21話
ある日、アウラの姿は街中にあった。その傍らには二人の騎士が付き添っており、そんな姿は既に街でも見慣れたものになっていた。体が虚弱であるため頻度は多くないが、街を訪れた商人などから新しい魔術書を買えることもあるため、以前よりもこうして自ら街を歩くことも増えている。
「アウラ様、最近の体調はどうでしょう?」
「ん?………ん~、悪くはないよ。でも、やっぱりたまに疲れが出ちゃうことがあるかな」
「そうでしたか。勉強熱心なのは良いことですが、どうかご無理はなさらぬよう」
「うん、ありがと」
にこっと笑みを浮かべるアウラ。その可愛らしい笑顔に、以前までのどこか影があった少女の面影は無かった。騎士達はそんな彼女の姿を見てどこか安心したような笑みを浮かべつつ、アウラは商人の店に入って欲しいと思うような本があるかを探す。
「アウラ様、こちらはどうでしょう?アウラ様にはまだ少し早いかも知れませんが、かの有名なノベナ魔術学院で正式採用されている魔術教本ですので、持っておいて損はないかと」
商品を見ながら悩んでいると、商人が声を掛けてくる。今までも何度か彼から本を購入しており、商人もアウラの趣味についても理解していたため、彼なりにお勧めの魔術教本を幾つか仕入れてきていたのだろう。
「………ううん。それはもう持ってるから………代わりにこっちを買おうかな」
「そ、そうでございましたか………学院の中でも高等授業の内容だったはずですが、アウラ様は流石でございますな」
商人の言葉にアウラは笑みを返す。かなり知識の方向性に偏りがあるとはいえ、彼女の魔術学の飲み込みは凄まじいものがあった。それも全ては自身の夜空をより成長させるためであり、あの日から更に魔術研究に没頭したアウラの世界は、あの日よりも少しだけ広がってより多くの輝きを見せるようになっていた。
「ありがとう。またよろしくお願いするね」
「えぇ、今後ともぜひご贔屓に」
商人に一礼した後、買った本を抱えて商店を出る。目的は達成し、そもそもあまり体力がない彼女はこのまま帰路に着くことにしたが、その途中でアウラが振り返って付き添いの騎士の二人に声を掛けた。
「もうお昼だし、折角なら何か食べてから帰ろうよ。ちょっと疲れちゃったし」
「はは、またまた………領主様に心配されてしまいますよ」
「ちょっとくらい大丈夫だよ。お昼代はボクが持つから、いいでしょ?」
「………まったく。仕方ありませんね」
今まであまり家から出ることが出来なかったアウラが、堂々と外を歩けるようになった嬉しさは騎士たちにも伝わっていた。二人も特にお金には困っていないし、寧ろアウラの帰宅があんまりに遅くなった場合は二人がガイアに注意されてしまうのだが………それでも、目の前の少女の笑顔のためならそれでいいかとも思って頷くのだった。その返事にアウラは嬉しそうに笑みを浮かべ、どこに行こうかと悩み始める。
「どこがいいかなー………ちょっとリラックスできるような雰囲気の場所がいいかな?」
「ははは………あんまり遅くなりすぎないようにしてくださいよ?久しぶりの外出で浮足立つのは分かりますが………ん?」
言葉の途中、先の方で何やら騒ぎが起こっていることに気づく。騎士の二人は同時に頷き、アウラの前に立って盾を構える。少しずつ大きくなっていく声をよく聞けば………
「おい、誰かそいつを止めてくれ!!」
そんな怒声が響き渡る。大きな街であるが故に、こうした多少のトラブルは騎士たちにとっては珍しい事ではない。何が起こったかを瞬時に理解したが、今の彼らはアウラの身の安全が最優先であるため悩む。すると、アウラはそんな二人に声を掛けた。
「ボクのことは大丈夫だから、騎士として民を守ってあげて。ボクだって、お父さんが治めるこの土地で好き勝手は許せないから」
「………承知いたしました」
二人はアウラの傍から離れ、盗人の進路上だと思われる場所に立つ。一般人相手にまだ剣は抜かないが、臨戦態勢だけは取って人々を押しのけながら進む男に怒鳴った。
「止まれ!!」
「ちっ………」
流石に騎士に道を阻まれては足を止める。そして、彼の背後からも恐らく商品を盗まれたのであろう商人………そして、良心から盗人を捕えようと追っていた数名が挟み込む。どう考えても詰みであった。その様子を後ろから見ていたアウラは冷たい視線で男を見つつ、彼女の黄金の瞳が薄く光を放っていた。
「荷物を下ろして両手を上げろ。変な真似はするなよ」
「………」
騎士の警告に、男は大人しく荷物を置いて両手を上げる。それを見た二人が彼の身柄を拘束するために近づく――――その瞬間、男が右手をポケットに入れる。男が何かをする気だと思った騎士たちは咄嗟に離れようとするが、直後に何かが割れる音と共に男の周囲で鋭い風の刃が発生する。
それは周囲にいた騎士や住民たちを切り刻み、賑やかだった街の一角に鮮血が舞い散った。




