。
「アウラ嬢、ようこそアストライアへ」
「アーレス公爵、此度はお招きいただきありがとうございます。今回の経験は、きっと私にとってかけがえのない経験になるでしょう。これからどうかよろしくお願いします」
形式的な挨拶を交わしたところで、ヘレンがアウラに声を掛けてくる。久しぶりに会った彼は成長期の男子らしく背が伸び、アウラの微妙な成長とは大違いであった。
「アウラ、久しぶり。元気にしてたかな」
「うん、久しぶり。元気だったよ」
「それは何より」
久しぶりの再会にその後少しだけ言葉を交わしていると、馬車を守っていた騎士の一人がアウラに声を掛けてくる。
「アウラ様、この後はどうされますか?」
「ん~………アーレス公爵、アルベール様との挨拶はいつ頃になるでしょう?」
「今からでも構わないよ。寧ろ、そのつもりで日程を組んでいるからね」
「承知致しました………じゃあボクは師匠に挨拶をしてくるから、みんなは先に馬車を屋敷に移しておいてもらえる?」
「はっ、承知しました」
騎士は頭を下げて馬車へと戻っていく。それを見送ると、アウラはケインに声を掛けた。
「君は護衛だから基本は一緒になると思うけど………一つボクと約束して。少なくともボクと師匠とのやり取りの間には割って入らないこと。何があっても、だよ」
「しかし、それではアウラ様の身が危ないときは………」
「それは馬鹿にしすぎだよ。相手は魔術卿なんだから、加減を誤ってボクを殺めてしまうなんてあるはずがないと思う」
「それは………はぁ。承知しました」
アウラは満足げに頷くが、ケインは大きなため息をつく。彼女は自分がどれだけ心配されているのかを分かっているのだろうか。という思いもあれば、彼女はそれほど本気で魔術に取り組み、アルク達もそれを応援すると決めたからこそ彼女はここにいるのだから、邪魔は出来ないとも思うのだ。
「では、彼の下へ案内するよ。ついてきなさい」
「はい、ありがとうございます」
クレインに案内され、初のアストライアの街を歩く。その途中、またヘレンと雑談をしながら歩いていたが、クレインはそんな彼女の姿を見て思案する。
(彼女がアストライアに来たことで、もし今何かあればアルファーネ家は必ず私たちの側に着くはずだ。そうでなくとも、今後のアルファーネ家との結束はより強固なものとなるだろう。最も、このような考えはアルファーネ公爵であれば気付いているだろうが………こちらに愛娘の師がいると言うだけでも、彼らは私達を軽くは扱えない)
アウラの可能性を感じたというのは決してただの詭弁というわけではないが、本心を全て語ったわけでもない。それ以外の思惑を抱えていたのは、アーレス家当主としては当然の事であった。
ある意味では、アルファーネ家はアーレス家に借りを作ったという事にもなるのだから。それを理解したうえで、アルク達は娘の選択を尊重することを決めたのだ。
(可能ならば、この機会にアウラ嬢を我が家に取り込んでおきたいが………うむ。下手をすれば、寧ろアルファーネ家との関係が悪化してしまうだろうな。あまり期待するべきではない、か)




