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22話

 そんな未来を、彼女がただ黙って見ているわけがなかった。


「――――"重力加算・二重"」

「がァッ……!?」

「アウラ様!?いったい何を………」


 騎士に警告を受けて両手を上げていた男が、唐突に圧し掛かった重力の力によって地に叩きつけられた。驚いた騎士が振り返ってアウラを見ると、彼女は子供とは思えないほど冷たい空気を纏って男を見下ろしていた。


「その人のポケット、何か入ってる」

「ぽ、ポケット………?」

「多分、魔術が込められた魔石………その商人さんから盗んだ商品の一つだと思う」

「く、そ………ガキ、なんで、それを………!」

「貴様!!アウラ様に向かってなんという口を!!」

「一番に怒るところはそこじゃないと思うけど」


 アウラは呆れつつ、男が下手な動きをしないように若干彼に掛かる重りを増す。決してガキと呼ばれたことへの腹いせではないが、アウラは先ほど『詠んだ』最悪の未来が現実にならなかったことに安堵の息を溢した。


(まさか、こんな風に使える日が来るなんて思ってなかったけど………マイナーすぎて、わざわざ学園でも教えるようなものじゃないし。でも、学んでおいてよかった)


 それは、魔術というにはあまりにも原始的なものだ。『星を詠み、未来を知る』。所詮ただの占いであり、本来なら当たるも八卦当たらぬも八卦といった程度のもの。魔術としての価値は殆どないに等しく、魔術学院ですら殆ど教えるようなことはない魔術であったはずだった。

 だが誰よりも星々と近く、その意志と強く交信するアウラは違う。星によって与えられ、星を宿す黄金の瞳と合わせることにより、それは占いという言葉では済まないほどに正確な未来を映し出していたのだ。だからこそ、彼女の中ではこの右目を『星詠みの瞳』と名付けた。


 アウラの警告を受けて、地面に押し付けられている男のポケットを騎士が漁る。すると、すぐに何か見つけた騎士が声を上げた。


「本当に持ってたぞ!ったく慎重な野郎だ。売ればかなりの値打ちものだが、もしもの時のために自分で持っていたってとこか」

「ち、くしょう………」


 男が悔し気な声を漏らす。この日のために騎士の巡回ルートを調べ上げ、逃走経路や予想外のトラブルが起こった時の備えもしていた。だというのに、それがたった一人の少女に全て台無しにされたのだから当然だろう。盗みをしている時点で自業自得でしかないのだが。


「腕を縛ったら拘束を解くね」

「………すみません。アウラ様が関わらずにいるために、我々がいたというのに」

「仕方ないと思う。魔石なんて普通は分かんないよ」

「では、アウラ様は何故………」

「ん………ちょっと、嫌な予感がしただけだよ」


 こうして、事件はすぐさま解決する。盗まれた商品はすぐに商人に返され、盗人の男もそれ以上の抵抗は諦め大人しく牢に入れられた。本当は昼食を外で食べたかったアウラだが、このようなことがあればそれどころではなく、結局そのまま家に帰ることになったのはやや不満げであった。

 なお、話を聞いたアルク達はアウラが事件に首を突っ込んだことには顔をしかめたが、それでも彼女の活躍によって誰一人傷つかずに事件が解決したのは喜ばしい事であり、軽い注意とそれ以上の称賛を彼女に送っていたのだった。




 彼女の魔術の才能は、既に彼女を知る殆どの者が認めていることだ。ワイバーンの件を知らない者は、この街には殆どいないのだから。しかし、実際には彼女の成長と将来性は彼らの予想をはるかに超えている。

 星々の導きを受けた少女の歩みは、人の常識で測ることなど出来はしなかったのだ。その力を知れば、誰もが羨み求めるであろう『星詠み』の力。だからこそ、彼女はこの事は隠すことにしていた。


「アウラ、最近の勉強はどう?もし必要なものがあったら何だって言ってちょうだいね」

「工房の建築も順調なようだからな。これからが更に楽しみだ」

「立派な魔術師になるって決めたからね。期待を裏切らないように頑張る」

「あぁ、応援しているぞ」


 談話室で親子揃っての雑談。時々リリアがアウラをここに誘っては、アルクも交えて三人でこうして会話をすることがあった。


「そういえば、近々アーレス公爵がこの街を訪ねてくるそうだ。もしかしたら、イヴニール家の事かもな」

「今更そんなことで来るかしら?………何か厄介なことになってなければいいけど」


 そう言って二人は少し難しい顔をする。アウラも面識はないが、その名前は知っている。三大貴族と呼ばれるうちの一つであり、アルファーネ家とアーレス家の関係は比較的良好な中で、アーレス家とイヴニール家は友好的ではない………言葉を選ばずに言えば、敵対派閥と言ってもいい家であった。


 アルファーネ家は基本的には中立だが、アーレス家との関係を考えればややアーレス家側と言ってもいい。だからこそ、その二家の政戦に巻き込まれるのではないかと不安になっていたのだ。


「まぁ、そういった話は私がする。どうあろうとも、私はお前たちや民にとって最善の選択をするつもりだ」

「えぇ、あなたを信じてるわ」

「………」


 と、深刻そうな雰囲気を纏っていたが、アウラの『星詠み』では内容はさほど悪いものではないという結果が出ていた。直近の出来事ではないため詳細は分からず精度も以前ほどではないが、それでも何となくの方向性くらいならば詠むことが出来る。あまり心配はいらないだろうと思いつつ、その日を待つのだった。




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